ソウルメイト

#魂友


▼ソウルメイト / 馳星周(Kindle版)

やっぱり始まってしまった馳星周強化月間。
「少年と犬」の後に諸々調べてみたところ、氏には「犬」を扱った作品が
多々あるとか。取り敢えず、出版年月がいちばん古いこの作品を選んでみた。

全7篇から成る短編集
サブタイトルは全て犬種で、7種類の犬の飼い主の物語が描かれている。

どれも印象的なエピソードなのだが、いわゆる「オチ」存在しないタイプ
考えてみれば「少年」も同じような構成だが、あちらは連作短編であるが故
に、篇ごとの結末がある程度見えていた。しかし、こちらの作品はラストの
投げっぱなし具合が凄まじく、「その後」に対する想像が広がりすぎる感が。
もうちょっとだけ手厚さが欲しかった気がする。

ただ!
7篇のうちのラスト1篇に関してはその限りに非ず。ある意味でバッドエンド
なのだが、人間と犬の間でしか成立させることの出来ない友情のカタチが、
壮絶なまでに描写されている。従って今回も最後は号泣。涙を流した量は、
もしかしたら「少年」の時より多かったかもしれない。

僕はずっと犬や猫が大好きなのだけど、彼らとソウルメイトとなる権利を随
分昔に失っている。でも、もし許されるのなら人生が終わりを迎えるまでに
もう一度だけ、ソウルメイトに巡り会いたい・・・と思った。

・・・もちろん、次は続編。今度はどれだけ泣くのかな?

ヒポクラテスの試練

#パンデミック


▼ヒポクラテスの試練 / 中山七里(Kindle版)

約4年ぶりのリリースとなる、中山七里・ヒポクラテスシリーズ新刊
メインキャストの一人である刑事・古手川和也の登場する作品は多々読んで
来たのだが、このシリーズの主役にして中山作品でいちばん魅力的だと思わ
れる女性法医学者・栂野真琴の登場は久しぶり。

相変わらず気合いの入った医療ミステリーであり、多々ある「法医学」とい
うジャンルを扱った作品としては、おそらく国内最高峰。解剖シーンのリア
ルさと、遮二無二頑張る古手川&栂野の名コンビの姿がすばらしいコントラ
ストを描く、という構成は、この新作でも全く変わらなかったのが嬉しい。

前作までは連作短編だったのだが、今作は遂に長編。そして凄いのが、扱わ
れている内容が「パンデミック」であるということ。正に今、現実に起こっ
ているコロナというパンデミックの最中に、こういう内容の作品を世に出せ
る作家は「強運」と呼ぶ他無い。

・・・これは今すぐドラマにすべき。
パンデミックの何が恐ろしいのか、今一度再確認できる筈。きっとリアルな
パンデミック対策にもなる筈なので・・・。

少年と犬

#君に逢いに行く


▼少年と犬 / 馳星周(Kindle版)

第163回直木賞を受賞したのは、 馳星周の作品。
これまで何度も同賞の候補に挙がっていた作家だが、遂に至宝に手が届いた
実はこの作家の作品を読むのは、コレが初めてなのだが・・・。

舞台は日本各地。期間は東日本大震災から熊本大地震勃発までの5年間
震災で飼い主を失ったが、ある場所を目指して旅をするのだが、その道程
関わった人たちをそれぞれ主役に据えた連作短編集

文句の付けようのないしっかりした人間ドラマであり、登場する各々の事情
に深く共感せざるを得ない程の圧倒的な心情描写力。それをただ見ている筈
「犬」が、やたら神々しく感じるのだから凄い。

ラストであの頃に起こったいろいろなことを思い出した。
心が苦しくなり、読み進めるのが辛くなり、気が付いたら号泣していた。
小説を読んで泣いたのは本当に久しぶり。もし今回、コレでは無い別の作品
が直木賞を取ったとしたら、僕は選定者の神経を疑うと思う。

こんな凄い作家にこれまで触れて来なかった自分が、ちょっと情けない。
しばらく馳星周強化月間に入るぞ、きっと。

デスマッチよりも危険な飲食店経営の真実

#またくる  ゆるさん


▼デスマッチよりも危険な飲食店経営の真実 / 松永光弘

最凶ステーキハウスオーナーシェフ・松永光弘
自ら経営するステーキハウスの名は「ミスターデンジャー」、今や行列の
絶えない大人気店となったこのお店の経営状況を振り返る繁盛記であると
共に、今後「セカンドキャリアを飲食業界で!」と考える人たちに向けた
指南書でもある。

我々にとって松永光弘とは「デスマッチの神」であり、誰も考えつかない
ことを多々実行してきた尊敬すべきプロレスラーなのだが、今回のレビュ
ーはそのキャリアを敢えて忘れて書いている。というのは・・・。

プロレスラーの経営する飲食店、というのはいろいろあり、ファンはそうい
うお店に足を運びがち。もちろん僕もその中に含まれるのだが、おおよその
お店は1〜2回訪問したところで行かなくなる。しかし、松永光弘が経営する
東あずま・ミスターデンジャーだけは完全に他の店と一線を画す。なぜなら、
純粋に「ステーキが美味しく、安い」のだから。

記録によると、僕が最初にデンジャーに行ったのは、今からちょうど25年前
もちろん松永さんが目当てだったのだが、2回目からは完全に目的が異なった
「都内でいちばん美味しいステーキを食べさせてくれる店」。今でもその思
いは全く変わらず、年に数回は必ずお邪魔させていただいている。

コレを単なるプロレスファンの忖度と取られたら甚だ心外。
僕はこのお店にこれまで何十人という人を連れて行ったのだが、「不味い」
とか「苦手」とか、そういうネガティブな意見を一度も聞いたことが無い
ミスターデンジャーは「確かな味の名店」なのである。

そんなデンジャー、これまで幾つかの徹底的な危機を乗り越えてきた。
狂牛病騒動、リーマンショック東日本大震災、そして今回のコロナ騒動
驚いたことにこの本は2020年の2月に企画され、たった半年で発売された。
だからもちろん「withコロナ」とか「アフターコロナ」等と言われる新しい
時代に対応しているし、イチイチ頷ける話が多々。飲食業界に限らず、全て
の社会人が読むべき本だと思う。

ちなみに昨日届いてたった1日で完読。今はデンジャーのステーキが食べた
くて仕方ない。450gは余裕だな、きっと。

参考:牢獄ステーキハウス・ミスターデンジャー(official)

イダジョ!医大女子

#女子”医”大生


▼イダジョ!医大女子 / 史夏ゆみ(Kindle版)

以前からKindleのリコメンドに度々登場し、長いこと次の候補になってい
た作品。こないだふと気付いたらUnlimited対象になっていたので、速攻
でダウンロード。史夏ゆみ、もちろん初めての作家。

ジャンルで言えば間違いなくお仕事系。職種は「医師」で、それを目指す
若者のお話。主人公はあるキッカケで医者を志し、私立医大へ入学。悲喜
交々いろいろありながらも医師の道へ踏み出す、という内容。

ポイントになるのは、主人公が「女子」であること。まぁ、タイトルから
もそれは明確なのだが(^^;)。この女子医大生、まぁまぁ個性的魅力的
な性格をしており、その言動から目が離せなくなる。さらに医大というか
なり特殊な環境にいながら、大胆に恋愛要素を混ぜているところに感心。
・・・しかし、この恋愛要素にはかなり腹立たしい部分がある、というこ
とだけは一応書いておくべきかも(^^;)。

とにかく、医大という知っていそうで知らない世界の仕組みが非常によく
理解できる佳作。研修医篇と銘打たれた続編も近いうちに読むな、きっと。