氷室京介「LAST GIGS」2016年5月23日(月)。
本日の公演を最後に、稀代のロックシンガー・氷室京介は“引退”。
以降、ライブの場に立つことは二度と無い、と宣言していた。
普通、ミュージシャンに「引退」という概念は無い。
大物であれば大物であるほど年齢の重ね方が上手く、ペースを落としな
がら創作活動を続ける場合が殆ど。もちろん氷室もすばらしい年の取り
方をしており、そういう大物たちと同じ位置に行く、と信じて疑わなか
った。しかし・・・。
おそらく氷室にとって“ライブ”は最上級だったのだ、と思う。
ソングライティングやレコーディングなどのずっと上を行くくらいに。
少年時代の僕らを魅了したBOφWYはまぎれもなくライブバンドだったし、
ソロになってからも氷室はライブの帝王であり続けた。聴覚に障害を抱え
なければ、きっと死ぬまでその位置に居た筈である。
冒頭からBOφWY時代の曲が続けて演奏された時は、さすがに泣きそうに
なった。あの頃と殆ど変わらない動きでステージを跳ね回る氷室に「老い」
は全く感じられなかった。しかし、パフォーマンス中に幾度もイヤモ二に
手をやる姿だけが痛々しい。心臓が締め付けられそうだった。
しかし、終盤に入ってのMCで氷室は「ゆっくりアルバムを創る」と明言。
その一言で救われた。あくまで今回は最後のライブ。氷室が音楽活動を止
めてしまうワケでは無い。だとするなら、違った形でオーディエンスの前
に姿を現す日がきっと来る・・・。そんな気がした。
だって、氷室は今までもこれからも、ずっとライブの帝王なんだから。
そう思ったら、ずいぶん肩の力が抜けた。
そこから、努めて冷静にライブを観ることが出来た。
ソロになってからの氷室から大分距離を置いてきた僕にとって、熱狂する
氷室ファンの姿は圧倒的だった。人生のターニングポイントで僕が崇拝し
ていた氷室京介は、今も何万・何十万もの人の人生に影響を与え続けてい
る。それが確認出来ただけで、このライブを観て本当に良かった、と心か
ら思えた。
水道橋周辺だけでなく、僕の通勤駅や会社最寄りの駅等でLAST GIGSの
Tシャツを着た人たちを多々目撃した。その半分以上は僕と同年代。中年
を通り越し、既に老年期に差し掛かった人たちであった。
あれから僕らはきっと、いろんなモノを切り捨て、いろんなモノを諦めて
生きてきた。でも、氷室の最後は観ないと、終われないよね?
そんな人たちと共に、氷室の見事な最後を目撃出来たことに感謝。
そして、普通なら絶対取れないチケットを取ってくれたWくんにも感謝。
僕はこれで、終われる。