池井戸潤待望の新作はお得意の企業再生モノ。
タイトルの「陸王」とは、埼玉県行田市の老舗足袋製造メーカー、「こはぜ屋」
が新規事業として参入・製作したランニングシューズの商品名。この奇抜な
シューズを軸に展開する、痛快なビジネス物語である。
ハッキリ言うが、これは「下町ロケット」の初作と全く同じタイプの話。
完全なる二番煎じであり、二匹目のドジョウを狙っているとしか思えない。
ところが、この二番煎じがメチャクチャ面白いのだから非常にタチが悪い(^^;)。
要因はいくつかあると思うのだが、まずは会社の規模感。
ロケットの佃製作所も下町の中小企業ではあったのだが、いくつもの特許を所有
するハイテク系であり、従業員も数百人は居る会社。ところが、埼玉県行田市と
いう微妙な地域に本社を構えるこはぜ屋は、社歴こそ100年を超える老舗ではあ
るが、従業員数はお針子のお姉様方を含んで20数名の中小にも満たない零細企業。
主力商品は足袋もしくは地下足袋であり、今この時代に爆発的に売れる商品では
ない。無論、業績はジリ貧。そういう意味で言うと、佃製作所よりも我々庶民が
シンパシーを感じやすい会社であるところがまず一つ。
そして、アイテムに対する親近感。
ランニングシューズやジョギングシューズはロケットエンジンのバルブシステム
や心臓の人工弁よりも確実に身近であり、思い入れを持ちやすい。試行錯誤を重
ねて形になっていくランニングシューズの形状を想像するのは楽しいし、実際に
は存在していない靴に妙な肩入れすら(^^;)。
つまり、下町ロケットよりも全てに於いて「等身大」な話であるところが、
最強の二番煎じを成立させている由縁。いや、やっぱりすげぇな、この作家♪
そして、内容はもちろんワンピースを彷彿とさせる「仲間たち」の物語。
終盤では「足袋屋」を小馬鹿にされると腹が立つくらいのめり込んでしまい
ましたよ、ええ。
ワンピースと言えば、タイトルの「陸王」で“奇跡の王”こと、ドレスローザの
リク・ドルド三世(リク王)を連想。そう言えばあちらのリク王も庶民の英雄
だった。もしや池井戸潤、そこまで計算してたのか??
・・・もちろん、考えすぎだとは思うんだけど(^^;)。