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▼AX / 伊坂幸太郎

伊坂幸太郎の新作は待望の「殺し屋シリーズ」
超一流の殺し屋にして超一流の恐妻家“兜”が主役を張る計5篇からなる
連作短編集。前の3篇は既に短編として発表されているモノだが、残りの
2篇は書き下ろし。この構成のおかげで、ちょっとした長編を読んだかの
ようなお得感すら感じてしまった。

氏のこのシリーズには本当に魅力的過ぎる殺し屋がこれまでも山ほど登場
した。その中でも大人気の“押し屋”こと槿に並び、圧倒的な存在感を誇る
名優・が、何とも言えない魅力を最大限に撒き散らす作品。

このシリーズに詳しい人なら、「兜の嫁最強説」を唱える人も数多く居る
と思う。もちろん僕もその一人である。伊坂作品には「鈴木の嫁」「泉
水兄弟の母」など、最強の嫁候補が何人か居るのだが、現在も確実に“生き
ている”と思われるのは兜夫人のみ。それだけでぶっちぎりでトップを走っ
ている気がするのだが、なによりあの兜が惚れた女性はいったいどういう
人間なのか、その謎の一端に触れることの出来る重要な物語であると思う。

いわゆる伊坂スタイルと呼ばれる妙にシニカルカッコイイ言い回しも多
々。文章はある意味ユーモラスで大いにニヤニヤ出来るのだけど、物語と
してのまとまり方尋常で無いレベル。もしかしたら、これまでの殺し屋
シリーズで「最強」の作品なのかもしれない。

・・・しかしこのシリーズの宿命とも言える展開、もちろんアリ
メチャクチャ面白いのは間違い無いんだけど、やっぱり一抹の寂しさも。
困っちゃうなぁ、こういう読後感(^^;)。