ネメシスの使者

▼ネメシスの使者 / 中山七里(Kindle版)

中山七里の新作。
お馴染みの渡瀬・古手川コンビが活躍するミステリー。故に、通常ならば極上
のミステリーを楽しませて貰うところなのだけど・・・。

前回読んだ「ドクター・デス」同様、この作品もやたらに「重い」
テーマになっているのは「死刑制度」死刑という極刑を配置しながら、何故
だかその判決を避ける傾向にある日本の司法に対するテーゼ、と言った感じか。

死刑判決を受けて当然の罪を犯しながら、無期懲役を勝ち取った凶悪犯たち。
死刑にすべき罪人を悉く無期懲役刑としてしまう裁判官
罪人の無期懲役刑執行後、やり場の無い怒りと絶望にさらされる被害者家族
身内だ、と言うだけで生活の全てを壊される加害者の身内
そして、彼らの狭間に立って苦悩する検察官と、“正義”に翻弄される刑事たち。

・・・まずはこの多様な登場人物たちのうち、加害者以外の誰に感情移入をして
読んだらいいのかを凄く悩む。ストーリーは決して難解では無いのだけど、
そこが確定しないうちに物語はどんどん進んでしまうので、感情のコントロー
が難しくなってしまう。速読を自負する僕だけど、この作品に関しては全く
無理。読中、章が変わる度に心を整理しないと、やりきれなくなってしまうの
だから。

氏お得意のどんでん返し展開もあるにはあるのだが、この作品に関してそこは
あまり重要では無いのかもしれない。とにかく、「考える」ポイントの多い、
ある種の問題作だと思う。

人の命の重さと軽さが交錯する、底冷えするような恐ろしい本
少なくとも現行の死刑制度の在り方一石を投じた内容である事は間違い無い。
しばらく悩みそうだな、この問題・・・。

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