『週刊ファイト』とUWF

▼週刊ファイトとUWF 大阪発・奇跡の専門誌が追った「Uの実像」 / 波々伯部哲也

以前読んだ『痛みの価値 馬場全日本「王道プロレス問題マッチ」舞台裏』
続くプロレス激活字シリーズ第二弾。今回の著者は波々伯部哲也という聞き慣
れない作家さんだったのだが、読み始めてすぐ謎が解けた。
我々の間では既に伝説となっているタブロイド週刊ファイトの元副編集長に
してI編集長の懐刀であった人。こりゃあすげぇ、ということで一気に読んだ。

いわゆる第一次UWFから三派分裂後、そして最近のカッキーエイドのトピック
まで、UWFにまつわるエピソードが多々。かなり踏み込んだ内容なのにもかか
わらず、最近出版されるプロレス本にありがちな暴露系の匂いは全くしない。
その硬派で誠実とも言える文章は正しく週刊ファイトスタイルであり、読んで
いて懐かしさすら感じたほど。

特に第一次UWFという現象を実体験している僕には、当時知り得なかった事実
に心が震えた。あれからもう30年が経過しているにもかかわらず、である。
UWFという運動体のインパクトはそれだけ凄かったのだ、と改めて感じた。

しかし、だ。
良いか悪いかはともかくとして、この本で印象に残ったのは「UWF」ではなく、
「週刊ファイト」という恐るべき媒体であった。ファイトは著名な編集者を
何人も輩出しているが、ほぼ全員が良い意味でも悪い意味でも”クセ者”(^^;)。
しかし波々伯部哲也なら、ファイトの正しい回顧録が書ける気がする。

是非とも次はファイトのみにフォーカスした作品を。
懐かしいなぁ、喫茶店トーク(^^;)。

部屋・アウトサイド

▼部屋<下> アウトサイド /  エマ・ドナヒュー (著)・ 土屋 京子 (訳)

「部屋」、ようやく下巻を読み終えた。
語り部は今回もジャック(^^;)。まぁ、予測していたことではあったのだけど、
このガキの喋り言葉は鬱陶しいことこの上無い。忙しかったとは言え、たった
1冊の文庫を読むのに4日近くを費やした。う〜ん・・・。

サブタイトルは「アウトサイド」
上巻の最後で見事に“大脱走”に成功したジャックとその母親「その後」の話。
一般社会は母親にしてみれば生還だが、ジャックにとっては初めての場所
自我が芽生えてから突然“普通”の生活に放り込まれたジャックの気持ちには
もちろん共感出来ないが、その苦しみだけは手に取るように解る。ただ読む事
しか出来ないのに、強烈な痛さだけは随時襲ってくる。
・・・出るもまた地獄、ということなんだろうか?

そういう意味で凄い作品ではあるのだが、ハッキリ言って順番間違えた(^^;)。
この小説を読んだ後に映像化されたモノを観よう、という気になる人が居る
としたら、その人格を僕は否定してしまうかもしれない。それくらい後味の
悪いストーリーであり、その世界観を思い返すとゲンナリする。

さらに言うなら、翻訳がハッキリと「失敗」と言い切ろう(^^;)。
5歳児の喋り言葉をああいう日本語で表記する、というのは、大きな勘違いの
ような気がするのだが。“知的レベルの高い5歳”日本的な幼児言葉の羅列で
誤魔化すのは正直卑怯だと思うし、もう少し言葉のレベルを上げて表現しても
腕の立つ人なら成立したように思う。
違う訳者の翻訳なら、と考えると惜しいなぁ・・・。

ただ、もちろん万人にはオススメしません(^^;)。
映画先に観ればよかったな、マジで。

部屋・インサイド

▼部屋<上> インサイド /  エマ・ドナヒュー (著)・ 土屋 京子 (訳)

アカデミー賞最有力候補と言われる映画「ルーム」
その原作で、上下巻2冊の大作。ブクログ献本企画に応募し、見事に2冊を
セットでゲット。映画と小説、どちらを優先するか迷ったのだが、取り敢えず
小説の方から読んでみた。

上巻のサブタイトルは「インサイド」
とある“部屋”の中“だけ”で暮らす親子の話で、ほぼ全ての文章は5歳になった
ばかりの男の子、ジャックの語りで進められる。

約9割を占める幼児言葉の羅列は正直苦しく、前段から中盤にかけてはハッキリ
「苦行」であった。ただ、この苦行を続けることで”部屋”の状況が異様である
ことがゆっくりと、しかし確実に解ってくる。全ての状況が完璧に把握出来る
のはもう殆ど上巻の終盤であるが、ラスト30ページ怒濤の展開はスリル満点
事件は一応一段落するのだが、「アウトサイド」と銘打たれた下巻がちょっと
楽しみになってきた。

ただ、語り部がジャックのままだとちょっと苦行は続いちゃうかも(^^;)。
状況が変わってくれるとありがたいなぁ(^^;)。

二重生活

▼二重生活 / 小池真理子(Kindle版)

Kindleストアのリコメンドに出て来た作品。
おそらく「二重生活」という意味深なタイトルに惹かれての衝動買い
もちろん、小池真理子という作家の作品は初めてである。

お気楽な大学院生(♀)が、ちょっとオカシなフランスのアーティスト(こちら
も女性、ソフィ・カルなる多分実在の人物)に影響され、彼女が実践した
“目的の無い、全く知らない人の尾行”を自らも行う、という行為に及んでしまう。
名付けて「文学的・哲学的尾行」。ふとしたことから、近隣に住むサラリーマン
(美人の嫁と可愛い娘に恵まれ、絵に描いたような幸せな生活を送っている男)
が彼女のターゲットになるのだが、尾行中にこの男の不倫現場を目撃してしまい、
主人公はすぐに他人の秘密魅了されてしまう。ターゲットの尾行を繰り返して
しまう主人公だが、続けるうちに自分の生活まで壊れて行き・・・。という内容。

すごく悪意をもったあらすじ紹介だが、ハッキリ言えば「変なストーカーオンナ」
のお話。そもそも、不倫現場を発見した時点で文学的・哲学的尾行として成立する
ワケが無く、以降の尾行は単なるゲスな興味に過ぎない気がする。というワケで、
イマイチ設定には納得が行っておらず、途中で興味は失せると思ったのだが・・・。

なんだろう、このゾクゾクするような緊張感(^^;)。
自分が尾行されていることに気付いた時に感じる「怖さ」は充分に想像出来る。
主人公の気持ちは正直1ミリも理解出来ないが、対象者の得体の知れない恐怖
思うと、先を読まずにはいられない。自分がターゲットであったとして、それが
小娘のワケの解らない戯言によるものだと発覚したら、その時僕は怒るのか
それとも笑うのか・・・。

そんなことを考えながら読んでいたら、何故だか周囲が非常に気になった(^^;)。
誰かに意味無く尾行されてないか、電車の中でで注意を払ってしまう僕が居た。
・・・やられた、ってことなんだろうなぁ、きっと(^^;)。

おそらくこの作家の「次」を読む機会はしばらく無いと思うのだが、この作品
は心に留めておく。ただ、二重生活というタイトルに深い意味は無かったな、
きっと。そのへん、ちょっと読み違えました、ええ。

被疑者04の神託

▼被疑者04の神託 煙 完全版 / 松岡圭祐(Kindle版)

またもや松岡圭祐初期作品
こちらも完全版と銘打たれた電子書籍で、ルーツを調べると単行本「煙」から
文庫で大幅に加筆修正された「伏魔殿」、そしてこの「被疑者04の神託」と3度も
リニューアルが繰り返されている。タイトルばかりか内容も、結末まで違うとか。
とにかくこの完全版を読んでみた。

ストーリーをものすごく簡単に言うと、初老の冴えないタバコ屋が古来より伝わる
地元の行事、「諸肌祭り」「神人」を努めるに至った経緯および顛末。

ちょっと解説。
諸肌祭りの神人は毎年一人選定され、厄除けの象徴としてほぼ裸で大衆に晒される。
神人に触る為に、同じく裸同然の男たちが全国より何千人も集まり、祭り開始と
同時に神人めがけて殺到する、という恐ろしいモノ。群衆の暴力に立ち向かう神人
は地元の英雄とされる、という感じ。もちろんこの祭りはフィクションだが、モデル
になっているのは愛知県稲沢市で行われている「国府宮はだか祭り」。実際に凄く
男臭い、勇壮な祭りだそうな。

そしてこの作品なワケだが・・・。
重すぎ(^^;)。いやもう、圧迫感やら焦燥感やらが本当に尋常じゃ無いくらい迫っ
てくる。正しく人間のクズ的な世捨て人生活を送っている主人公のタバコ屋の存在
にマジでイライラするし、その生い立ちに自分を重ねて更にイライラする(^^;)。
そして作中に山ほど出てくる喫煙シーン。重要な部分なのだけど、描写の仕方が
あまりに酷い(^^;)。間違っても喫煙者が擁護される事は無いと思う。

そういったクソ重い部分9割を占めているのだが、ラストのまとめ方が絶妙
実は文体を重くした上で読者を文字通り「煙」に巻き、意外性を出す、という計算
され尽くされた作品。読書開始時はかなりキツかったのだけど、読了後はそれなり
爽やかさまで感じちゃったのだから、脱帽するより他無い。

ただ、展開が派手になるところまで読み続けられる人が何人居るのか(^^;)?
根性を試される作品。あ、通常の松岡作品ファンには辛いです、きっと(^^;)。