水鏡推理2

▼水鏡推理2 インパクトファクター / 松岡圭祐(Kindle版)

美人国家公務員(一般職・女性)・水鏡瑞希が活躍する推理モノ第二弾
ノーベル賞モノの論文科学誌に発表し、一躍時の人となった女性研究者
は、瑞希のかつての幼なじみ・如月智美。智美のやや暗い過去を知ってい
る瑞希は、どうしても世紀の大発見を懐疑的にしか見られない。そして、
世間も捏造を疑いだし、ついに瑞希の所属する「研究における不正行為・
研究費の不正使用に関するタスクフォース」も動き出す・・・という内容。

ハッキリ言おう。
この物語が生まれたきっかけは、リケジョの星と一瞬だけ世間にもてはや
されるも、すぐさま奈落の底にたたき落とされ、未だに踏みつけられてい
“STAP PRINCESS”こと、小保方晴子の存在で間違いない。
研究者・智美を取り巻く環境やディティールもあの事件に凄く近いモノを
感じるし、徐々に孤独を強いられて行く様もあの時の晴子を彷彿とさせる。
全くのフィクションなのに、ノンフィクションであるかのような臨場感。
これでおもしろくないワケが無い。

副題の「インパクトファクター」という耳慣れない言葉も重要なポイント。
現在の科学が置かれているリアルな現状が、なんとなく解ってくる。

そういうワケで今回も読み応えたっぷりなのだが、前作を全く引きずって
いないのはちょっと問題(^^;)。初回の登場人物で出番があったのは主人公
のみ。あの魅力的なキャラたちが一切出てこない、というのは、ちょっと
寂しい気がする。

まぁ、シリーズが進むに従い、過去キャラとの邂逅もあるんだろうなぁ、と。
とにかく3巻にも大いに期待します!

ふる

▼ふる / 西加奈子

直木賞受賞時のコメントを聴いて以来、「近いうちに必ず読むべき作家」
なっていた西加奈子作品に遂に手を出す。以前アンソロジー内の短編で一篇
を読んだのだが、いわゆる長編は初めて。

表紙はひらがな二文字のシンプルなタイトルに、かんたんな線で描かれた
帯には『私は「いのち」のことが書きたかった。』という印象的なキャッチ、
そしてこれ以上無い笑顔を浮かべる作者本人。・・・さて、これは???

誤解を恐れずに言うのなら、自分勝手「散文」と言った趣の内容。
その手の作品は正直あまり好きではない。苦手な大阪弁も多々登場するし、
個人的には「ダメだぁ〜!」となるタイプの作品なハズ。しかし・・・。

文章全体に妙なリズムがある。
忌野清志郎のスローなメロディを聴いている時と同じ感覚、と言ったら褒め
すぎかもしれないが、惹き付けられる何かが確実にある気がする。

帯にあった「いのち」の正解は人の数だけあると思うが、西加奈子は自信の
「いのち」を得体の知れない説得力プレゼンする。なにがなんだか解らな
いうちに気持ち良くなり、知らないあいだに魅了されてしまった感。

西加奈子、彼女もまた逸材
それが100年に1人のレベルなのかどうかは、幾つか他を読んで判断する。
おそらく、僕の予想は間違っていない気がするけど。

幸せのかたち

▼幸せのかたち / 松村比呂美(Kindle版)

調子に乗って松村比呂美作品をもう一つ。
他に比べてタイトルがいちばん普通だったこの作品を選んでみた。

主人公は3名。もちろん女性。もちろんいろいろワケあり(^^;)。
どんなワケがあるのか、を書いてしまうと完全なネタバレになってしまう
ので、詳細は省くしか無いのだが、女性特有の冷酷さが要所をチクチク突
いてくる流れは本作でも健在である。

タイトルにもちゃんと意味があり、三人三様「幸せのかたち」が描かれ
ているのは間違い無いが、読了後にもう一度考えてみるとソレが非常に
ということに気付く、という、良い意味で意地悪な構成。

しかし今回はちょっとだけ食い足りなかったかも。どうせならもっと強烈な
ラストでも良かったし、なんならあと30ページくらい長くても良かった気が
する。それだけ退屈せずに一気に読める佳作、ということだとは思うが・・・。

とはいえ、サイコテイストサスペンス好きにはかなりオススメ。
やっぱりハマったな、この作家。

果実の誤解

▼果実の誤解 / 松村比呂美(Kindle版)

短期間で3つ目、ちょっとハマった松村比呂美の作品。
こちらは全6話の短編集だが、電子書籍オリジナルらしい。Kindleのヘビー
ユーザーとしては、こういう付加価値がちょっと嬉しかったりする。

内容はどれも基本はホラーで、どの篇も主人公は女性
各篇のタイトルに果物(「溶ける日」除く)が配置されており、それらが
絶妙な不気味さを増進する。そして「後を引く」系の話が多く、彼女らの
その後を想像するだけで背筋が寒くなる程。

今作では単に怖いだけではなく、最終話の「マスカットの空」では、ちょ
っとした幸福感まで出してきた。この作家、やっぱり只者では無い。

しばらくの間、読む本に困った時は「Kindleストアで松村作品」が定番に
なりそうな気配。男性の僕でも充分楽しめるのだが、もしかしたら女性の
方が10倍共感出来るかも。オススメです、松村比呂美。

キリコはお金持ちになりたいの

▼キリコはお金持ちになりたいの / 松村比呂美(Kindle版)

松村比呂美作品。
短編集「女たちの殺意」が良かったので、それっぽいタイトルの作品を
Kindleストアでサクッと購入し、読んでみた。

・・・斬新(^^;)。ここから先はネタバレ注意にて。

性悪な女性が主人公、という話は普通にたくさんあるが、そんな女である
キリコが最後の最後までずっと性悪なまま終わる、という、ある意味非常
潔い作品。主人公は作中で一切ブレることなく、目標に向かって緻密に
周囲の人たちの感情をコントロールしていく。その様はかえって気持ち良
いくらい。

途中、登場人物の一人にやたら腹の立つ男が出てくるが、終わってみれば
単なる小悪党。キリコという大ヒール、僕は好きです。

ダークな話ながら、一気に読ませるテクニックは一読の価値あり。
もう少し読んでみようかな、松村比呂美。