さよならの手口

▼さよならの手口 / 若竹七海(Kindle版)

若竹七海女探偵・葉村晶シリーズ第三弾
またもや順番を間違えたらしく、第二弾を読む前にコッチを読んじゃった
のはご愛嬌、ということで。

こちらは長編「依頼人」ではギリギリ20代だった主人公・葉村晶も介護
保険の徴収対象に(^^;)。環境も完全に現代になっており、この年代の女性
らしく近代機器(^^;)のスマホ操作に四苦八苦。探偵一時休業しており、
現在の立場はミステリ専門書店のアルバイト。シェアハウス住まい独身
というのが初期設定。

書店でのアルバイト中、文字通り「降ってて沸いたような不幸な事件」
巻き込まれ、入院したのが運の尽き(^^;)。同室の老婆から調査を依頼され、
渋々ソレに首を突っ込んだところ、これがあまりに深い事件で・・・といった
内容。

とにかく感心したのは、ありとあらゆるミステリの手法が百科事典の如く
登場してくること。そして長編らしく伏線も随所に散りばめられ、ラスト
近くでほぼ一気にそれが回収されている、という、ミステリファンにとっ
ての「爽快」を感じさせてくれる物語。決して大ハッピーエンドではなく、
扱われている事件もやや暗めなのだが、前述の通り読後感は決して悪く無
いのだから凄い。

短編で感じた「中途半端さ」は見事に消え、全てがスッキリするミステリ
ーの王道と言って良い内容。このシリーズ、僕にとっては“長編≧連作短編”
なのかもしれない。

こうなったら順番関係無く、しばらく葉村晶にハマってみるつもり。
取り敢えず、次はどれにしようかな?

依頼人は死んだ

▼依頼人は死んだ / 若竹七海(Kindle版)

読むべき本を殆ど読んでしまったため、現在軽い読書エアポケット状態。
こういう時は新規開拓、ということで、おもしろそうなミステリーを物色。
吟味した結果、評判の良い若竹七海作品のシリーズモノをチョイス。名前は
良く聞く作家だが、僕はおそらく初めて。

タイトルが印象的な女探偵・葉村晶シリーズ第一作とされる作品。
8編から成る連作短編集で、どの編もフリーの女探偵・葉村晶「妙な殺人
事件」に巻き込まれ、やや“仕方なく”それらを次々解決していく物語。

話の構成はしっかりしており、整合性という部分では全く文句が無い。いく
つかの編では巧妙な叙述トリックが用いられ、唸る場面も多かった。だけど
この作品、ミステリーにはよくあるパターン「結末を読者の解釈に委ねる」
タイプ。もちろんオチはちゃんと付いているのだが、もう少し結末が具体的
な方が僕の嗜好には合うような気がする。

ただ、けっして「つまらない」、というワケでは無い。
主人公が女性だと感情的な部分でいろいろとっちらかる場合が多いのだが、
行動・態度に一貫性があり、彼女の存在だけできっちり「ハードボイルド」
が成立しているのは、大きなポイント。こういう系統の作品が好きな人は
絶対にハマる気がする。

・・・で、後から気付いたのだが、また読む順番をちょっと間違えた模様(^^;)。
葉村晶が登場する作品はコレの前に2作品あるらしい。このまま続きを読む
か、それとも過去に遡るべきか・・・。ちょっと悩むなぁ、コレは。

屍人荘の殺人

▼屍人荘の殺人 / 今村昌弘(Kindle版)

何故だか毎年購入している宝島社「このミステリーがすごい!」
愛称「このミス」2018年度版で、国内作品1位を獲得した新人作家作品
作者の今村昌弘はこの作品でこのミス1位だけでなく、第27回鮎川哲也賞
週刊文春ミステリーベスト第1位を受賞。いわゆる三冠王である。

・・・と言いながら、実はそれほど期待せずに読み始めた。
というのも、歴代のこのミス1位作品はおおよそ読んでいるのだけど、ハマ
るモノとそうでないモノの落差が激しかった所為。まぁ、面白かったら儲け
もの、という感覚にて。

いわゆるネタバレがあると致命傷になる作品なので詳しい説明は敢えて省く
が、ざっくり言うと「本格的な密室ミステリと超B級ホラーの融合」。ちょ
っと間違えるととんでもない内容になりそうな、非常に危険なコラボレーシ
ョンなのだが・・・。

その部分はなかなか見事にまとまっている。ミステリー好きには邪魔になり
そうなホラー要素が、邪魔どころか事件を展開させる重要なアイテムと化し
ているのだから、構成力・筆力はかなりのレベル。しかし・・・。

・・・結果として「つまらなくは無い」(^^;)。
いや、どちらかと言えばかなり面白い内容だとは思うのだけど、肝心の
「密室」の設定がちょっと解り辛いのが難点。綾辻行人作品のように、最初
にしっかりした現場の見取り図こそ付いているが、何かが起こる度にアレ
見返すのは非常に辛い。これは作者の所為では無く、単にKindle版を選んで
しまった僕のミステイク通常の書籍だったら、こういう感想では無かった
かもしれない。

しかし、重要と思われる登場人物があっさり死んだり、思いもよらないトリ
ックで実行される殺人など、評価すべき部分も多々。特にクライマックス
盛り上がりは尋常では無く、後半になればなるほど読む手が止まらない。
今村昌弘、今後が非常に楽しみ。

ちなみにこのミス2018の中には、他にもちょっと興味のある作品が。
やっぱり便利なんだよなぁ、あのムックって・・・。

クリスマスを探偵と

▼クリスマスを探偵と / 伊坂幸太郎&マヌエーレ・フィオール

伊坂幸太郎著作としては初となる「絵本」
小説自体は2010年企画本にて発表されており、Kindleシングルでもリリ
ースされている有名な短編。何故に有名なのかというと、この作品が実質
伊坂幸太郎の初作品であるから。

というわけで、レベルの高いファンタジーであることは最初から知ってい
たのだが、これに差し込まれているマヌエーレ・フィオールイラスト
すばらしい。誤解を恐れずに言うのなら、タッチはゲームのレイトン教授
+寺田克也の良いとこ取り、といった雰囲気。初作から“らしさ”を醸し出
している伊坂幸太郎の文章と絶妙すぎるマッチング。完成度は異様に高い、
と思う。

ただ、問題なのは対象年齢・・・かなぁ(^^;)。
体裁は絵本だしすごく素敵なストーリーだから、子どもたちに是非読んで
欲しい!・・・と言いたいところだが、物語の入り口がちょっとアダルト過ぎ
(^^;)かもしれない。個人的にはR-10かなぁ・・・。

なのでこの絵本、小学校4年生になったら読むべし!
当然オトナの人たち、特に伊坂フリークの皆様は必読にして必携です。
・・・クリスマスにレビューすれば良かったな、コレ(^^;)。

アナログ

▼アナログ / ビートたけし(Kindle版)

発売当初から話題になり、年内に絶対読もうと思っていたビートたけし
書き下ろし小説。な、なんと、純愛路線恋愛小説だったりするから凄い。

インテリアデザイナーの青年が、行きつけの喫茶店で知り合った謎多き女性
に恋をする話。二人は強烈に惹かれ合っているにもかかわらず、名前以外の
お互いのパーソナル情報(メールアドレス、電話番号、LINEのID、そして名
字まで)を全く知らない。いや、敢えて知ろうとしない。毎週木曜日の夕方
に、この店に来れば会える・・・だけを頼りにしたなんとも頼りない恋愛模様
しかしデジタル全盛のこの時代に、あまりにアナログな関係は、逆にしっか
りとしたを作っていく・・・。

・・・なんともまぁ、気恥ずかしいくらいの恋愛小説(^^;)。
普段の僕なら絶対に手を出さないし、読んだとしても途中で止める可能性は
低くないジャンルの読み物なのだが、コレをたけし大先生が書いた、という
事実があまりに面白い

この作品、男女の間柄だけではなく、男同士の友情会社内の人間関係など
もある程度深く掘り下げられているのも凄い。破天荒で波瀾万丈な人生を歩
んで来た筈のたけしさんが、いわゆる市井の人間の内面を(おそらく)想像
だけで書いたモノに鋭く共感してしまうのだから、やっぱり天才。改めてそ
の才能に舌を巻いてしまった。

おそらく、どの世代の男女が読んでもそれなりにグッとくると思う。
こういう人が東京五輪のプロデューサーをやってくれればいいのになぁ・・・。