作家刑事毒島

▼作家刑事毒島 / 中山七里(Kindle版)

中山七里作品。
氏のこれまでの作品、どちらかというと「本格ミステリ」の色合いが濃く、
僕自身もその手のエキスパート、という感じで読んでいたのだが、ちょっと
考えを改めなければならないかも。ハッキリ言おう、大問題作です、コレ(^^;)。

誤解を恐れずに言うのなら、文壇系ブラックユーモアミステリー
元警視庁捜査一課で現在は売れっ子ミステリー作家毒島が、古巣の捜査協力
依頼を受けて活躍する物語。この作品で起きる事件は全て文壇・出版が関係し
ており、被害者・容疑者のほぼ全員が作家かその関係者。卓越した推理力と、
作家ならではの嗅覚で事件は次々に解決していくのだが、この毒島が超の付く
皮肉屋(^^;)。全編が黒い笑いに溢れており、つられてこちらも苦笑してしまう。

ここまで読んでお解りの通り、内容は文壇及び出版業界を強烈に皮肉ったモノ。
読んだ人なら誰でも解るくらい明確にラノベ作家・新人作家・素人書評家・作
家志望者などをディスりまくっている。もちろん直球では無く、ある程度オブ
ラートで包んだような表現を多用してはいるのだが、それはあくまで形式的
モノ。中山七里にこういう「毒」があるとは、夢にも思いませんでした♪

無論、この手のブラック系は僕の大好物。何人もの人間がかなり悲惨な死に方
をするにもかかわらず、最後までニヤニヤしながら読了してしまったのだから
凄い。“裏・中山七里”の世界、堪能させていただきました!

・・・しかし、ちょっとだけ胸が痛んだのは“素人書評家”の出てくる件。
僕が読んでいても「痛いな、コイツ」と思うような行為なのだが、ちょっと考
えてみるとコレは僕が今まさに書いているコレであったりする(^^;)。
・・・自重しとこうかな、ちょっとだけ(^^;)。

こち亀の終焉によせて

「こちら葛飾区亀有公園前派出所」、通称“こち亀”が、先週土曜日に発売され
週刊少年ジャンプ最終回40年の間、一度の休載も無く続いた連載マンガ
が、遂に終焉を迎えた。

驚いたのは最終回に対する出版社の「演出」
ジャンプ本誌コミックス最終巻となる200巻を同時発売し、最終回の内容が
それぞれ違う、という、驚愕の仕掛けを施した。出版物としてはあまりに派手
既に国民的なマンガとなっているこち亀に対しての、集英社の「愛」を感じ、
思わずジ〜ンと来た。

ちなみにジャンプ本誌、そしてこの40周年記念特装版の200巻、双方共に軒並
売り切れ。僕は大手町駅構内の本屋でどうにか手に入れることが出来た。

最終回の内容については、多くを語る必要は無いと思う。
これまでのこち亀の在り方を考えれば、最後の回を無理に泣かせる必要は無い
し、物語にケリを付ける必要も無い。僕の考えでは、アレがベストだと思う。
あの終わり方ならば、あのメンバーがある日ひょっこり帰って来ても誰も文句
を言わないと思うので。

・・・ひとまず、ひとまず言わせて貰います。
秋本治先生、本当に40年間お疲れ様でした。もちろん休んで貰って全然構いま
せんが、今後こち亀を書きたくなるようなことがあれば、どの媒体でどんな長さ
でも構いません。書いてください
40年読んで来た我々は、普通にこち亀に再会出来ると信じているので。

▼40周年記念特装版・こち亀200巻 / 秋本治

いかがわしい経験をしまくってみました

▼実録!いかがわしい経験をしまくってみました / 藤山六輝(Kindle版)

昨年読んだ「海外アングラ旅行」の作者、藤山六輝の作品。
この手の実録モノは個人的に好き嫌いがハッキリ別れるのだが、この人の文章
はわりと僕に波長が合う模様。たまたまKindleストアでセールになっていたの
で、久しぶりに読んでみました♪

このノンフィクション、なんか凄いです(^^;)。
タイトルからすると雑誌か何かの企画で「いかがわしい体験」をし、それを
まとめたルポのような気がするのだが、ここに書いてある殆どの事実は著者自
らが自分で選択した状況(^^;)。エロ本の編集者になるのも、格闘家に本気で
殴られるのも、怪しい芸能事務所に所属するのも、ヤクザに軟禁されるのも、
自身の選んだ道であり、下手すれば著者の「半生記」みたいなモノ。それだけ
に内容はかなり生々しく、ある場面では著者に対するリスペクトすら生まれて
くる始末。まぁ、ある場面では「絶対真似したくない」と思った部分もあるの
だが(^^;)。

取り敢えず僕は、藤山六輝という作家をアングラ系フリーライターの見本のよ
うな人、と位置付けたく。実話系やウラモノ系、アングラ系の雑誌が大好物の
人は、買って損は無いと思います。

次回作も読んじゃうだろうなぁ、きっと♪

或る集落の●

▼或る集落の● / 矢樹純(Kindle版)

奈良出張からの帰宅時、新幹線に乗車する前にKindleストアで購入したモノ。
「ホラー」というキーワードで検索し、タイトル内の「●」に惹かれた結果。
矢樹純はもちろん読んだことも聞いたことも無い作家だったのだが、これが・・・。

青森県のある集落を舞台としたホラーで、形式は連作短編。章ごとに語り部は
変わるのだが、共通の登場人物がひとり。やや淡々とした心情描写で物語は進
むのだが、とにかくゾワっとした悪寒が治まらない。やたら怖い

名言こそされいが、タイトルの「●」にもちゃんと意味があり、そこらへんに
ゴマンとある同種の作品とは完全に一線を画す、気合いの入ったホラー
それだけでなく、最後にはちょっとした切なさすら感じる。最近読んだこの
ジャンルの作品の中では群を抜いた説得力を有する、凄い作品だと思う。

この作家、実の妹とタッグを組む漫画原作者らしい。
言われてみればこういう不思議な話は二次元での表現にも凄く向いている気が
するし、もしコミカライズされるのであれば間違い無く読んでみたい気が。

かなり良い作家を発見したかも。
取り敢えずKindleストア内の作品を片っ端から読むことにします!

ヒポクラテスの誓い

▼ヒポクラテスの誓い / 中山七里(Kindle版)

わりとご無沙汰の中山七里作品。
タイトルの「ヒポクラテスの誓い」は、古代ギリシャの医師、ヒポクラテスが
医師の職業倫理について書いた宣誓文。いわゆる“戒め”の類いであり、医大と
名の付くところならどこでも1枚は掲示されている文章らしい。

冒頭、不本意な異動となった研修医准教授は問いただす。
「この誓いの中で、患者を生きている者と死んでいる者とで区別していますか?」
と。そう、舞台は法医学教室。傑作医療マンガの「きらきらひかる」や、米国
の人気ドラマ「CSIシリーズ」等と同じ系統の、”死体の声を聴く”系の物語である。

久々に骨のある医療ミステリーを読んだ感。
専門用語も多々飛び出すが、それら全てに不自然でないサラッとした説明がしっ
かり付いてくるため、読中に混乱することはまず無い。死体を解剖する、と言う
下手すれば非生産の象徴とも取られかねない行為の重要さがヒシヒシと伝わって
来る。

それだけでなく「遺体を解剖に回す」という行為を嫌いがちな日本人のメンタル
にまでキッチリ踏み込んでおり、ヒューマンドラマとしての読み応えも充分。
さらに「切り裂きジャック」の若手刑事・古手川和也もキーマンとして再登場し
ており、いろんな意味でファンを裏切らない傑作と言って良いと思う。

これは映像で観たいなぁ、と思っていたら、10/2よりWOWOW連続ドラマW
の枠で放映される模様。こっちも要チェック。北川景子に全てが掛かってる!