プロレスという生き方

▼プロレスという生き方 – 平成のリングの主役たち / 三田佐代子

三田佐代子とは、おそらく日本で唯一プロレス専門ニュースキャスター
20年前に“スカイ”が付く前のパーフェクTVで開局したプロレス・格闘技専門
チャンネル「ファイティングTVサムライ」のメインキャスターであり、同局
アイコンでもある。

プロレスファンという特殊な人種は、プロレスに関する全ての情報を多方面か
ら積極的に入手する傾向がある。無論僕もその中の一人であり、サムライTV
も開局から今までをずっと視聴し続けている。開局当時からサムライの目玉は
2つ。1つはもちろん試合中継なのだが、もう1つは毎日(現在は月水金)
放送されるニュース番組。そこに抜擢されたのが、古館プロジェクトに所属す
元テレビ静岡アナウンサー、三田さんだった。

開局当初の三田さんは・・・正直、酷いモンだった(^^;)。
それまで全くプロレスを知らなかったのだから無理も無い。技の名前はもちろ
ん、選手や団体の名称のイントネーションすら怪しい。失礼を承知で言わせて
貰うが、当時は「この人、いつまでもつのかなぁ?」と思っていた。

ところが!
そのあたりの違和感は、約1週間で完全に払拭されてしまったのだから驚く。
2週間後には表層をなぞる、という感覚がほぼなくなり、全く新しいジャンル
だったプロレスニュースバラエティという番組を完璧に回していた。もっと
驚いたのは、キャスター就任後1ヶ月を過ぎるあたりから、立ち居振る舞いに
我々と“同じ匂い”を醸し出していたこと。三田さんは、驚くべき速さで我々の
代弁者となっていた。

実はちょうどその頃、ある仕事で三田さんご本人にお会いしたことがある。
正直、思い出すのも腹立たしいくらいのサイアクなイベントであり、僕の中で
は黒歴史と言える程。クライアントはもちろん、僕も含めた運営サイドもグタ
グタであり、その日をキチンと終われるかどうかも不安な仕事だった。そんな
イベントで司会を務めてくれたのが三田さんであり、彼女だけが唯一のプロフ
ェッショナルだった。数十分の打ち合わせで大筋を把握し、出演者のコメント
を巧に引き出す。そして押すのが確実だった本編をキッチリ時間通りに終わら
せてしまった。まるでニック・ボックウィンクルの世界戦のような仕事ぶり。
失礼だが、その男らしい佇まいにちょっと憧れさえ覚えたほど。

三田さんに「301(当時のチャンネル)いつも観てます!」とご挨拶したの
だが、目つきが一瞬で優しくなったのを強烈に覚えている。当時、サムライで
僕の先輩がディレクターをやっており、その話題で数分盛り上がった。
この人、本当にプロレスが好きなんだ・・・そう確信出来たのが妙に嬉しかった。

そして、そこから20年間(!)、三田さんはサムライの象徴であり続けた。
キャスターとしての技術は年々洗練されて行き、扱いの難しそうな選手から
も必要なコメントを必ず引き出す。ここ20年で団体や選手との距離感はかな
り近くなって居る筈なのに、番組では絶対に一線を越えず、客観的な位置に
立ち続ける。今の三田さんに対する我々の信頼度は圧倒的に高い。

この作品はそんな三田さんが20年寄り添ったプロレスについて書いた本。
慶応卒の才媛であり、テレビキャスターでもある三田さんの文章は淀みが全
く無く、タイムラインに間違いや無理は一切無い。それでいてプロレスに対
する愛と説得力に溢れているのだから、面白く無いワケが無い。

三田佐代子という特異な天才が、プロレスの世界に居てくれて本当に良かった。
改めてそう感じさせてくれる、凄い作品である。

プロレスファンなら、もう間違い無く鉄板で楽しめる。
しかし、どうせならプロレスとなんの関係も無い人に読んで欲しい。もしかし
たら、そういう人たちの何人かが明日どこかの会場に出掛ける可能性も充分に
ある気がするので。

病む月

▼病む月 / 唯川恵(Kindle版)

お約束になってきたKindleストアリコメンド購入
唯川恵という作家はもちろん初。タイトルが凄く印象的だったので購入。

ヒューマン系短編集であり、全10篇を収録。主人公は基本ワケアリの女性
ばかり。共通項は舞台が石川県金沢市である、ということ。
・・・ちなみに金沢の人はアタマに“石川県”を付けると何故かソレを否定する
傾向アリ(^^;)。僕の友だちだけかもしれないけど(^^;)。

こちらの作品もオチを読者に想像させるタイプ。全体的に物語のトーンは暗く
サイコサスペンス寄りの話が多々。エピソードのその後を考えると若干惹いて
しまう(^^;)のだが、どれもそこまで想像させてくれるくらいのレベルである、
ということ。文章に淀みが無く、スルスル読めるのもポイントが高い。

印象に残ったのは最終話「夏の少女」
他と同様に暗い話ではあるが、最後の最後で爽やかな気分にさせてくれる。
ラストだけこういうエピソードにする、というある種のあざとさを、逆に
微笑ましく思う。こういうスタイル、キライじゃないです。

今年は金沢に出張する予定あり。観光資料としては殆ど役に立たなかった(^^;)
が、名前の出て来た繁華街には行ってみようかと。あと、ガスエビ食いたい!

PARマンの情熱的な日々

▼PARマンの情熱的な日々(1)-(4)

藤子不二雄Ⓐ先生、いまのところの最新作である「PARマンの情熱的な日々」
を、1巻から4巻まで一気に読んでみた。
明らかにこないだ読んだ「81歳いまだまんが道を・・・」に引き摺られた結果。
Ⓐ先生の作品には、そういう魔力のようなモノが確実にある。

2007年ジャンプSQの創刊時から連載(!)を開始し、2015年12月まで続け
られたⒶ先生日記のような作品。文章と絵の割合はほぼ半々であり、他の作品
と比較すると間違い無く“緩い”のだが、そのユルさを表現する作業がかなり緻密
全く手を抜かないで“手抜き感”を表現しちゃうのだから、生来のヒネクレ振り
やっぱり半端じゃない。藤子不二雄Ⓐのファンとしては、それが本当に嬉しい。

そしてこのキュートな作品をずっと大事にしてくれている集英社・ジャンプSQ
にも、最大限の感謝を。売れている雑誌を作っている会社はやっぱり懐が深い。

今年に入ってから療養中のⒶ先生だが、ある日当たり前のようにこの連載は再開
される、と根拠無く信じている。それまでゆっくり休んで貰い、気が向いた時に
もう一度描いて貰えれば。

Ⓐ先生の新作が読める、という事実だけで、我々はかなり幸せだ。

81歳いまだまんが道を・・・

▼81歳いまだまんが道を・・・ / 藤子不二雄Ⓐ

2012年に出版された単行本「78歳いまだまんが道を・・・」の文庫版。
著者は藤子不二雄Ⓐ。昭和の時代に生まれた日本国民であれば、誰もが
その名を知っている「生ける伝説」史上最高の漫画家の一人である。

Ⓐ先生の「まんが道」は、僕のバイブルと言って差し支えの無い青春群像劇
の傑作。自らをモデルとした満賀道雄の成長物語であり、ここでの満賀は
あまりにも“等身大”の青年として描かれている。本名で登場する手塚治虫
石ノ森章太郎赤塚不二夫、そして才野茂(a.k.a.藤子・F・不二雄)といっ
天才たちに囲まれ、彼らとの才能の差に苦悩しながらも、しっかりと着実
にまんが道を歩んでいく様に、同じく凡人である我々は何とも言えない共感
を覚え、その世界から離れられなくなる。

そして僕はいつも改めて気付く。
時代が進み、年齢を重ねても薄れないインパクト、そして麻薬に近い中毒性。
そんな作品を未だに生み出し続ける藤子不二雄Ⓐこそが、上記の天才たちの
更に上を行く孤高の天才であることに。

そんなⒶ先生の自叙伝は「まんが道」はもちろん、これまでに数十冊を読ん
でいる。この作品でも他作品で既に知っているエピソードが多々出てくるの
だが、そのたびに「まんが道」で読んだ場面を思い出してニヤッとする。
特に偉人伝の域に達しているトキワ荘時代の記述は秀逸で、このくだりに関
しては同じ話を何百パターン読んでも飽きない自信がある。

この文庫には単行本の刊行から3年分の「まんが道」が長い“あとがき”とし
て掲載されている。こういう形で今も進化し続ける作品を現在進行形で魅せ
てくれる偉大な才能の存在に、感謝の念が絶えない。

Ⓐ先生も今年で82歳
ここ数年ご病気の報なども聞こえてくるが、願わくばあと18年、100歳
では現役を続けて欲しい。いや、もちろんそれ以上でも何の問題も無い。
藤子不二雄Ⓐという偉大な才能は、間違い無く万人が欲するものだと信じて
いるので。

ちなみに「Ⓐ」(まるA)はちゃんと表示されてるのかな?
Ⓐ = Anarchy。僕は最高の敬意を持って、この名前をそう解釈している。

夜夢

▼夜夢 / 柴田よしき(Kindle版)

札幌出張時、羽田空港でオンラインチョイスしたホラー短編集。
行き帰りの行程と滞在中の夜だけで読破。今回の旅にはKindle PWを持って
いかなかったので、全てをiPad版Kindleで読み切った。最近では珍しい。

柴田よしきという作家は当然。語り部が随時変わる形式のホラー全9話
それぞれが独特の語り口で「怖い話」を語るため、同じ作家が書いたとは思え
ないくらいバラエティに富んでいる。ちょっと悪い言い方をするのなら、
“まとまりが無い”と言えなくも無いのだが、どうやら各所で別々に発表された
作品集、とのこと。ソレを考慮すれば、強引だがまとまっている、と評価して
もいいのかもしれないが・・・。

印象に残ったのは「つぶつぶ」
整然と並んだもの、例えばイチゴのつぶつぶ等に恐怖を感じる女性の話だが、
その偏執的な性格がとんでもない方向に発展して行く様はなかなか見事。
ただ、どちらかと言うとホラーの範疇からは若干外れているかもしれない。
そのあたり、少し残念(^^;)。

サックリ読める短編集で、一篇々々はそれなりにレベルが高い。各話に男女
の危ういストーリーを絡めるなどの共通点もあるのだが、やはり“一冊”とし
てのまとまりに難があるため、読む人によってはちょっとばかり喰いたりな
さを感じるかもしれない。

いわゆる長編を読んだらもう少し印象が良くなる気がするのだが・・・。
何かの機会があれば別の作品を読んでみようかな?