君と夏が、鉄塔の上

#平均的中学生ファンタジー


▼君と夏が、鉄塔の上 / 賽助(Kindle版)

Unlimitedのリコメンドに表示されていた作品。
タイトルチョイスではなく、どちらかと言えばジャケットチョイスかも。

主人公は鉄塔(送電線繋いでるアレ)をこよなく愛する地味中学生男子
日常的に奇抜な行動を取る同級生女子とひょんなことから会話し、知らぬ
間に不可思議な事象に巻き込まれていく・・・というストーリー。

ジャンルで言えば間違いなくファンタジー。この作品内で起こる事件はど
れも荒唐無稽であり、改めて考えればかなり無茶苦茶なのだが、読書中に
それを感じさせない技量は見事。ファンタジックな世界よりも登場する中
学生たちの心情描写に重きが置かれており、その世界観に時折キュンと来
てしまうのだから凄い。

更に、重要なアイテムとして「鉄塔」を持ち出してくるところにセンスを
感じる。ウチの近所でも立派にそびえ立っている鉄塔に種類があることす
ら知らなかった身としては、目からうろこな記述が多々。賽助という作家、
なかなか侮れない気がする。

ホンワカした青春系のストーリーを好む人にオススメ。それでいて鉄塔に
興味のある人なら、完全にハマると思う。そういう人はあんまり居ないと
思うけど。

脳科学捜査官 真田夏希

#プロファイリング


▼脳科学捜査官 真田夏希 /鳴神響一(Kindle版)

Unlimitedのタイトルチョイスの中の一冊だが、実はちょっと前から気に
なっていたシリーズ。著者は鳴神響一、コレがシリーズ第一作にあたる。

妙齢美人警察官・真田夏希は、博士号を持つ心理学のエキスパート。
臨床心理士時代に挫折し、神奈川県警の科学捜査研究所へ転職。あまり
に高学歴なことで彼氏が出来ず、婚活にいそしむ毎日を送っていたのだ
が、友人に紹介された男とデート中、近隣で爆破事件が。その捜査に巻
き込まれることになって・・・という内容。

いわゆるプロファイラーの物語。作中にかなり難解な専門用語が出てく
るため、とっつきにくい印象があるのだが、文体が軽快な上にユーモラ
スなので、けして読みにくいタイプの本では無い。

とはいえ、ちょっとした中途半端さが残ってしまっているのも事実。
登場する各キャラはそれなりに魅力的だからこそ、誰かにもう少し突出
した能力を与えれば、物語に深み緊迫感が出てくる気がする。シリー
ズはまだまだ続いているので、今後そういう展開になることを期待する。

警察犬と心が通じていく場面の描写は良かったなぁ・・・。
僕はこういうのに弱いんだ、結構(^^;)。

瑕死物件

#ワケアリの部屋


▼瑕死物件 209号室のアオイ / 櫛木理宇(Kindle版)

最近続くUnlimitedタイトルチョイスした中の一冊。
タイトルはもちろん、表紙デザインからもそこはかとなく漂うホラー臭
この季節にピッタリ、ということで。

とある高級マンションが舞台。ある時期、ここで陰惨にして不可思議
事件が連続して起こる。巻き込まれたのは、全員がちょっとワケアリの
女性。その影には、必ず不思議な「少年」が居て・・・という内容。

最初に評価から書いておくと、「完成されたホラー」
いや、お世辞抜きで状況設定から構成アイデアの全てが本当にすばら
しい。連作短編形式で、それぞれの章で状況の異なる主人公が設定され
ているのだが、各々の“ヤバさ”の描写が秀逸で、恐ろしい程のリアリテ
が醸し出されている。

櫛木理宇という作家はもちろん初めてだったので、後で調べてみたとこ
ろ、ホラー専門のある種「硬派」な作家さんらしい。ある程度長いシリ
ーズモノもあるし、他の作品も読んでみるべき、と感じた。おそらく、
ホラー職人の矜恃が味わえるハズ。良い出会いだったな、コレ。

蝶狩り

#Blank Generation


▼蝶狩り / 五條瑛(Kindle版)

Unlimitedタイトルチョイスした中の一冊。
五條瑛という珍しい作家名に覚えがあったのだが、ちょっと前に読んだ
「赤い羊は肉を喰う」の作者。ならばかなり期待出来る、ということで。

主人公は個人経営の雇われ調査員、つまり探偵。仕事は浮気調査や人捜し
といったつまらないものが殆どな上、新宿の安キャバクラで知り合った娘
くらいの年齢のオンナに入れあげる。こう書くとやたら“冴えない”感じが
するのだが、どっこいかなりのハードボイルド人間関係の希薄さを見事
に逆手に取った、上質な人間ドラマが繰り広げられている。

・・・のだが!
いくらなんでも、というラスト(^^;)。ネタバレを恐れずに言ってしまう
と、物語がクライマックスを迎えたところで突然の終焉。まるで打ち切り
にあったかのような、ブツっとした終わり方は正直納得が行かない。

払拭するには、一刻も早く続編を。そうでないといろいろ気になってしょ
うがないので。

運転者

#ポイントカード


▼運転者 未来を変える過去からの使者 / 喜多川泰(Kindle版)

読むべき本が尽きてしまったので、Unlimitedタイトルチョイス。故に、
喜多川泰という作家は当然初めてとなる。

イメージ的に交通系、例えば事故を起こしたトラックドライバーとか、
んでもない失敗をやらかしたタクシー運転手の話かと思いきや、限りなく
自己啓発に近い内容。まぁ、タクシードライバーは出てくるのだが(^^;)。

タイトルの意味は、「運を転換する者」
なんでオレばっかりこんな目にあうんだ、と現状を嘆く妻子持ちの中年
焦り、絶望する男の前に突然現れたタクシーとその運転手が、男の心を
前向きに変えていく・・・という内容。

通常、こういう「上から系」の本は絶対に読まないし、仮に読んだとして
捻くれた感情しか沸かないのだが、この本はちょっと“読ませて”くれた。
文章が明快イヤミが無いのがその要因だと思う。

そして「運は良い・悪いでなく、溜めるモノ」という考え方は、悔しいこ
とに腑に落ちるし、「溜めたポイントは他の誰かに与えることが出来る」
という概念は実践すべき。電車の中で読了したのだが、帰り道で既に影響
を受けている自分に気づき、思わず苦笑してしまった。

悪く無い・・・どころか、なかなか興味深い内容の本。
Unlimitedにしとくのは、ちょっと勿体ない気がするなぁ、うん。