サブマリン

▼サブマリン / 伊坂幸太郎

伊坂幸太郎の新作は名作「チルドレン」の12年ぶりの続編。
少年犯罪を担当する最強にしてサイアクな皮肉屋である家裁調査官・陣内と、
その部下の常識人・武藤が担当した未成年交通犯罪。無免許暴走運転で人が
死んでしまう、という事案を中心としたエピソードである。

陣内というキャラクターは、僕の憧れでもある。
口から出る言葉の殆どは皮肉か屁理屈であり、周囲にはとんでもない迷惑
をかけ続ける。ところが、決して本当に嫌われることが無い、という特異
な性格。彼の発する言葉は虚言や適当な言い逃れにしか聞こえないのだが、
最終的にソレを「嘘」にはしない。そういう姿にちょっと痺れてしまう。

ただ、今回のテーマは本当に重かった
陣内はいつものようにカッコイイ皮肉を撒き散らし、語り部の武藤は軽妙に
それを収拾しようとする。その様子はいつも通りの楽しい展開なのだが、状況
を思い返す度に「笑っている場合では無い」、という気分にさせられる。
伊坂作品でそういう感情になるのは本当に珍しい。

・・・おそらくこれは凄く個人的なことが原因。
交通事故で大事な身内を亡くしている僕は、どんな理由があっても加害者の
心に寄り添うことが出来ない。だから、この作品に出てくるいろんな人たちの
「事情」について、理解こそ出来るのだが納得は決して出来ない。それはもう、
本当にどうしようもないことだと思う。

だから読中にやたら焦燥感を感じていたのだが、最後の最後でちょっとした、
しかし強烈なが見えた。その言葉を発したのはやはり陣内であり、それが
無ければこの読書は単なる苦痛になるところだった。

伊坂幸太郎、やはり恐るべき作家。追いかけ甲斐があるな、この人は。