病む月

▼病む月 / 唯川恵(Kindle版)

お約束になってきたKindleストアリコメンド購入
唯川恵という作家はもちろん初。タイトルが凄く印象的だったので購入。

ヒューマン系短編集であり、全10篇を収録。主人公は基本ワケアリの女性
ばかり。共通項は舞台が石川県金沢市である、ということ。
・・・ちなみに金沢の人はアタマに“石川県”を付けると何故かソレを否定する
傾向アリ(^^;)。僕の友だちだけかもしれないけど(^^;)。

こちらの作品もオチを読者に想像させるタイプ。全体的に物語のトーンは暗く
サイコサスペンス寄りの話が多々。エピソードのその後を考えると若干惹いて
しまう(^^;)のだが、どれもそこまで想像させてくれるくらいのレベルである、
ということ。文章に淀みが無く、スルスル読めるのもポイントが高い。

印象に残ったのは最終話「夏の少女」
他と同様に暗い話ではあるが、最後の最後で爽やかな気分にさせてくれる。
ラストだけこういうエピソードにする、というある種のあざとさを、逆に
微笑ましく思う。こういうスタイル、キライじゃないです。

今年は金沢に出張する予定あり。観光資料としては殆ど役に立たなかった(^^;)
が、名前の出て来た繁華街には行ってみようかと。あと、ガスエビ食いたい!

81歳いまだまんが道を・・・

▼81歳いまだまんが道を・・・ / 藤子不二雄Ⓐ

2012年に出版された単行本「78歳いまだまんが道を・・・」の文庫版。
著者は藤子不二雄Ⓐ。昭和の時代に生まれた日本国民であれば、誰もが
その名を知っている「生ける伝説」史上最高の漫画家の一人である。

Ⓐ先生の「まんが道」は、僕のバイブルと言って差し支えの無い青春群像劇
の傑作。自らをモデルとした満賀道雄の成長物語であり、ここでの満賀は
あまりにも“等身大”の青年として描かれている。本名で登場する手塚治虫
石ノ森章太郎赤塚不二夫、そして才野茂(a.k.a.藤子・F・不二雄)といっ
天才たちに囲まれ、彼らとの才能の差に苦悩しながらも、しっかりと着実
にまんが道を歩んでいく様に、同じく凡人である我々は何とも言えない共感
を覚え、その世界から離れられなくなる。

そして僕はいつも改めて気付く。
時代が進み、年齢を重ねても薄れないインパクト、そして麻薬に近い中毒性。
そんな作品を未だに生み出し続ける藤子不二雄Ⓐこそが、上記の天才たちの
更に上を行く孤高の天才であることに。

そんなⒶ先生の自叙伝は「まんが道」はもちろん、これまでに数十冊を読ん
でいる。この作品でも他作品で既に知っているエピソードが多々出てくるの
だが、そのたびに「まんが道」で読んだ場面を思い出してニヤッとする。
特に偉人伝の域に達しているトキワ荘時代の記述は秀逸で、このくだりに関
しては同じ話を何百パターン読んでも飽きない自信がある。

この文庫には単行本の刊行から3年分の「まんが道」が長い“あとがき”とし
て掲載されている。こういう形で今も進化し続ける作品を現在進行形で魅せ
てくれる偉大な才能の存在に、感謝の念が絶えない。

Ⓐ先生も今年で82歳
ここ数年ご病気の報なども聞こえてくるが、願わくばあと18年、100歳
では現役を続けて欲しい。いや、もちろんそれ以上でも何の問題も無い。
藤子不二雄Ⓐという偉大な才能は、間違い無く万人が欲するものだと信じて
いるので。

ちなみに「Ⓐ」(まるA)はちゃんと表示されてるのかな?
Ⓐ = Anarchy。僕は最高の敬意を持って、この名前をそう解釈している。

夜夢

▼夜夢 / 柴田よしき(Kindle版)

札幌出張時、羽田空港でオンラインチョイスしたホラー短編集。
行き帰りの行程と滞在中の夜だけで読破。今回の旅にはKindle PWを持って
いかなかったので、全てをiPad版Kindleで読み切った。最近では珍しい。

柴田よしきという作家は当然。語り部が随時変わる形式のホラー全9話
それぞれが独特の語り口で「怖い話」を語るため、同じ作家が書いたとは思え
ないくらいバラエティに富んでいる。ちょっと悪い言い方をするのなら、
“まとまりが無い”と言えなくも無いのだが、どうやら各所で別々に発表された
作品集、とのこと。ソレを考慮すれば、強引だがまとまっている、と評価して
もいいのかもしれないが・・・。

印象に残ったのは「つぶつぶ」
整然と並んだもの、例えばイチゴのつぶつぶ等に恐怖を感じる女性の話だが、
その偏執的な性格がとんでもない方向に発展して行く様はなかなか見事。
ただ、どちらかと言うとホラーの範疇からは若干外れているかもしれない。
そのあたり、少し残念(^^;)。

サックリ読める短編集で、一篇々々はそれなりにレベルが高い。各話に男女
の危ういストーリーを絡めるなどの共通点もあるのだが、やはり“一冊”とし
てのまとまりに難があるため、読む人によってはちょっとばかり喰いたりな
さを感じるかもしれない。

いわゆる長編を読んだらもう少し印象が良くなる気がするのだが・・・。
何かの機会があれば別の作品を読んでみようかな?

擬態

▼擬態 / 永嶋恵美(Kindle版)

永嶋恵美、一挙に4作目に突入。タイトルは「擬態」
なぜにコレを選んだのかと言うと、紹介文の中に大好物の“イヤミス”という
ワードを発見したから。ここまで読んだ3作品にはそういう香りはしなかった
のだけど、もしや!と思いつい・・・。

で、結果から言えば決してイヤミスではありませんでしたよ、ええ(^^;)。
どちらかと言えば叙述トリックの使い方が秀逸なドンデン返し系ミステリー
物語の9割は2人の女性の日常描写で埋め尽くされているのだが、最後の最後
で全てが繋がる展開。何を書いてもネタバレしそうなので内容はもう書かな
いことにしときます(^^;)。

つまり、ある程度読み込めば少しオチが読めてくる人が多々居そうな感はある。
しかしこれは僕にとって決して致命的な弱点では無かった。というのも、9割
を費やしたヒューマンドラマの部分が淡々としていながらそそる内容であり、
ストーリーに対する興味が切れなかったから。正直、僕もオチの想像は付いた
のだが、その後の話の仕舞い方の巧妙さに思わず感心してしまった。

これまで読んだ作品の中で敢えて似てるのを選ぶとするのなら、乾くるみ
「イニシエーション・ラブ」あたり。ただ、あちらで感じたあざとさはこの
作品には無く、読み終わった後で怒りを覚える(^^;)ことも無いと思う。

最後にアッと驚くタイプのミステリーが好きな人は是非。
もちろん、タイトルにキチンと意味あり!

別れの夜には猫がいる

▼泥棒猫ヒナコの事件簿 別れの夜には猫がいる / 永嶋恵美(Kindle版)

永嶋恵美・泥棒猫ヒナコの事件簿シリーズ第2弾。
・・・徳間書店の担当者はもう少しシリーズタイトルに気を遣った方が良い(^^;)。

今回も連作短編。今回はオフィスCATの周辺人物にスポットが当たっており、
前作よりも各エピソードのが確実に深い。故に全体の印象が若干重たくなっ
ているのだが、読み応えは逆に増している感あり。

考えてみれば、恋愛関連の素材はそのへんに虚実入り乱れていくらでも転がっ
ている。そのあたりをアレンジすれば、この作家ならいくらでも新しいエピソ
ードは創り出せる気がする。といっても、この作品は2011年出版。もしかし
たら第3弾は無いのかもしれないけど(^^;)。

総体的に詳細を書かない・・・解りやすく言うのなら、ラストに筆が若干足りな
いタイプの作家さんなので、好き嫌いはハッキリ分かれると思う。個人的には
かなり波長が合いそうなので、電子書籍版を片っ端から読もうと思う。

良い作家に巡り会えたかも。