PRIDE

▼プライド / 金子達仁(Kindle版)

著者は金子達仁
この名前になんとなく覚えがあり、著作を調べてみたら、高田延彦「暴露本」
として話題になった「泣き虫」の作者。作風とか文体以前に、あの本には正直
悪印象しか無く、最初は普通にパスしようと思っていたのだが、どういうワケ
かKindle版が648円。ちょうど読む本がなかったので、取り敢えず買ってしま
った。もしかしたらまたイヤな気分になるかもしれないのを覚悟して・・・。

・・・ちょっと驚いた
サイドストーリーの類いを悉くそぎ落とし、我々にとってリアルに「悪夢の日」
となった1997年10月11日にだけフォーカスした構成、そこにまつわる関係者
たちへの的を得た取材。ノンフィクションとしては異色な作り方であるにも関
わらず、グイグイ読ませる。金子達仁、実は凄いライターだった。

この本の主役である3名(高田延彦・榊原信行・ヒクソングレイシー)に、今や
正であれ負であれ、思い入れのある人物は1人も居ない(高田に対しては複雑な
んだけど・・・)。あれからかなりの年月が経ち、僕もいろいろな事にをするこ
とが出来るようになった。嫌悪感を抱いていた“あの本”の中身をとうの昔に忘れ
ていたことも、逆に良かったのかもしれない。

そして冒頭、かなり大事な部分でいきなり登場した広島カープ捕手(当時)・
西山秀二のコメントが大胆に使用されていることにビックリ。この意外過ぎる
導入部分の効果は絶大で、もしココが無かったら最後まで読まなかったかもし
れない。日本の総合格闘技のエポックとなった「あの日」を構成したエピソー
ドの中に、西山さんが居たという事実。個人的に驚愕なんですよ、コレ。

とにかく、筋がビシっと通ったすばらしいノンフィクション作品
同じ系統のテーマを扱った作品が出るのなら、また読んでみたいと思う。
・・・まぁ、「あの日」を思い出すのはもう本当にイヤなんだけど(^^;)。

プロレスで〈自由〉になる方法

▼プロレスで〈自由〉になる方法 / 鈴木みのる(Kindle版)

専門誌「KAMINOGE」にて連載されていた連載が再構成・大幅加筆されたもの。
著者の鈴木みのるは皆さんご存じの「世界一性格の悪い男」。インタビュアーは
プロレス・格闘技ライターの堀江ガンツが務めている。

この本が出版されたのは2015年
鈴木みのるが「海賊」としてNOAHマットに定期参戦していた頃。選手の数が足
りず、苦境に喘いでいたNOAHに攻め込み、瞬く間に全てを奪い去って主導権を
握った。NOAHファンのストレスは相当なモノだったろうけど、もしあそこで外
敵として鈴木が登場しなかったら、きっとNOAHは潰れていた。つまり、ヤバそ
うな団体を建て直すだけの実力が、プロレスラー・鈴木みのるにはあった、とい
うこと。

そんな鈴木の本、いや、非常に面白かった。
僕と同い年の鈴木は、そういう理由でデビュー当時からずっと特別な思い入れ
持って見続けてきた選手。故にその波瀾万丈さをこちらは端から承知しているに
も関わらず、鈴木自身の口から語られる「あの頃」は本当に感慨深い。とにかく
随所でニヤっと出来る。でも・・・。

読む人選ぶんじゃないかなぁ、この本(^^;)。
もちろん我々のようなすれっからし系プロレスファンは喜んで読めるけど、そ
うじゃない人にはきっとなんのことやら解らないと思う。冷静に考察すると、こ
の本のメインターゲットはきっとプロレスラー、もしくはプロレスラーを志す人
であり、そういう人たちにはもの凄く響く気がする。というか、キャリア5年未満
プロレスラー及びその予備軍の人たちは、コレを読んでからリングに上がれ
とか思ってしまった(^^;)。

ただ、未だ現役の最前線で闘い続ける鈴木みのるは、やっぱり僕らの世代の憧れ
世界一性格の悪い男と呼ばれるプロレスラーが、実はいちばん理に叶っている事
を、僕はちゃんと知っている。だから、人生に疑問を感じたら、鈴木みのるの言
葉を聞くべき。この意味が解る人、絶対読んだ方がいい。

ちなみにこの本、なんと現在Unlimited扱い
・・・ある意味、今がチャンス!

Mystery Clock

▼ミステリークロック / 貴志祐介(Kindle版)

気が付いてみたら実に5年ぶりに読む貴志祐介作品。
メジャーな作家なのに、ここまで空いた、というのが不思議。今のところ読み逃し
は無い筈なんだけどなぁ・・・。

ということで久しぶりの貴志ワールドは、僕がハマるきっかけになった防犯探偵・
鍵のかかった部屋シリーズ第四弾。今回も短編集で、全四編「密室ミステリー」
が収録されている。ところが今回の密室、それらしいのは最初の1エピソードのみ。
残り3つがどれもこれも通常の密室とは違う異様な状況の中での物語となっている。

印象深いのはラストの「コロッサスの鉤爪」
海洋上で起こった殺人事件を密室と見立てるセンスがすばらしく、手がかりが一つ
出てくるたびに「おお!」と唸るような展開。物語を破綻させずに謎解きまで持っ
いく手法はこのシリーズの真骨頂なのだが、特異と言って良い環境でも無理なくそ
の状況を構築しているのは実に見事。この一遍だけでも読む価値大、と思います!

他の篇も基本的には面白いのだが、2本目「鏡の国の殺人」に関しては、正直苦手
“見取り図”的なグラフィックが無いと厳しい内容であることに加え、いわゆる芸術
的な造形物の想像が追いつかないのが原因。コレについては、映像もしくはマンガ
の方がいいかもしれない。

とにかく、大好きなシリーズに最新作が出てきてくれたのは非常に嬉しい。
そして、この作品はあのメンバー映像化されるべきだと思う。視聴率稼げるだろ
うなぁ、きっと♪

何が困るかって

▼何が困るかって / 坂木司(Kindle版)

坂木司短編集
というか、18編も入ってるんだから、もうショートショートという扱いでいいの
かもしれない。

長らく「覆面作家」という立ち位置で執筆活動を続ける坂木さん。文体や素材の
チョイスから、僕は絶対に女性だと思っている(^^;)のだけど、この人の作品群は
基本的に「優しい」系のモノが多い。ところが、「短編集」になると様子が一変、
彼女のブラックな部分がクローズアップされるのだから面白い。

この作品もその傾向が顕著。全ての作品が「世にも奇妙な物語」元ネタになり
そうな内容で、もしかしたら“ホラー”にカテゴライズしても良いくらい薄ら寒い
作品ばかり。もちろんただ怖いだけでなく、ちょっとしたハートウォーミング系
の内容を絶妙に散りばめてあるのだから、唸るしかない。やっぱりこのオンナ
只者では無い。

印象に残ったのは、「洗面台」
無生物を擬人化した上で物語にする、という手法は本当によくあるのだが、まさ
かそこに洗面台流し台でなくて洗面台、これ重要!)を当てはめてくるとは・・・。
しかも、それをそこそこ良い話に仕上げちゃうセンス。いや、本当に凄いと思い
ます、コレ。

いつもの坂木司を期待してる人は面食らうと思うけど、おおよその人たちなら
充分に楽しめるショートストーリー集。ホラー奇妙な物語が好きな人もぜひ!
オススメです!

静かな炎天

▼静かな炎天 / 若竹七海(Kindle版)

若竹七海女探偵・葉村晶シリーズ第四弾
どうやらこの作品がいまのところの最新作であることは間違い無い模様。

体は連作短編集。先頃レビューした「さよならの手口」以降の年代の話で、
“不幸を呼び込む女探偵”にして“こき使われる書店アルバイト”でもある我ら
のヒロイン、葉村晶四十肩に悩まされる世代となっている。

今現在、五十肩らしき疾患を患っている僕は本当に彼女の辛さが手に取るよ
うに解る(^^;)。体調折り合いを付けながら相変わらずの災難に巻き込ま
れる葉村晶、ちょっと他人と思えなくなってきました(^^;)。

しかし、四十代に突入した葉村晶の周辺には、これまでのクールビューティ
ーさに加え、「笑い」という要素が重要なアイテムに進化しているのが大き
なポイント。これまでもテンポの良い会話の妙、という流れはキッチリあっ
たのだが、毒気の強い書店スタッフのキャラが確立されたおかげか、主人公
・晶との会話に見事なキャッチボールが成立。普通に笑える「楽しい作品」
に仕上がっていると思う。

もちろん、これまで通り随所に散りばめられた伏線とその回収劇も相変わら
ずお見事。新たな作品が出る度に、その精度は確実に上がっているのだから、
ミステリー好きにはたまらない。最高のシリーズだと思います、ええ。

このシリーズ、残りは第0作のアーリーストーリー「プレゼント」のみ。
ソレを読んじゃったらもう終わりなのかぁ・・・。ちょっと寂しいかも。