能面検事

▼能面検事 / 中山七里(Kindle版)

個人的には約6ヶ月ぶりとなる中山七里作品。
語り部は女性新人検察事務官惣領美晴。彼女が大阪地検の“絶対的エース”
とされる一級検事不破俊太郎に付くことに。不破の仇名「能面」
感情を決して表に表さず、あらゆる圧力に決して屈せず、自分にも他人にも
厳しい検事が、上席やある意味身内でもある警察をも敵に回しながら事件を
捜査。美晴は苛立ち、翻弄されるのだが・・・という内容。

氏のこの手の作品は多々読んできた気がするが、もしかしたら「検事」
主役に据えたストーリーは初めてなんじゃないか、と。ただこの作品、検事
が活躍するにも関わらず、いわゆる「法廷」のシーンがほぼ登場しない
TVドラマの「HERO」と同じく、“検事調べ”と呼ばれる検察官の捜査にスポ
ットが当てられている。非常にユニークな構成

そして、代名詞である「どんでん返し」が今回も秀逸。伏線の張り方から、
思わず唸ってしまうラストまで、作り込みの精密さが半端で無い。ある意味、
最も中山七里らしい作品、と言えると思う。

不破のその後も、おそらく事務官として成長するであろう美晴の未来も非常
に気になる。コレはシリーズ化して欲しいなぁ・・・。

扉子と不思議な客人たち

▼ビブリア古書堂の事件手帖 〜扉子と不思議な客人たち〜  / 三上延(Kindle版)

昨年「7」シリーズファイナルを迎えたビブリア古書堂シリーズ7年後
栞子さん大輔さんは無事に結婚、生まれた子どもの名前は「扉子」
そういう布陣でスタートした後日譚なのだけど・・・。

実際には「母が娘に過去を語って聞かせる」という形で展開するこれまで同様
の連作短編(^^;)。まぁ、卑怯だと言えなくも無い手法なのだが、これまでと
テイストの同じ「本」にまつわるエピソードを読ませてくれる、という事実に
対してホッとしている自分が。まぁ、好きなんだよね、このシリーズが(^^;)。

特に面白かったのが、まさかの「ゲーム雑誌」を取り上げた2話目。
高尚な文学作品から、この手のジャンルまで差別せずに掘り下げるのが三上延
の真骨頂。各種の「本」が好きな人なら絶対に引き込まれる世界をキッチリと
構築出来るのは、この作家だけが持っているモノだと思う。

かなり大変だったシリーズ本作が終わっても、こういう形で「続き」を読ませ
てくれるのは本当に嬉しい。以降も無理せず、丁度良いペースで新たなエピソ
ードを書いてくれるといいな、本当に。

ヤタガラス

▼下町ロケット ヤタガラス / 池井戸潤(Kindle版)

池井戸潤下町ロケットシリーズ第四弾
やはり、前作「ゴースト」とこの「ヤタガラス」はほぼ一本の物語だった
らしく、ゴーストのリリースから約2ヶ月という短いスパンでの新作発表。
いやぁ、やるなぁ、やっぱり(^^;)。

前作で新展開を迎え、新たに登場した人物や会社の立ち位置が明確になる。
当然、物語の中でこの人は善玉・この会社は悪玉、などの役割もハッキリ
して来るのだが、凄いのはベビーフェイスにはベビーフェイスの、ヒール
にはヒールの理論がしっかりあり、それぞれになんとなく共感を覚えてし
まうこと。逆に、今やすっかり超善玉の立場を確立している佃製作所が、
ちょっと色褪せて見える瞬間さえあった。

そもそも、本当のビジネスの世界もそういう場面は多々起こりうる。
僕自身、これまで決して公明正大に仕事をしてきたワケではなく、間違い
無く卑怯汚い仕事に手を付けたことも正直あった。そう考えると、これ
までの勧善懲悪なビジネス物語を逸脱し、更にリアルなビジネスシーン
描く、というのは大正解。この作品でビジネスマンたちの評価は更に上が
ると思う。

池井戸潤、ビジネス小説の世界では最早最高峰に達した感。
確定している、というTVドラマ化が、今から本当に楽しみ!

サークル

▼サークル 猟奇犯罪捜査官・厚田巌夫 / 内藤了 (Kindle版)

内藤了猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズスピンオフ
以前レビューした「死神女史」こと石上妙子のサイドストーリーに続いて2作目
となる本作の主役は、頼れるボス・ガンさんこと厚田巌夫。時代設定としては、
石上センセイとガンさんが「夫婦」だった時期。想像するに、昭和後期頃のエピ
ソードだと思われる。

今回もストーリー展開が解りやすく、入り込みやすい物語なのだが、前作の石上
ストーリー「パンドラ」と比較すると、少々食い足りなさを感じたのも事実。

ここからチョイネタバレ注意。

・・・というのは、今作の冒頭で起こる事件が解決しないまま終わってしまう、と
いう、このシリーズ特有の引っ張りがあるから(^^;)。藤堂比奈子シリーズ本編
で慣れたつもりなのだが、スピンオフでもコレをやられてしまうとさすがにちょ
っと萎える。払拭するにはもうとっとと続編を出して貰うしか無い(^^;)のだが、
本編クライマックスになるであろう「BURN」のリリースすらまだなのだから、
さすがにもう少し待たなければならないかも。

まぁ、続きが気になる、というのは良い作品の証拠でもある。
諸々早めに出してくれるとすっごく嬉しい。

そして、電子書籍版巻末オマケの「妙子レシピ」がかなり微笑ましい感じ。
ファンの人はココを楽しみにしても良いと思います!

屈辱出版

▼屈辱出版 / 黒野伸一(Kindle版)

またもや読むべき本を読み切ってしまったのでKindleストアを徘徊したところ、
Unlimited扱いで興味深い作品を発見した。「限界集落株式会社」でお馴染み、
黒野伸一エッセイ集。サブタイトルは「出版社に戦力外通告された小説家が
自力でエッセイ集を出してみた」。え〜、戦力外って(^^;)。

というワケで、こちらはKindleのみでリリースされた自費出版作品。
戦力外云々はともかく、確かに黒野伸一のエッセイはこれまで読んだ覚えが無
いので、ここは迷わずダウンロード。しかし・・・。

いやぁ、くるなぁ、コレ・・・。
内容の8割は動物について書かれている。飼っていた小鳥や近所の犬・猫の話
題であり、どれも軽妙で緩やかなエピソードなのだが、どうしたワケか全ての
物語で鼻がツーンときてしまう。愛玩動物の生死、というのは僕にとってかな
りの劇薬で、この手の話には本当に弱い。読んでいるうちに過去のいろいろな
ことを思い出してしまったらしい・・・。

いくつかの誤字・脱字があり、レイアウトも適当、等のインディーズ感が漂う
のは否めないが、ストレートで肩に力が入って居ない黒野伸一の文章はなかな
か魅力的。しかし、活躍の舞台が自費出版の世界になっちゃう、というのは、
ちょっと寂しいのだが・・・。

心配になって調べてみたら、2018年3月以降のリリースが無い
本当なのかなぁ、戦力外って・・・。