マルチの子

#ネズミ講


マルチの子 / 西尾潤(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Kindle Unlimitedのリストを眺めていたら、ちょっと気になるワードを思いっき
タイトルに使っている作品(^^;)を発見。コレは読んでおくべき、と直感的に
判断して、約2日間で一気に読んだのだが・・・。

いわゆる“マルチ商法”に手を染め、ハマり捲って思いっきり怖い思いをしてし
まった女性が主人公。この主人公がまた非常に典型的なマルチ体質で、今風の
言葉で言うと承認欲求の塊。チヤホヤされたり持ち上げたりされることが大好
きな上に、その立ち位置を守る為ならほぼ何でもしてしまう、という、主人公
にはピッタリ(^^;)の性格。そういう人がマルチに出会い、ハマり、大失敗する
ところが描かれているのだが、最後にまたマルチを始めよう、として終わって
しまうところが正直いけ好かない(^^;)。まぁ、象徴的なラストを狙ってのこと
だとは思うのだけど・・・。

僕が思うに、マルチで成功・・・というか、儲けることの出来る人種とは、
「自分が悪人であることを理解し、コレが犯罪であることも理解した上で人を
動かすことが出来る人」に尽きる。

僕の経験則上、マルチにハマっている人たちはまぁだいたい皆アタマが悪い
普通の人が冷静になって考えれば、その仕組みや扱っている商品、販売方法等
に問題があるのはすぐに解るワケで、おおよその人たちはコレには乗らない。
要は考える能力に乏しいアタマの悪い人たちが集まってやっている商売こそが
マルチであり、そういう連中はそれこそネズミの様にウジャウジャ沸いてくる。
そんな人たちをギリギリまで引っ張り絶妙なタイミングで手を引くことので
きる人が、儲けることの出来る人種なんだろうなぁ、と思う。

今は懐かしい思い出だが、僕の知っているとあるマルチ企業、上位者とされる
幹部が数名逮捕されて話題になった。しかし、当時社長を勤めていた人物が捕
まった、という話題はその後になっても聞こえてこなかった。組織をある程度
まで育てて、限界のところで身を引く、という見事(?)な判断悪人である
ことは間違い無いが、少なくともあの社長はバカではなかった、ということ。

ともかく、今現在マルチの勧誘を受けている人とか、既に始めちゃってる人と
かは、ハマる前に読んだ方がいいかもしれない。人を騙すことって、結構難し
いんだぜ、というのが解ると思うので。

プロレス深夜特急

#Japanese Buzzsaw


プロレス深夜特急 プロレスラーは世界をめぐる旅芸人 / TAJIRI(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアルワールドフェイマス元WWEスーパースターTAJIRIの著作。
携帯サイト『プロレス/格闘技DX』での連載をまとめたモノで、4年前にリリー
スされた作品だが、Unlimitedに登録されていたので読んでみた。

TAJIRIの「文才」に関しては、WWE在籍時週刊プロレスで持っていた連載
で既に明らかになっている。読みやすく、解りやすい文章に加え、読む側に対
して“伝えたい事象”明確。そこらへんのエッセイストを軽く上回る“作家”
あり、この才能はもっと一般に認知されても良いと思うのだが・・・。

そんなTAJIRIが、プロレスラーとして呼ばれた世界各国を巡った経験を記した
紀行文。各国の状況はもちろんのこと、すれっからしファンの僕でも想像する
ことの難しい国の“プロレス状況”が手に取るように解る。特にイタリア・ポル
トガル・オランダなどの欧州でのエピソードはおもしろく、思わず行ってみた
い!と思ってしまったほど。この人、プロレスだけでなくエッセイストとして
超一流だ、と改めて思った。

そして、巻末書き下ろしで描かれたスターダム・朱里との特別対談が絶妙
今改めて思い出してみると、TAJIRIや朱里、KANAKUSHIDAで構成されてい
た団体・SMASHは、本当にすばらしいプロレス団体だった、と改めて。
もしSMASHが今も続いていたら、日本のプロレスは今とちょっと違った方向
に進んでいたかもしれない。

コレ、当然手に取るのはプロレスファンだけだと思うが、可能ならそうでない
一般の人にぜひ読んで欲しい。エッセイのなんたるか?が、全て詰まっている
作品だと思うので。

方舟の継承者

#IMMORTAL BIRD


方舟の継承者 / 丸藤正道(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「方舟の天才」ことNOAH丸藤正道が、2018年に行われた自身の20周年記念
興行にリリースした自伝。7年前はある事情(後述)で手に取るタイミング
が無かったのだけど、Unlimited扱いになっていたのでチェックしてみた。

丸藤正道という天才プロレスラー、我々新日本派のファンにとってある意味で
「目の上のタンコブ」(^^;)。運動能力が高くて出来ない事はほぼ無く、スタイ
リッシュな上にルックスも良い。さらにプロレスのセンスも抜群。文句の付け
ようの無い、本当の意味での“逸材”であり、丸藤が新日本を選ばなかった、と
いう事実に地団駄を踏んだほど。

実際、旗揚げしてから数年間、NOAH「国内プロレス団体の最高峰」であっ
た時期があったのは、認めざるを得ない。もちろん三沢光晴小橋建太と言っ
た名選手の存在が大きいのだが、NOAHをそこまで押し上げたいちばんの原因
は、丸藤KENTAが積極的に他団体の選手と闘い、その実力を認めさせてきた
のが大きい。コイツらさえ居なければ、と何度思ったか(^^;)。

そんな丸藤の半生が本人の口から語られているのだが、僕が感じたのは不思議
なことに“新日本的な感覚”だった。ライバルのKENTAと比較すれば、オトナに
見られがちな丸藤だが、実は丸藤の方がラジカル尖っていたのではないか?
とか思った。まぁ、そのくらいで無ければあの体格で20年以上NOAHのトップ
を張り続けることは出来なかったんだろうけど。

・・・しかし、丸藤の20周年記念興行納得出来るモノでは無かったのも事実。
もしあの試合が強烈な印象を残してくれれば、おそらくそのタイミングでこの
本も入手していたと思う。そのくらい、あの試合は残念だった。

あれから7年が過ぎ、さすがの丸藤正道にも「終わり」が見えて来た気が。
「天才」の最後は、それに相応しいモノでありますように。最後までしっかり
見届けるつもりなので。

王道ブルース

#Taking Bump


王道ブルース / 渕正信(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年現在71歳の今も現役としてリングに上がり続けるいぶし銀プロレス
ラー『赤鬼』こと渕正信の自伝。渕のキャリアは既に50年を超えているのだ
が、凄いのは一貫して「全日本プロレス所属」であること。おそらく全世界の
プロレスラーで、50年以上単一団体に上がり続けたプロレスラーは、渕正信し
か居ない、と思われる。

そんな渕が、自分のキャリアを振り返りながら「全日本プロレス」歴史を語
る、という内容。全日本はライバルの新日本プロレスと比較し、波風があまり
立っていない雰囲気。実際、ジャイアント馬場さんが亡くなるまでの間に起こ
ったスキャンダルらしいスキャンダルと言えばSWS騒動程度。この本の中にも
“クツワダクーデター騒動”などの些事(^^;)に関する記述があるが、やはり
全日本は概ね平和だったんだなぁ、と。これがプロレス団体として良いのか悪
いのか、僕には判断が難しいところ。

そして、いちばん印象深かったのが「道場」での練習内容
やっぱり全日本のトレーニングの中心は「受身」であり、それが全日本プロレ
スのスタイルを構成していた、という事実。確かにこのおかげで全日本のリン
グは“堅実”ではあったのだが、前座戦線に一切派手さがなく、地味に感じたの
も事実(^^;)。猪木信者の僕としては、派手な技こそ無いモノの、感情剥き出
しで意地を張り合う新日本の前座の方がおもしろかった。受身の交換、となっ
てしまうと、やっぱり・・・。

その中でもいちばん地味だったのが、だった気がする。
もちろん渕にも輝かしい実績・・・インタージュニア・世界ジュニア奪取など・・・
もあるのだが、ソレが目立ったかどうか?と考えると・・・。

しかし渕が凄いのは「地味」なまま存在確立し、現在に至っていること。
本人はソレを幸運と感じていそうだが、渕のキャリアの殆どは馬場の意向に沿
ったモノで、我が儘な動きは一切無かった。しかしソレを貫き、気が付いたら
ファンが渕正信というプロレスラーを「特別」としたのだから凄い。

どんな世界でも、「継続」は実は誰にでも出来ることではない。
それを成し遂げた男が語る半生、共感する・しないはともかくとして説得力
あることは間違い無い、と思う。

こちらはUnlimitedで読むことが出来るので、馬場派のプロレスファンは必読
猪木派もかなり楽しめたけど。

天龍源一郎の女房

#桜新町


天龍源一郎の女房 / 嶋田まき代・嶋田紋奈(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ミスター・プロレス”こと、天龍源一郎さんの奥様である嶋田まき代さん。
そのまき代さんの「遺作」と言って過言の無いノンフィクションで闘病中
にこの作品を執筆したが、志半ばで逝去。その後を娘さんである紋奈さんが引
き継ぎ、一冊の本として完成させた。以前からちょっと興味を持っていた書籍
なのだが、Unlimitedに登録されていたので即登録。二日ほどで一気に読んだ。

まき代さんが、天龍さんをどれだけ愛していたのかがよく解る内容。
天龍源一郎という男の中の男が、猪木・馬場以降では日本一のプロレスラー
であることに僕も異存が無い。しかし、天龍さんがその位置まで昇り詰めるに
は絶対にまき代さんの内需の功が必要であり、その存在が無ければ天龍さんが
あそこまでのプロレスラーになることは無かった、と感じた。愛が深い、と言
うよりも、執念深い、という言葉がよく似合う。彼女もまた、天龍源一郎を構
成する重大な要素だったのだ、と改めて。

そして興味深いのは、平淡ではなかった天龍さんのプロレス人生に於ける各種
ゴタゴタ(^^;)が、第三者の視点で解説されていること。例えば全日本時代
ギャラの話などは、これまで一切明らかにされなかったタブーの部分。そう
いうのが幾つも、サラッと明かされているのは、ちょっと凄いと思った。

僕は仕事で一度だけまき代さん・紋奈さんをお見かけしたことがあるのだが、
その雰囲気は良い意味でお二人とも「豪傑」、ないしは「女帝」人間力が半
端でなく、トラブルが起こってもすぐに判断を下してくれる。言葉を交わすこ
とすら憚られる方たちだけど、あのくらいで無いと天龍さんの”身内”は勤まら
なかったんだろうなぁ、という気がする。

かなりおもしろいエッセイを読むことが出来た。
嶋田まき代さんに感謝を。そしてどうか安らかに。