ストラングラー 死刑囚の推理

#冤罪証明


ストラングラー 死刑囚の推理 / 佐藤青南(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐藤青南ミステリーシリーズ
昨年末のセール時にシリーズ3作品をまとめ買いし、正直すっかり忘れて
いたことはナイショ(^^;)で。

主人公は警視庁捜査一課に所属する刑事
大学生の頃、交際中の彼女が『ストラングラー事件』と称される連続殺人
事件に巻き込まれ死亡。逮捕されたのは元刑事風俗スカウトマンで、主
人公はこの事件で彼女が風俗で働いていたことを知ってしまう。犯人は一
貫して無罪を主張するが、判決は死刑。法廷で激高した主人公は犯人を罵
倒し、これをキッカケに刑事となるのだが、現代の日本でストラングラー
事件に酷似した殺人事件が頻発。主人公は関与を確認するため、自分の彼
女を「殺した男」面会を求める・・・という感じ。

恨み骨髄の死刑囚が、天才的なプロファイリング能力を持つ安楽椅子探偵
という構成がなかなか興味深い。この能力を見せ付けた死刑囚は捜査困難
な事件刑務所に居ながら解決し、結果的に主人公の手助けをする。同じ
様なシチュエーションとしては映画の「羊たちの沈黙」などを代表に幾つ
か見られるのだが、この作品もソレらと同系統。しかし死刑囚側が「サイ
アクなサイコパス」である、というありがちな設定が、若干マイルドにな
っているところがポイント。

コレのおかげで「もしかして冤罪?」という雰囲気がふんだんに流れ、逆
に主人公が苦悩する様が手に取るように解る。まぁ、冤罪であろうがなか
ろうが、スカウトマンをやっていた、というだけで死刑囚がクズであるこ
とは間違い無いのだが、それでもなんとなく死刑囚側に感情移入してしま
うのが不思議。

そして、死刑囚の支援者チームとして登場するサブキャラたちが個性豊か
で魅力に溢れ、ドリームチームのような息の合った動きを魅せる。冷静に
考えればいろいろ無理がある展開ではあるのだが、ソレをなんとなく納得
させてしまうところが、佐藤青南のテクニックな気がする。

物語の中盤から終盤にかけ、警察側死者連発
謎はどんどん深まっており、今後の展開がかなり気になる。ストラングラ
ーシリーズ、ちょっと追いかけるのが楽しみ!

怪物に出会った日

#願掛け成功


怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ / 森合正範(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2023年10月末頃、井上尚弥マーロン・タパレスを破って自身2階級目
となるスーパーバンタム級四団体統一王者となる少し前にリリースされ
ノンフィクション

井上尚弥と闘い、敗れた選手へのインタビューで構成された作品。
コレが単行本になる前、どこかのウェブサイトにオマール・ナルバエス
章のみ掲載されており、ソレが非常におもしろかった。なので、発売日に
購入を、と考えていたのだが、状況を鑑みて自分で待ったをかけた

この段階で井上尚弥はまだWBC/WBOの王者。しかし、次戦がWBA/IBF
王者のマーロン・タパレス、と決まっており、その結果が出るまで待った
方がより楽しめる、と判断したため。もちろん尚弥は当然の様に四団体を
統一したので、その段階で購入しても良かった。しかし、あっという間に
次戦が決定。先週東京ドームで行われたルイス・ネリ戦である。

ここで、僕はかんたんな願を掛けた
この本を読むのは、尚弥がネリをボコボコにしてからだ、と(^^;)。この
願掛けが見事に成功したのは、こちらで報告した通りである。

そんなこんなでようやく読めたノンフィクションは、重厚にして切ない
内容。負けたボクサーにも、もちろんキャリアやビジョンがあった筈で、
ソレを粉々にされた、という事実を考えると、インタビューを行うのにも
勇気が必要だった筈。しかし、この作品に登場する殆どの選手が雄弁に負
け試合を語る様は皆一様に清々しく「”怪物”と拳を交える」という奇跡
を、武勇伝の様に語っているところがおもしろい。

特に印象に残ったのは、デビュー時の井上尚弥と真っ向勝負し、フルラウ
ンドを倒れずに闘い抜いた、後の世界王者である田口良一のインタビュー。
“男には負けると解っていても闘わなければならない時がある”という格言
を地で行くようなエピソードに、思わず胸が熱くなった

コレは本当にすばらしいノンフィクション
願わくば、井上尚弥が王者のうちにナルバエスJr.との試合が実現してくれ
たら嬉しい。そうなったら胸アツどころの話じゃ無いな、マジで。

人間標本

#誰が異常?


人間標本 / 湊かなえ(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨年末に発売された湊かなえ新作
湊かなえ作品はおおよそで発売されたらすぐに購入する案件なのだが、今回は
電子書籍リリースまで待った。紙の本だと読まないかもしれないので(^^;)。

この作品、女史の作家デビュー15周年を記念した書き下ろし。
『初代イヤミスの女王』の記念作らしく、キャッチコピーには“イヤミス”とい
う言葉が踊っており、さらに意味深なタイトルから完全なるイヤミスを想像し
たのだが、ちょっと違う感じが・・・。

幼い頃に“蝶”に魅せられ、そのまま蝶の研究者になってしまった大学教授が、
猟奇殺人を犯し、その罪を告白することから始まる物語。起こった事件は正に
イヤミスのソレなのだが、事件の真相と、本来なら表に出ることのけして無い
真犯人の存在を炙り出していくタイプの『ザ・ミステリー』

展開は非常に重く、真相が二転三転する度に、心が七転八倒する。
この「重さ」を維持したまま、緊張感が途切れさせずに作品を完結させてしま
う技量は凄まじく、作家自ら『最高傑作』と表現するのも頷ける。

根本にはおそらく”イヤミス”が存在するのは間違い無い。
しかし、イヤミスを消化した上で本格ミステリに仕上げるあたり、完全に作家
としての殻を一つ破ったのではないか?と。

コレはオススメ。絶望感を味わいたい人は是非どうぞ!

Gスピリッツ選集 第一巻 昭和・新日本篇

#待っていたダイジェスト


Gスピリッツ選集 第一巻 昭和・新日本篇 / Gスピリッツ編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

G SPIRITS BOOK vol.19として発売されたのは、テーマ別再編集版書籍
Gスピリッツに関しては創刊号から現在に至るまで、関連書籍を含めて全て所持
しているのだが、判型の大きさと、バックナンバー“物量”の膨大さのおかげで
オリジナルを読み返すのがやや困難。なので、こういうダイジェスト版が出るの
は本当に大歓迎。

第一巻のテーマは、やっぱり「昭和・新日本」
もちろんどの記事も確実に読んだことがあるのだが、これだけの物量を一つのテ
ーマでまとめて来られると、まぁ圧倒的な迫力。おもしろかったのはやはり新間
さんが関わる部分で、やたら見事な大言壮語ぶりを如何無く発揮。コレは昔から
一切変わっていない、というのが凄い。おそらく黎明期の新日本に関わった人の
中で、いちばんアクティブな上に才能があり、そして極悪人だったのは、新間寿
で間違い無い、と思った。

ちなみにコチラはKindle版もアリ。
今回はどちらを買うべきかかなり迷ったが、結局書籍版を購入。どうやらコレは
間違いだったようで、絶対に電子書籍版の方が便利だった、と思います、ええ。
早い段階での昭和全日本、そして日本プロレスをテーマとした続編のリリースを
希望!次はKindle版購入かな?

合理的にあり得ない2

#元弁護士の奔走


合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明 / 柚月裕子(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柚月裕子の新刊が出ており、ソレを購入しようとしたところ、まだ未読の作品
を発見。以前読んだ作品の続編なので、先にコチラを購入してみた。

『合理的にあり得ない』は、弁護士をクビになり、探偵に転向した上水流涼子
が主役の作品。今回は全3篇から成る連作短編集で、前作に比較すると1篇が
やや長い構成。最初こそ前回同様“禁止動物密輸”を行っていた悪徳商法業者
一網打尽にする話だったが、他の2篇少々重たい内容だった。

3篇目「立場的にあり得ない」は、ある事情で摂食障害になってしまった女性
を、涼子が救う物語。しかもコレ、あの涼子がほぼ無料で仕事を引き受けてお
り、原因究明から解決までの流れが非常にしっくり来る佳作。こういう手法も
あるんだなぁ、と思わず感心してしまった。

この作品、ちょっと前に天海祐希主演でドラマ化された。
かなりハードな作品なハズだったのに、内容がコミカルに寄っていたところが
逆に面白かったのだけど、コレの3篇目はちょっとコメディにし辛いかも、と
か思った。というか、“漢”である柚月先生は、自分の作品があのテイストにな
ったことに納得していたのか?と邪推してしまう僕がちょっとイヤ(–X)。
ちょっと神経質になってるかなぁ、アレ以来・・・。