アキラとあきら

▼アキラとあきら / 池井戸潤(Kindle版)

池井戸潤の新作は、文庫電子書籍でリリース。
僕はもちろんKindle版をチョイスしたのだけど、書店で文庫の束を見たら、
これが尋常で無い厚さ(^^;)。電子書籍だとそういうのを意識することが
あまり無いのだが、なるほど確かに長かった。しかし・・・。

・・・ただただ、凄い
この長さの作品をたった2日で読了させてしまうのだから、物語のすばらし
さはとんでもないレベル。そして、氏お得意の“銀行系”にやっぱりハズレ
は無い。池井戸ワールド全開、経済モノなのに手に汗を握らせる読み応え
たっぷりの長編に仕上がっている。

今作のポイントは、やっぱり主人公が「瑛」「彬」2人であるという
こと。どちらも読みは「あきら」だが、境遇の全く違う2人がメキメキと
成長し、優秀なバンカーとなって難関に対峙する様は、ちょっとした大河
ドラマ。胸のすくような展開は、間違いなく読者を魅了すると思う。

半沢シリーズ花咲シリーズの時にも感じたのだが、この人の描く銀行員
は皆とても魅力にあふれている。例えば、読書好きの小学生・・・まぁ、高学
年になるだろうけど・・・がこの作品を読み、将来は絶対にカッコイイ銀行員
になる!とか決心してしまうかもしれない。

解説によるとこの作品、実は過去の雑誌連載(2006-2009)をまとめたも
ので、「下町ロケット」よりも古い物語である。にもかかわらず、古くささ
の類は一切感じない。逆に、どうしてこれまで寝かせていたのか、非常に
疑問が残る(^^;)。リリースされて良かった、と心から。

そしてこの作品、7月WOWOW連続ドラマW枠で映像化されるらしい!
・・・なんか凄いことになりそう♪

笑いのカイブツ

▼笑いのカイブツ / ツチヤタカユキ(Kindle版)

各所で話題の「イッちゃってる構成作家」ツチヤタカユキのデビュー作。
単行本はちょっと大きめの書店で平積みになっているのだから、それなりに売れ
てる本だと思うのだけど、何故だかKindle Unlimited。取り敢えず読んでみた。

確かに、評価されるのは非常に良く解る。街でしばしば見かけるようなちょっと
オカシイ人の心情って、もしかしたらこんなんじゃないか?とか思う。圧倒的な
“人間臭さ”がそこらじゅうに漂う筆力は、異様な「圧」を感じざるを得ない。
こういう人が、本当におもしろいネタを書くんだろうなぁ、と。そういう意味で、
説得力は抜群の作品ではある。だけどね・・・。

そういうとこも含めて、お前らみたいな種類の人間が羨ましいんだよ、オレは!
と叫び出したくなる。お笑い以外は何も出来なかったとしても、その世界では
有名人になってるじゃねぇか! 世間に認められてるじゃねぇか! もしそういう
才能がオレに1つでもあったのなら、おそらく他には何もいらない。そんな生き
方が出来なかったから、こうなるしか無かっただけのこと。オレから言わせれば、
お前こそが全部持っているこれみよがしに自慢すんじゃねぇ!

・・・というのが、正直な感想(^^;)、かな。
おそらくこの作品を読んだ人は、良い評価だろうが悪い評価だろうが内容は絶対
「熱い」筈。僕ですらこういう熱い感想を持ったのだから、「凄い本」だとい
うのは認めよう。クセはすっごく強いけど(^^;)。
・・・あと、大阪弁がやっぱイヤ(^^;)。

めぐり会い

▼めぐり会い / 岸田るり子(Kindle版)

しばらく読書対象作家作品のリリースが無いため、Unlimitedで適当に探した作品。
チョイスしたのは岸田るり子というこれまで全く触れなかった作家の作品。ちょ
っと時間をかけてゆっくり読もう、とか思ったのだけど・・・。

いや、ビックリ。この作品、普通に面白く、あっという間に読了!
バタフライエフェクト、かんたんに言えば「風が吹けば桶屋が儲かる」をモチー
フに構成されたヒューマンミステリー二人語り部が交互にエピソードを紡ぎ、
最終的に驚くべき交錯を見せる、非常に緻密な物語

ちょいネタバレ注意なのだけど、いろいろな問題が起こりながらもその全てがし
っかりリンクし、さらにハッピーエンド(?)に近いところまで話を持って行く
テクニックはなかなかのモノ。この作家、ちょっと他の作品もチェックしてみた
くなった。

難を言えば、キーになる「ある文章」繰り返し掲載がちょっとしつこいところ
と、舞台が京都であり、その地理に明るければもっと楽しめたのかもしれないと
ころ。しかし、特に京都に詳しくなりたいワケでは無いからなぁ・・・。まぁ、ど
ちらも大きな問題では無いけれど。

Unlimitedサービスの作品だが、課金する価値も充分にある。読み放題ユーザー
でミステリー好きな人は、確実に読んでおくべき。秀作です。

素敵な日本人

▼素敵な日本人 / 東野圭吾

東野圭吾の新作。
9篇ミステリーが収録された短編集で、最近定番になりつつあるソフトカバー。
東野圭吾の場合、連作短編の秀作は山のようにあるのだが、“純粋な短編集”とし
ては2011年に発売された「あの頃の誰か」以来。従って、氏にしては非常に珍し
い構成かと。

僕の東野圭吾歴は、連作短編集の「探偵ガリレオ」から始まっている。東野歴、
と言うより、僕の今みたいにミステリーを中心とした小説作品をバカみたいに読
、というスタイルは完全にこの偉大な作家の影響。特別すぎるほど特別な作家
が、僕の原点でもある短編集を出す、というのだから、コレは期待しないわけに
はいかない。果たして・・・。

・・・いやぁ、凄いわ、コレ
充分に練られたトリックと、澱みが全く無くスパッと入ってくる文章。「あ、オレ
今東野圭吾読んでる」と感じさせてくれる、すばらしい一冊に仕上がってると思う。

全9篇にハズレは一切なし。内容とあまり関係の無いタイトルかと思いきや、読了
してみればなるほどどれもが“日本的”なミステリー。久々に光の速さで読み終わり、
さらにもう2〜3篇読みたくなっちゃうのだから、正直脱帽である。

オススメは猫好きなら感涙してしまう「サファイアの奇跡」と、まさかのオチ
驚愕せざるを得ない「君の瞳に乾杯」。というか、全部面白いのでミステリー好き
なら確実に入手すべし! もちろん、良質な短編を探してる人もぜひ!

翼がなくても

▼翼がなくても / 中山七里 (Kindle版)

中山七里の最近(2017年1月)の作品。
オリンピックを狙えるポテンシャル持つ女性スプリンター・沙良が、不慮の交通
事故で左足の切断を余儀なくされる。加害者は隣の家に住む引きこもりの幼なじ
み・泰輔。いきなり全てを失った沙良は、当然のように泰輔を深く恨むのだが、
その泰介が死体で発見される。犯人は? そして沙良の未来は?・・・という内容。

ミステリーとして発表されているが、今作に関してはその部分がメインでは無い。
オリンピックを目指していたアスリートが、不屈の精神でパラリンピックを目指
す様子が赤裸々に描かれていると共に、日本におけるパラスポーツの問題点が浮
き彫りになる構成。硬派な人間ドラマである、と思う。

そういうわけで今回のミステリー部分はそれほど大きな役割は無いのだけど、
登場人物はやたら豪華犬養刑事の登場は驚きつつも展開上“ある話”な気がする
のだが、まさかこの手の話にあの御子柴弁護士が登場してくるとは・・・。
犬養と御子柴という中山作品二大スターの邂逅には注目せざるを得ず、人間ドラ
マの中で効果的なアクセントとなっている。

最近、各所でパラリンピアンのデモンストレーションを見る機会があるのだが、
単純に彼らは「凄い」。車椅子バスケの選手のマシンの取り回しはある意味で
芸術に近い技術だし、ウィルチェアラグビーの選手に全力でタックルされるよ
り、軽自動車と正面衝突した方がいくらかマシ、とすら思える。ただ見ている
だけでも充分に楽しめる競技なのに、やはりオリンピックスポーツに比較する
と悲しいまでに人気が無い。でも・・・。

この作品がきっかけとなり、パラスポーツがもっと一般に認知されるようにな
り、競技者と技術者が本気で取り組める体制が日本でも出来ればいい、と思う。
3年後東京で行われるパラリンピックで、日本人メダリストが一人でも多く
輩出されるように・・・。