文庫X・読了!

「文庫X」読了。
この本の概要については、以前のエントリで述べたのでおおよそを割愛する。

さすがに他の本と同じようにレビューするワケには行かないので、この企画
流儀に則った状態で書かせていただきたく。

まずこの本で明らかになっているのは、“価格810円・ノンフィクション・
500ページ以上”の3点のみ。マスカラスオーバーマスクの如く、通常の
文庫カバーの上にさらに手書きの表紙が被されており、その正体は買った人
のみが解る、というな売り方。

三省堂東京駅店でこの本を購入する前に、ある程度予想してみた。
500ページを超えるノンフィクションでありながら、書店員が太鼓判を押す
ほどの作品を書ける作家、と言うのは、日本にそう何人も居ない。この段階
でちょっとピンと来た。もしかしたら、あの作品なのではないか?と。

2013年6月、某サイトの依頼で書評を書かせていただいた、あまりにも衝撃
的なノンフィクション。仕事で読み始めたにもかかわらず、小説よりも奇怪
で残酷な内容に完全に魅了された。某サイトには僕のレビューの何本かが今
も掲載されているが、入魂具合は随一(^^;)。あの本なら、書店員が推すのも
あり得る、と考えていたのだが・・・。

予想は半分当たった
「文庫X」の著者は、あの衝撃的なノンフィクションを書いた作家と同一
別の作品であったのは幸運であり、あの時感じた衝撃と同様の何かを、今回
も十二分に感じた。なんなら入魂のレビューをすぐにでも書きたいのだけど、
内容に触れるのは企画元である岩手県盛岡市・さわや書店フェザン店に失礼。
12月9日に行われる「文庫X開き」まで、レビューは控えようと思う。

文庫X、すばらしい企画。著者発表会まではまだ間がある。本が好きな人は、
ぜひこの企画に乗って欲しい。エキサイトするよ、きっと。

九月の幻

▼九月の幻 / 夏目杏子(Kindle版)

Kindle Unlimitedよりチョイス。
夏目杏子、著作はこの作品しか発見出来ないので、おそらくインディ系

表紙のデザイン煽り文から、いわゆるコテコテの“不倫系”の作品を想像
していたのだが、それは半分アタリ半分ハズレ。不倫の要素も一応入っ
てはいるのだが、コレは完全に「ファンタジー」にカテゴライズされるべ
き物語である。

目次を見ると全9話。かなりの長編と思ったら意外とそうでもなく、気が
ついたら読了している、という良い意味でコンパクトな作品。ストーリー
が展開する部分は不覚にもちょっと驚いた「そう来たか!」という感じで。

ただ、いくつか問題も。
展開を付けてからの流れがやや冗長に感じるし、説明アイテムに“日記”
持ってくるのも今どきちょっと無理がある。後半が無ければ物語としての
ボリュームを保てない、という判断だと思うのだけど、短くなることを恐
れなくてもそれなりの清涼感を以て終われた気がするのだが・・・。
あとはもう個人的な問題で、大阪弁がちょっと(^^;)。そこはまぁ好き好き
だと思うんだけど。

とはいえ、イヤミが無くストレートな文体にはかなりの好感。
次の作品、ちょっと期待してます!

ギロチンピエロ

▼ギロチンピエロ / 鮫島健太(Kindle版)

飛行機に乗る前にKindle Unlimitedよりチョイス。
鮫島健太とは、おそらくインディーズ系の作家であり、Kindleストア内に
いくつかのホラー作品が。コレに関しては福岡-東京間で余裕で読み切った。

全3篇からなる短編集。
どのエピソードも舞台は僻地の山村であり、どうやら同じ「村」の話。
それなりに不気味な話なのだが、起こる事件がマチマチで統一感に欠けて
いるのが残念。内容も正直かなり無理があり、故にリアリティも希薄。
このあたりが今後の課題になっていくんだろうなぁ、きっと。

しかし、タイトルロールの「ギロチンピエロ」に関してはかなり読み応え
を感じた。いじめられっ子だった子どもの精神がどんどん残酷・残虐になっ
て行く様には戦慄したし、ちょっと強引なオチも充分に納得出来たので。

Unlimitedにはインディーズ系の作家の作品が多数登録されているから、
以前より「宝探し」のハードルが低くなった。なんつったって読み放題
ので。晴海まどかのような作家に、またどこかで出会えるといいんだけど。

恋のゴンドラ

▼恋のゴンドラ / 東野圭吾

東野圭吾最新作は「白銀ジャック」から続く“雪山シリーズ”書き下ろし
雪山シリーズと言えば、氏お得意のウィンタースポーツにフォーカスした
コメディ要素のあるサスペンス、というのがこれまでのパターンだったの
だが、今回は違う。なんと、全編が特殊な恋愛小説なのである。

体裁は連作短編で、篇ごとに語り部が変わる形式。最終的に全ての話が繋
がってオチが付く、という王道パターン。しかし・・・。

最初の篇を読み終わった段階で「なにこれ???」と思った(^^;)。
東野圭吾には「歪笑小説」「毒笑小説」等のブラックに寄ったコメディ
も多々あるのだが、この作品はこれまでのコメディと全く違うタッチ。
正直、東野圭吾作品とは思えなかったくらい。

とにかく全編でニヤニヤが止まらない程の秀逸なコメディなのだが、そこ
はさすがに稀代のミステリー作家。笑いの中に伏線を多く散りばめ、最終
的にそれらを全部拾いきってしまうのだから、もう本当に恐れ入る。

スリル満点のブラック恋愛小説、とでも言えばいいんだろうか?
東野圭吾、また新境地を切り開いちゃったのかもしれない。

最後の最後まで底意地の悪い小説だけど、これまでの雪山シリーズの中で
は完全に異色の作品であり、満足度は不思議に高い
帯の「この恋の行方は天国か地獄か」は名キャッチ。オススメです、これ!

プロパガンダ・ゲーム

▼プロパガンダ・ゲーム / 根本聡一郎(Kindle版)

週プロ定額購読のために申し込んだKindle Unlimitedサービス。
せっかく読み放題なんだから小説も少し漁ろう、ということで深く考えずに
チョイスしたのがこの根本聡一郎作品。

そのものズバリタイトル挑発的な表紙のデザインで最初は軍事モノだと
思ったのだが、なんとこれは「就職」「最終選考」の様子が描かれた物語。

大手広告代理店(モデルは間違いなく今話題のD通^^;)の最終選考に残った
男女8人「政府」「レジスタンス」の2チームに別れ、バーチャル国家
「パレット」が行おうとしている「戦争」についてそれぞれの立場で広報
活動を行う。決着はバーチャル国家国民の「投票」で行われ、政府側は賛成
レジスタンス側は反対の結果を目指す、という内容。

およそ8割はこの「プロパガンダ・ゲーム」と名付けられたゲームの実況。
それなりに文章量はあるのだが、展開がスピーディーかつスリリングなので
あっという間に読み終わってしまう。刻一刻と変わっていく状況に手に汗を
握らずにいられない状況。そしてこの作品のポイントは“ゲーム終了後”にあり、
そこを読んだらで誰もが唸るハズ。かなりの傑作、と言っていいと思う。

実際に近場で起こりうる話であり、そういう怖さに溢れたエピソード。
あの仕事に着手した時、ボスに「返事はハイかイエスだ!」とハッキリ言わ
れ、麻薬に侵されたかのようにその言葉通りに動き続けてしまったことを思
い出した・・・。

・・・正直、Unlimitedで読んでしまったのが申し訳無いくらい(^^;)。
お詫びにUnlimited対象になってる根本聡一郎作品、全部読ませて貰います!
10ページ読めばメーカーに1冊売れたとカウントされるらしいので(^^;)。