アンマーとぼくら

▼アンマーとぼくら / 有川浩

待望と言って過言の無い、有川浩最新作
純粋な小説としては、2014年にリリースされた「キャロリング」以来だから、
どうしても期待値が高くなる。もちろん、僕もかなり期待して読んだ。

舞台は沖縄で、32歳の青年義理の母親と共に、亡き父の思い出の地・沖縄の
各所を巡る話。沖縄ローカルの人たちしか知らないようなとっておきの場所か
ら首里城のような王道観光ポイントまでが多岐に渡って紹介されている。

基本的に沖縄好きな僕ですらかなり反応出来る紀行文。おそらくコレは未だに
彼の地を踏んでいない人たちにも有効であり、ちょっとした指南書の役割を果
たす筈。よし、沖縄へ行こう!という人は一読してみるといいかもしれない。

ただね・・・。
僕と同様の有川浩のファンの人たちへ問いたいことがある。
・・・これ、面白かった?

帯には有川浩自身の言葉として「これは、現時点での最高傑作です」とある。
もし本人がそう思っているのであれば、それは彼女の過去の作品に対して凄く
失礼な気がする。ロードムービー的な手法もあざとさが先に立つし、女史の
同種の傑作である「旅猫リポート」のレベルには遠く及ばない。

作家本人の言葉に反論するのは正直遺憾だが、これまで読んで来た有川浩作品
の中では、最高にときめかなかった。レベルで言えば、デビュー作の「塩の街」
と同等くらい。ただし、アチラは有川浩の今の形が出来上がる前の作品だと考
えると、僕にとってはこの作品がいちばん・・・。

僕の読書スタイルが変わったのか、それとも有川浩が変わったのか?
今後もこの状態が続くとは思わないし、思いたくも無い。ただ、今は正直コレ
を最高傑作だとコメントする有川浩の精神状態が、本当に心配だ。

私が失敗した理由は

▼私が失敗した理由は / 真梨幸子

我が“教祖”こと、真梨幸子の最新作。
もちろん、今回も極上を更に極めたレベルザ・イヤミスである。

幸子様は僕にとってもう特別な作家であり、判官贔屓がどうしても出てしまうの
だが、冷静に分析してもその成長が新作が出る度に確認出来る現在進行形タイプ
凶悪な心情描写は昔から鋭かったのだが、現在はコレにレベルの高いミステリー
という要素が加わっており、そこから創り出される物語はスリリングなことこの
上無い。さらにリリースタイミングが非常に安定しており、そろそろあの悪意に
塗れたい、と感じる頃に必ず新作が出るのだから、マニア層の期待を絶対に裏切
らない。考えてみれば、とても凄い作家な気がする。

この自己啓発書のようなタイトルと装丁の作品も、もちろんその枠の中。
登場人物は誰も彼もが最悪、そして最低であり、救いようはまるで無い。ただ困っ
たことに、勘違いをし続けた人間がどんなサイアクな最後を迎えるのか?という、
これまた最低な興味を、僕は全く抑えることが出来ない。夢中になって読んでい
る途中で、ふとそういう下衆な自分が本当にイヤになったりもしてしまうのだが、
それでも読みたい、という衝動は治まらない。完全に突き抜けた、ある意味で
最高の作品である。

今回、珍しく真梨幸子は実在する作家の実在する作品に対し、総攻撃をかける。
糾弾された作家・作品とは誰で、何か? ・・・ソレを確認した時に、真梨幸子とい
う作家の恐ろしさが、否応無く解ると思う。

この世の誰が読んでも、サイアクで最高の悪意を感じられる筈。
幸子サマがブレない限り、この快進撃は当分続く。願わくば、末永く!

水族館ガール

▼水族館ガール / 木宮条太郎(Kindle版)

NHKでオンエア中のドラマ「水族館ガール」がかなり面白い状況。
良い機会なので、Kindleストアで同名の原作を購入。木宮条太郎という作家は
もちろん初めて。現在のところ、3作シリーズになっているらしいのだが、
取り敢えず1作目を購入してみた。

この原作とドラマの脚本は、思った通り細かな設定が多くの場面で違う。
“市役所の観光課に勤務する女性公務員が系列の水族館へ異動”、というシチュ
エーションの方が、ドラマの“商社勤務のOLが理不尽な陥れで水族館へ左遷”
よりも自然な流れ。さらに登場人物の設定も原作の方が“無難”なので、ドラマ
で感じられたインパクトが、原作ではかなり薄まってしまっているのが残念。

そして後半部分で展開されるラブコメ的な要素が、正直ドキドキしない(^^;)。
特に何度も登場する主人公2人が見る「夢」の描写はハッキリとしつこく
そういう部分が好きな読者に対しては、かなり逆効果な気さえするのだが・・・。

とはいえ、「水族館」という、知っているようで知らない業務を、かなり掘り
下げている部分は評価に値する。立ち位置が明確になった主人公のこの先も、
正直言えばかなり気になる(^^;)。取り敢えず、シリーズは読破しとこうかな?

ZERO

▼ZERO 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子 / 内藤了(Kindle版)

藤堂比奈子シリーズ第五弾
今のところこの第五弾がシリーズ最終作であり、ここで一段落付けるかなぁ、
と思っていたのだけど・・・。

なんと、シリーズ初の連続モノ(^^;)。
今作内では事件は解決せず、次回作「ONE」へ繋がる構成。ラストも完全に
「続きは来週」的な仕上がり。いや、次作が既にリリースされているのなら
全く問題無いのだけど、秋まで待たなきゃいけない、ってのはちょっと(^^;)。

今回の作品ではこれまでのシリーズに登場した“稀代のヒール”が不気味な復活
を果たす。以降で「悪の首領」的な動きをするのはもう明白であり、一方的な
比奈子への因縁をどう転がしていくのかが焦点となる。そう考えるとフリにな
ったこの「ZERO」は良く言えばターニングポイントとも言えるのだが、にし
てもこの溢れ出す“ツナギ感”はさすがになぁ(^^;)。

おそらく次作の「ZERO」と併せて評価するのが良いかと。
我慢の効かない人は「ZERO」のリリースまで待った方が良いと思います。
失敗したな、実際(^^;)。

陸王

▼陸王 / 池井戸潤(Kindle版)

池井戸潤待望の新作はお得意の企業再生モノ
タイトルの「陸王」とは、埼玉県行田市老舗足袋製造メーカー「こはぜ屋」
が新規事業として参入・製作したランニングシューズの商品名。この奇抜な
シューズを軸に展開する、痛快なビジネス物語である。

ハッキリ言うが、これは「下町ロケット」の初作と全く同じタイプの話。
完全なる二番煎じであり、二匹目のドジョウを狙っているとしか思えない。
ところが、この二番煎じがメチャクチャ面白いのだから非常にタチが悪い(^^;)。

要因はいくつかあると思うのだが、まずは会社の規模感
ロケットの佃製作所も下町の中小企業ではあったのだが、いくつもの特許を所有
するハイテク系であり、従業員も数百人は居る会社。ところが、埼玉県行田市
いう微妙な地域に本社を構えるこはぜ屋は、社歴こそ100年を超える老舗ではあ
るが、従業員数はお針子のお姉様方を含んで20数名の中小にも満たない零細企業
主力商品は足袋もしくは地下足袋であり、今この時代に爆発的に売れる商品では
ない。無論、業績はジリ貧。そういう意味で言うと、佃製作所よりも我々庶民
シンパシーを感じやすい会社であるところがまず一つ。

そして、アイテムに対する親近感
ランニングシューズジョギングシューズはロケットエンジンのバルブシステム
や心臓の人工弁よりも確実に身近であり、思い入れを持ちやすい。試行錯誤を重
ねて形になっていくランニングシューズの形状を想像するのは楽しいし、実際に
は存在していない靴に妙な肩入れすら(^^;)。

つまり、下町ロケットよりも全てに於いて「等身大」な話であるところが、
最強の二番煎じを成立させている由縁。いや、やっぱりすげぇな、この作家♪

そして、内容はもちろんワンピースを彷彿とさせる「仲間たち」の物語。
終盤では「足袋屋」を小馬鹿にされると腹が立つくらいのめり込んでしまい
ましたよ、ええ。

ワンピースと言えば、タイトルの「陸王」“奇跡の王”こと、ドレスローザ
リク・ドルド三世(リク王)を連想。そう言えばあちらのリク王も庶民の英雄
だった。もしや池井戸潤、そこまで計算してたのか??
・・・もちろん、考えすぎだとは思うんだけど(^^;)。