30年目の帰還

▼ブルーザー・ブロディ 30年目の帰還 / 斎藤文彦

『超獣』ことブルーザー・ブロディ没後30年を機会に出版された本。
著者はファンから絶大な信用を誇るプロレスジャーナリスト及びエッセ
イスト、フミ・サイトーこと斎藤文彦

いまから30年前7月17日(日本時間)、プエルトリコ・バイヤモン
フォアン・ラモン・ルブリエル球場で行われていたWWC(ワールド・レ
スリング・カウンセル:カルロス・コロン代表)の興行開始前、同会場
シャワールームにて、プロレスラーのブルーザー・ブロディ刺殺
れた。刺したのは同じくプロレスラーで同団体のブッカーも務めていた
ホセ・ゴンザレス。ブロディは病院に搬送されたが、翌18日に死亡が確
認された。享年42

この作品の冒頭で、作者は我々に問いかけている。「いまから30年前の
7月18日、“あなた”はどこにいて、そのニュースを耳にしたのだろう」

・・・僕は何故かコレをハッキリ覚えている。
場所は今は無き新宿厚生年金会館の楽屋口。僕はコンサート設営のアル
バイト中で、同じ場所に居たプロモーターの人からこの話を聞いた。
この日の仕事は本当に上の空となってしまい、周囲には少し迷惑をかけ
たかも。その日の帰り、新宿三丁目駅売店で購入した東スポでソレが真
実であることを知り、強い絶望感に苛まれた・・・。

ブルーザー・ブロディという選手、好き・嫌いで言えば僕は決して好き
なタイプの選手ではなかった。しかし、当時の日本プロレス界に於いて、
凄く重要な登場人物だったことは間違い無い。なぜなら、我々の考え得
「夢のカード」一方には必ずブロディの名前が入る。好きだろうが
嫌いだろうが、認めざるを得ない。それがブロディだった。

この本の構成は、書き下ろしとなるブロディの生い立ちからフットボー
ラー・新聞記者としてのキャリア、そしてプロレスデビューから死に至
るまでのストーリーと、当時週刊プロレスに掲載されたインタビュー
2本立て。流れは終始淡々としているのだが、その分あの時の感情がリ
アルに蘇ってくる。

あの時、僕はホセ・ゴンザレスに殺意を覚えたし、絶対に実現すること
の無いハンセンvsブロディを思い絶望していたりした。でも、30年経っ
た今では違う感情を持っている。

ブルーザー・ブロディは、きっと刺されるべくして刺された
そして、ホセ・ゴンザレスにはそうしなければならない事情がきっと在
ったのではないか?と、今は思っている。

ブルーザー・ブロディという唯一無二のプロレスラーが全盛期のうちに
亡くなったからこそ、僕らは今でも「IF」の話をいくらでも出来る。もし
ブロディが実力の衰えた晩年をさらけ出してキャリアを終えていたら、
こういう状況にはならなかった、と思う。間違い無くスキャンダラスな
事件であり、二度と在ってはいけないことだが、ブロディはそういう
「最後」を我々に提供してくれた。そんなプロレスラーは、他に居ない。

昭和プロレスファンであれば、昭和プロレス最後のエースガイジンにつ
いてもう一度検証すべき。好き・嫌いのレベルで語るワケにいかないレ
ベルにいた男の人生には、必ず何かがあると思うので。