ありがとうU.W.F.

▼ありがとうU.W.F. 母さちに贈る / 鈴木浩充

どういうワケだか最近リリースラッシュが続くUWF関連書籍
本命・・・というか、リファレンスとなるべき柳澤健「1984年のUWF」
皮切りに、そのアンサーとも言えるインタビュー集「証言UWF」など、
読み応え抜群の作品が多かった。しかしこの作品、これまでずっと「謎」
とされており、好き勝手な見解だけが先走っている現在のUWFを取り巻
く状況を打破する作品となるかもしれない。なぜなら、著者鈴木浩充
そう、あの新生UWFと呼ばれた株式会社ユー・ダブリュ・エフにて、
神真慈氏と共に専務取締役を務め、UWFを特別な場所まで押し上げ
た人である。

神社長・鈴木専務の2人に、30年近く取り憑いて離れないイメージは、
「横領フロント」。プロレスファンは誌面に載るプロレスラーの発言し
か拠り所が無く、例えば前田日明の発言こそ真実、と信じ込んでしまう
風潮が否めない。これに加え、新生UWF崩壊後の2人は公に対しての発
言を一切しなかった。ある意味“犯罪者”というレッテルを貼られたまま、
それを受け入れて地下に潜ったのだ。

この本は自費出版である。
これまでずっと沈黙を貫いた伝説のフロントが、どうして今になってか
ら著作を発表したのかと言うと、タイトルにある通り自らの母親のため
母が“自分の息子が泥棒扱いされている”ことで心を痛めている、という
事実を知り、ここで改めて身の潔白を証明しようとした。だから、大手
の出版社にも、ライター・作家にも頼らず、「自らの言葉」だけで表現
出来る自費出版にてこの本をリリースした、とのこと。

そもそも、UWF解散時にフロントの2人が本当に横領していた、と思っ
ているファンは、実はそれ程多くないと思う。会社を起ち上げたのは紛
れもなく神・鈴木両名であり、そこで得た利益の使い途は役員で決めて
構わない。そんなことは通常の会社に務めている人なら誰もが理解出来
ることであり、前田や他の選手の言うことがイマイチピンと来ない、と
感じていた人も少なくないハズ。ただ、ファンの心情的にはやはり選手
の味方をしたく、無条件に黙った2人のフロントに一方的に悪者になっ
て貰った、というのが本当のところだと思う。

この本を読んでいて、その考え方はおそらく正解だった、という思いを
強くしたのは間違いない。だからこそ、最悪とも言えるヒール役を買っ
て出てくれた鈴木専務には、ファンであった者としてここでちゃんとお
詫びとお礼をしておくべきだと思う次第。鈴木専務、本当にごめんなさ
い。そして我々のために悪者になってくれて本当にありがとうございま
した!

・・・というワケで、UWFに対する疑念はまた一つ晴れた。
ただ、正直「読み物」としてはちょっとだけ不満(^^;)。本職の作家さ
んでは無いのだから仕方無いが、せめて文章監修をいれるべきだった
気がする。まぁ、ファンであれば問題は無いと思うけど。
そしてもう一つ、UWF崩壊後の謎の会社「スペースプレゼンツ」に関す
る記述が殆ど無かったのが残念。その辺りのディープな話を、出来れば
また別のどこかで聞かせて欲しい気がする。

こうなってくるともう一人口を開かなければならない人が居る気が。
全てを時効にして良い今だからこそ、ご本人の言葉が聞きたいなぁ・・・。