栞子さんと果てない舞台

▼ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~ / 三上延(Kindle版)

第7作となるビブリア古書道シリーズ
前作から2年以上が経過し、正しく「満を持して」という状況でのリリース。

まずは読み誤りをお詫び。
「6」の時に「折り返し」とか書いちゃったのだけど、あの時点で完璧に終盤だっ
た模様(^^;)。そう、この「7」が長らく続いたシリーズの最終作三上延さん、
苦しかったんだろうなぁ、きっと・・・。

しかし、その苦労が思いっきり報われた「完璧」に近いラスト
シェイクスピアというやや難解な物件がキーアイテムであるにも関わらず、物語
がスッと入ってくる構成は見事。そしてこれまでのキャストオールスター的
登場させているにも関わらず、その辺りにチープさを全く感じさせないのもすば
らしい。もどかしかった二人の関係も確実に進展した模様だし、ここまでのハッ
ピーエンドを感じさせてくれる作品に仕上がるとは、正直予想もしておりません
でした、本当に。

当初はいわゆる「ラノベ」にカテゴライズされるシリーズと思って高を括ってい
たのだけど、今現在はこの作品群を(表紙以外^^;)ライトノベルと感じることは
全く無い緻密な取材と考証に基づいた、最高のブックミステリーと評価します。

本編が終わってしまうのはちょっと寂しいけど、どうやらスピンオフの準備があ
る模様。そもそもが連作短編、きっとそちらもすばらしいストーリーになる、と
確信しております。

取り敢えずシリーズ完結、お疲れ様でした
しかし、果てしなく広がって欲しい「続き」が定期的にリリースされることを、
心より願っています。良い本だ、コレ。

山猫珈琲(下)

▼山猫珈琲 下巻 / 湊かなえ

少し間を空けたが、湊かなえのエッセイ・山猫珈琲下巻を読んだ。
思った通り新聞に掲載されたモノよりも、こちらの雑誌系の方がかなり「自由」
おそらく文字の制限が新聞よりは緩く、思ったことを書きやすいんじゃないかと。
特に第三部“デビュー前夜”はあまりに凄まじい内容で、湊かなえが湊かなえで
ある理由が少しだけ理解できた気がする。

そしていちばんの注目は、特別収録されている2本のドラマ脚本
本当に初期段階の湊かなえの、「小説では無い形態」の作品が、瑞々しい魅力
溢れていることに非常に驚く。特に映像向き「ラスト・エレベーターガール」
は驚きの小粋なラブ・ストーリー。こういう属性があの湊かなえにあることが
かなり意外だった上に、やたらと面白い。なんならこういう小説を1本書いて欲
しい、と思った。もしかしたら、かなりすばらしい恋愛小説になるかも。

上下巻を通しても、やはり少し食い足り無さは感じたのだが、稀代のストーリー
テラー引き出しを確認出来ただけでも大きな収穫。次回作は少し違った感覚で
読めるかも。

理由(わけ)あって冬に出る

▼理由(わけ)あって冬に出る / 似鳥鶏(Kindle版)

ちょっと時間のあった時に持っていた本を読み終わってしまい(^^;)、ほぼ何も
考えずにUnlimitedでチョイスしたミステリー。もちろん似鳥鶏(にたどりけい)
という作家は初めて。

2006年に鮎川哲也賞で佳作に入選した作品で、その後「市立高校シリーズ」
してこの作家の中軸になっていく作品群の序章、とのこと。表紙の印象はかなり
アレチャラい(^^;)のだが、意味深なタイトルはそれなりに好印象。おかげで
あまり斜に構えず、フラットな状態で読了したのだが・・・。

キャラクター設定はなかなか面白い。ホームズとワトソンをそのまま日本の高校
に置き換え、ワトソンの方を語り部に据える、というアイデアは秀逸。文体は
かなりファニーで、読書中に思わず笑ってしまうやり取りも。個性豊かな先輩た
ちに翻弄されながらも、知らず知らずのうちに状況を楽しんでいる主人公の心情
描写が楽しく、肩の力を抜いて一気に楽しめる佳作、と言っていいかもしれない。

しかし・・・。
ミステリーとしての組み立てはさすがに少し簡易過ぎるかも。特に最初最後近
の取って付けたような伏線の処理に関しては、思わず苦笑いをしてしまった程。
ただ、この部分は予想もしていなかったオチでキッチリ取り返しているので、そ
れほど気にはならないのだが、問題は「笑い」の質。これは好きずきなんだと思
うけど、ちょっとラノベに寄ってる気がしないでもないんだよなぁ(^^;)。この
あたりがもう少し洗練されれば、東川篤哉ばりの抱腹絶倒ミステリーの域に達せ
る気がするだけに、少々惜しい感じ。

まぁ、これがシリーズ初作品であり、さらにデビュー作だ、ということを考慮す
ると、そこそこの満足度。後で調べたところによると、市立高校シリーズは現在
までに7作がリリースされており、続きもちょっと気になる。機会があれば続編
を読むことはあると思うので、その時にもう一度判断してみたい。はたして・・・。

山猫珈琲(上)

▼山猫珈琲 上巻 / 湊かなえ

「告白」での衝撃デビュー以来、もうかなりのキャリアとなる湊かなえ
驚いたことにこの作品が初のエッセイ集であり、上下巻が殆どスパンを置かずに
発売された。こちらの上巻は新聞連載をまとめたもの。さすがにビッグネーム、
掲載紙は朝日新聞・神戸新聞・日経新聞超メジャー系ばかり。さてさて・・・。

最近はソレばかりの作家では無いが、やっぱり湊かなえと言えば“元祖イヤミス”
女史にはやっぱりソレ系の文章を期待してしまうが故に、どうしてもその色が
出し辛いエッセイはちょっと敬遠してしまっていた。通常の湊かなえ小説なら、
ハードカバーがリリースされた瞬間に購入していたのに(^^;)。

そんな予想は半分ハズレ、そして半分は当たり

まずは、いわゆる「普通の文章」を書かせても、しっかり読ませてくれる作家
であることに改めて驚く。特に神戸新聞に連載されていた女史の現在の居住地、
淡路島に関する記述はどれもコレも魅力的で、明日にでも出掛けて行きたくな
るくらい。訳あって僕はソーメンという食べ物を憎んでいる(^^;)のだが、ここ
に書いてある鯛そうめんだけは食べてみたい、とか思っちゃうから不思議(^^;)。
かなえ先生、食レポの才能は凄いと思いますよ、実際。

しかし、しっかり読めてもやっぱり彼女の「普通の文章」は正直ちょっと食い
足りない気がするのも事実。一応下巻も買ってあるのだが、そちらは新聞より
も規制が少ないと思われる雑誌系。しかも、上巻では1本しか掲載されていな
かった特別収録が全体の1/3を占めている。そっちに期待しといた方が良いか
もしれないな、うん。

少女キネマ

▼少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語 / 一肇(Kindle版)

各所で話題になっている、という触れ込みの小説を電子書籍にて。
著者は「一肇」。こう書いて「にのまえはじめ」と読むらしい(^^;)。この段階
でちょっとした不安を抱いたのだが、さて・・・。

まず始めに言っておく。
間違いなく、「とても良い物語」だと思う。“映画制作”というある種ニッチな
世界を描きながら、暑苦しい青春モノの要素、あまりにも淡い恋愛モノの要素、
そしてかなり清々しいファンタジーの要素が程よいバランスで渾然一体となっ
ている。主人公を始めとする各キャラクターも皆一様にクセが強く、非常に魅
力的。従って、全体の完成度恐ろしく高い。だが・・・。

・・・もう本当に個人的な問題なのだけど、明治・大正時代のような言い回し
ちょっと苦手。文体自体は決して古くは無く、舞台も現代なのだが、どうして
台詞回しだけああいう書き方をしたのか? もちろんこういうテクニックが好き
な人も居るだろうし、そこに味もきっとある筈だとは思うのだが、出来ること
なら通常の言い回しで展開される物語を読みたかった、というのが正直なとこ
ろ。惜しいなぁ、凄く。

しかし、あるカテゴリー・・・映像・映画、演劇等・・・に居た人たちなら、絶対に
大きな影響を受ける気がする。かくいう僕も、少しだけ何かに火がついた気が
するのだから。

読後にちょっと調べたところによると、この作者はテキストアドベンチャーゲ
ームシナリオライター。言われてみれば、クライマックス周辺の怒濤の展開
や、ほっこりとした幸せを感じるラストなどは、RPG系のゲームをクリアした
時の感覚に酷似している。なんなら、このままゲームにしても良い気が・・・。

著者の他作品は今のところノベライズ系がほとんどのようだが、今後書き下ろ
しの作品がリリースされるのなら、その時は必ず読んでみたい。言い回しは、
出来れば現代風がいいけど(^^;)。