増山超能力師大戦争

▼増山超能力師大戦争 / 誉田哲也(Kindle版)

誉田哲也増山超能力師シリーズ第二弾
第一弾を読んだのが2013年だから、実に4年振りの新作。その時のレビュ
ーを読み返すと、「今後に含みを残した・・・」的な記述があったりしたのだ
が、その伏線は完璧に忘れてました(^^;)。さすがに4年空いちゃうとねぇ・・・。

しかし、初作はファンタジックコメディという印象だったのだけど、今作
はソレとは比べものにならないくらい重い展開。体裁も連作短編では無く、
長編の形式で進むため、ファニーな描写も単純に楽しめなくなっているの
がやや。ただ・・・。

読後感は氏の姫川シリーズジウシリーズを読了した後に酷似。
楽しげな台詞回しに加え、「超能力」という破天荒なネタを扱ったファン
タジーである筈なのに、妙なリアリティが全編に漂う。意図的に最後まで
ハッキリさせなかった黒幕の正体があまりに恐ろしく、最後には思わず
震いしてしまった程。

このシリーズ、もしかしたら僕の思っていたモノとは違う展開で、氏の
代表作になっていく可能性アリ。読み応えはタップリでした!

しかし、だ(^^;)。
TVドラマ版で主役の増山を演じたのがココリコ・田中直樹。彼の印象が
思ったより強かったので、今回は増山=田中のイメージで読んでしまった
のだが、今後ハードボイルド化した場合はやや厳しいかも。いや、田中の
ハードボイルドってのもアリなのかなぁ??

ドクター・デスの遺産

▼ドクター・デスの遺産 / 中山七里(Kindle版)

中山七里作品を続けて。
刑事・犬養隼人シリーズの新作だが、今回のテーマがあまりに「重い」
「安楽死」の是非・・・。問題作と言って良いかもしれない。

警視庁に入った「悪いお医者さんがうちに来てお父さんを殺した」という
少年からの通報。それをイタズラの類で無い、と直感的に悟った捜査一課
高千穂明日香は、上司の犬養隼人を伴って状況確認へ。少年の父親の通
夜が行われていた現場で関係者に事情を聴くと、日本では未だ認められて
いない「安楽死」を請け負う医師「ドクター・デス」の存在が浮上。そし
第二・第三の事件が起きて・・・といった内容。

中山作品はおおよそ瞬殺で読んでしまうのだが、今回は少しキツかった
どうも僕は「安楽死」全面肯定しているらしく、快楽連続殺人犯として
ドクター・デスを追い詰めようとする警視庁に全く共感できない。
僕の場合、死にたいときに死ぬために、誰かに依頼をかけたい時があると
思う。それをサポートしてくれる存在の何が悪いのか? 読後にも改めて
そう思った。

読み終わってから気付いたのだが、この作品はミステリーとして非常に
というべき作品。何が稀なのかと言うと、大きな意味での「被害者」と言
うべき者が一切存在しない。こういう仕上げ方もアリなのか、と感嘆した。

もちろん、中山七里の代名詞である「どんでん返し」もキッチリあるのだ
が、氏の作品をこれだけ読んでいるとさすがに読めるようになって来ちゃ
ったのかも(^^;)。真犯人は、珍しく最初に思った通りの人でした・・・。

・・・これは、オススメしていいのかどうか、正直解らない
しかし、入魂の力作であることは絶対に間違いないと思う。読中に辛い思
いをする人も多々居ると思うけど、覚悟が出来る人はぜひ。

秋山善吉工務店

▼秋山善吉工務店 / 中山七里(Kindle版)

中山七里作品。
これまでの氏の作品と大きく違うのは、まず表紙のデザイン(^^;)。
いかにも頑固そうな大工然とした爺さんイラスト一発。こういう雰囲気、
他の作家の作品ではよく見られる気がするのだが、コレはどんでん返しの
帝王である中山七里の仕事。内容が全く予想できないまま読み始めた。

突然の火災で家と世帯主を失った母1人・男子2人秋山親子。残された
妻子は夫の実家である秋山善吉工務店に仕方なく身を寄せる。全てを失っ
てしまったにも関わらず、親子それぞれに降りかかる厄災。そんなピンチ
を救ってくれるのは、“昔気質の職人・法被を着た不言実行”こと秋山善吉
一方、警視庁捜査一課敏腕刑事は、火災の原因を放火と疑い始め、秋山
家を追い詰めていくが・・・という内容。

・・・いやぁ、爽快
人間味溢れるヒューマンミステリーといった具合で、人間の弱さ脆さ
そして東京下町の人情味溢れる絆が丁寧に描かれている。特に登場から
衝撃とも言えるラストまで、一貫してヒーローで在り続ける秋山善吉
格好良さ粋さは凄まじいまでの人間力。我々世代の「理想の祖父」像
が、きっちり表現されているのがニクい。

これは是非とも続編を、と期待してしまうのだが、この構成でそれを望む
のはちょっと無理があるかも(^^;)。いや、なんならいろいろ無かった事に
してくれても構わないから、シリーズにして欲しいくらい。

一風変わった感じの中山七里を読みたい人はぜひ。
もちろん代名詞である「どんでん返し」、今回も冴え渡っているので。

ちょっと木になる童話集

▼ちょっと木になる童話集 / 木村洋平(Kindle版)

Unlimitedサービスを徘徊して見つけた作品。
いわゆるインディーズ系だと思うのだけど、著者の木村洋平氏の他作品
情報を見ると、クソ難しそうな哲学関係の訳書がいくつか出てくる。
プロフィールによると、東大哲学を専攻したライターさんらしい。
まぁ読み放題だし、そんなに期待しないで読み始めたのだけど・・・。

まずは「ああ、なんかいいなぁ」と感じる文体に好感。内容に関しては
もう完全に“童話”。著者自身がまえがきで語った通り、起承転結も脈絡
も希薄だけど、そこが非常に童話らしい。確かに幼少期、むかしばなし
や童話の類いに整合性なんて求めていなかった。そういう感覚を思い出
させてくれたことは、大きく評価したい。

残念な点は、あまりにも「短い」ということ。
10本の童話が掲載されているが、どの篇も1本5分以内で読み終わって
しまう。どうせならこれの倍〜3倍くらいの物量を一気読みしたかった。
そでなければ挿絵をふんだんに使って「絵本」的なモノにするとか、そ
ういう工夫が欲しかったかも。

童話としての味はあるし、テクニックもあると思う。出来ればシリーズ
化してもらって、もっとたくさんの「お話」を読んでみたい!
Unlimitedユーザーはちょっと押さえておいた方がいいかも。

variety

▼ヴァラエティ / 奥田英朗(Kindle版)

奥田英朗短編集
様々な出版社の様々な雑誌で発表されながら、これまで書籍化されなか
った短編を網羅した企画モノ。短編だけではなく、イッセー尾形山田
太一との対談ショートショートまで含む、文字通りヴァラエティに富
んだ一冊

もちろん各話に繋がりの類は一切無い。それどころか、作品のテイスト
はそれぞれがあまりに独特で、下手すれば同じ作家が書いた物語とは思
えない(^^;)。ただ、どれもが氏の代表作のプロトタイプ的なものばかり
で、奥田英朗の引き出しの多さに改めて気付かせてくれるのは見事。

ピンと来たのは、やっぱり広告代理店を辞めて独立する男の悲喜を描い
「おれは社長だ!」「毎度おおきに」の2本。更にオウム真理教の
事件をヒントに描かれた「住み込み可」も、読み応え充分だった。

しかし、いちばん印象に残ったのは「ドライブ・イン・サマー」
藤子不二雄Ⓐ先生の不条理系「笑うせぇるすまん」や「魔太郎がくる」
に近いブラックユーモア。とにかく主人公への共感度が凄まじく、読み
ながら一緒に腹を立ててしまったくらい。

もちろん奥田作品のファン向けの企画であり、最初の一冊として薦めら
れる本では無い。まずは氏の代表作を2〜3読み、琴線に触れたら押さえ
るべき本。ニッチな企画モノとしては、大成功してると思うので。