家族写真

▼家族写真 / 荻原浩(Kindle版)

荻原浩テーマ短編集
いわゆるファミリー系のエピソードが7篇収録されているのだが、殆どの篇で
主役を張っているのが定年間近のオヤジ世代。若い頃はそれなりに夢があった
ものの、今ではしがないサラリーマン、ITの進化に付いて行けず、嫁に早くに
先立たれる、という共通項。さらに全員が、体重に関して悩みを抱えている
というところまで同じ(^^;)。

例えば10年前にコレを読んでいたら、おそらく全く響かなかったハズ(^^;)。
ただ、現在の僕はここに描かれているオヤジたちと年代的には全く変わらず、
なんかもう共感度が半端ない感じ(^^;)。娘が居るワケでも無いのに、嫁に行
く娘のことを思って涙してしまうのだから、僕もかなり年をとった(^^;)。

ただ僕の場合、下手すれば彼らよりもずっと下層を歩いてるんだよなぁ・・・。
だから、こういう幸せは間違い無く手にできないワケで、そのあたりがちょ
っと腹立たしくもある。

氏の作品としてはややおとなしめだが、同年代をウルっとさせる人物描写
やっぱり名人芸。難点を無理に挙げるのなら、表題作「家族写真」がちょっ
とだけ食い足りない気が。かなり良い話なので、出来れば長編にリライトし
てくれると非常に嬉しい。

いわゆる昭和テイストの好きな人は是非!
・・・ちょっと運動しないとダメかな、僕も。波平5つしか変わらないし。

“レヴェルが違う!”生き残り術

▼To Be The 外道”レヴェルが違う!”生き残り術 / 外道

・・・最近何故かプロレス関係の書籍ばっかり読んでる気がするのだが(^^;)。
プロレスリングマスターこと外道自伝。最近ではプロレスラーと言うよりも、
レインメーカーことオカダ・カズチカプレイングマネージャーとしての活動
の方がやたら目立っているのだが、すれっからしのプロレスファンからすると
間違い無く「出来るヤツ」。いわゆる“いぶし銀系”職人の半生記である。

日本のプロレス界にまだ“インディ”という概念が無い頃にプロレスラーを志し、
そのインディの創世記の頃から活動を開始した外道。僕は彼の国内デビューの
頃からその存在を認識しており、あまりにも波瀾万丈キャリアを端から理解
している。だから、読む前から「まぁ、おもしれぇだろうなぁ」とは予想して
いたのだが、これがまぁ、面白かった(^^;)。

やっぱりFMW・ユニバーサル・W★INGあたりの話がやたら懐かしいのと、
「らしさ」がいちばん発揮された冬木軍の頃のエピソードの深さに思わず唸る。
今もマイクパフォーマンスの上手さには定評のある選手なのだが、そういう人
は媒体が“文章”になってもやっぱり面白い。新日本プロレスというメジャーな
団体で要職に就く、というのは、やっぱりそれなりのモノがあるんだと思う。

まぁ、こないだの鈴木みのるの本と同様、コレもプロレスラーになりたい人
絶対に読むべき本。更に、選手じゃなくともプロレス業界での仕事に興味のあ
る人にも効果絶大。もちろんプロレスファンなら掛け値無しで楽しめる。
そして関係の無い一般の人にもちょっと読んで欲しい。もしかしたら「仕事」
厳しさが認識出来るかもしれないので。

PRIDE

▼プライド / 金子達仁(Kindle版)

著者は金子達仁
この名前になんとなく覚えがあり、著作を調べてみたら、高田延彦「暴露本」
として話題になった「泣き虫」の作者。作風とか文体以前に、あの本には正直
悪印象しか無く、最初は普通にパスしようと思っていたのだが、どういうワケ
かKindle版が648円。ちょうど読む本がなかったので、取り敢えず買ってしま
った。もしかしたらまたイヤな気分になるかもしれないのを覚悟して・・・。

・・・ちょっと驚いた
サイドストーリーの類いを悉くそぎ落とし、我々にとってリアルに「悪夢の日」
となった1997年10月11日にだけフォーカスした構成、そこにまつわる関係者
たちへの的を得た取材。ノンフィクションとしては異色な作り方であるにも関
わらず、グイグイ読ませる。金子達仁、実は凄いライターだった。

この本の主役である3名(高田延彦・榊原信行・ヒクソングレイシー)に、今や
正であれ負であれ、思い入れのある人物は1人も居ない(高田に対しては複雑な
んだけど・・・)。あれからかなりの年月が経ち、僕もいろいろな事にをするこ
とが出来るようになった。嫌悪感を抱いていた“あの本”の中身をとうの昔に忘れ
ていたことも、逆に良かったのかもしれない。

そして冒頭、かなり大事な部分でいきなり登場した広島カープ捕手(当時)・
西山秀二のコメントが大胆に使用されていることにビックリ。この意外過ぎる
導入部分の効果は絶大で、もしココが無かったら最後まで読まなかったかもし
れない。日本の総合格闘技のエポックとなった「あの日」を構成したエピソー
ドの中に、西山さんが居たという事実。個人的に驚愕なんですよ、コレ。

とにかく、筋がビシっと通ったすばらしいノンフィクション作品
同じ系統のテーマを扱った作品が出るのなら、また読んでみたいと思う。
・・・まぁ、「あの日」を思い出すのはもう本当にイヤなんだけど(^^;)。

プロレスで〈自由〉になる方法

▼プロレスで〈自由〉になる方法 / 鈴木みのる(Kindle版)

専門誌「KAMINOGE」にて連載されていた連載が再構成・大幅加筆されたもの。
著者の鈴木みのるは皆さんご存じの「世界一性格の悪い男」。インタビュアーは
プロレス・格闘技ライターの堀江ガンツが務めている。

この本が出版されたのは2015年
鈴木みのるが「海賊」としてNOAHマットに定期参戦していた頃。選手の数が足
りず、苦境に喘いでいたNOAHに攻め込み、瞬く間に全てを奪い去って主導権を
握った。NOAHファンのストレスは相当なモノだったろうけど、もしあそこで外
敵として鈴木が登場しなかったら、きっとNOAHは潰れていた。つまり、ヤバそ
うな団体を建て直すだけの実力が、プロレスラー・鈴木みのるにはあった、とい
うこと。

そんな鈴木の本、いや、非常に面白かった。
僕と同い年の鈴木は、そういう理由でデビュー当時からずっと特別な思い入れ
持って見続けてきた選手。故にその波瀾万丈さをこちらは端から承知しているに
も関わらず、鈴木自身の口から語られる「あの頃」は本当に感慨深い。とにかく
随所でニヤっと出来る。でも・・・。

読む人選ぶんじゃないかなぁ、この本(^^;)。
もちろん我々のようなすれっからし系プロレスファンは喜んで読めるけど、そ
うじゃない人にはきっとなんのことやら解らないと思う。冷静に考察すると、こ
の本のメインターゲットはきっとプロレスラー、もしくはプロレスラーを志す人
であり、そういう人たちにはもの凄く響く気がする。というか、キャリア5年未満
プロレスラー及びその予備軍の人たちは、コレを読んでからリングに上がれ
とか思ってしまった(^^;)。

ただ、未だ現役の最前線で闘い続ける鈴木みのるは、やっぱり僕らの世代の憧れ
世界一性格の悪い男と呼ばれるプロレスラーが、実はいちばん理に叶っている事
を、僕はちゃんと知っている。だから、人生に疑問を感じたら、鈴木みのるの言
葉を聞くべき。この意味が解る人、絶対読んだ方がいい。

ちなみにこの本、なんと現在Unlimited扱い
・・・ある意味、今がチャンス!

Mystery Clock

▼ミステリークロック / 貴志祐介(Kindle版)

気が付いてみたら実に5年ぶりに読む貴志祐介作品。
メジャーな作家なのに、ここまで空いた、というのが不思議。今のところ読み逃し
は無い筈なんだけどなぁ・・・。

ということで久しぶりの貴志ワールドは、僕がハマるきっかけになった防犯探偵・
鍵のかかった部屋シリーズ第四弾。今回も短編集で、全四編「密室ミステリー」
が収録されている。ところが今回の密室、それらしいのは最初の1エピソードのみ。
残り3つがどれもこれも通常の密室とは違う異様な状況の中での物語となっている。

印象深いのはラストの「コロッサスの鉤爪」
海洋上で起こった殺人事件を密室と見立てるセンスがすばらしく、手がかりが一つ
出てくるたびに「おお!」と唸るような展開。物語を破綻させずに謎解きまで持っ
いく手法はこのシリーズの真骨頂なのだが、特異と言って良い環境でも無理なくそ
の状況を構築しているのは実に見事。この一遍だけでも読む価値大、と思います!

他の篇も基本的には面白いのだが、2本目「鏡の国の殺人」に関しては、正直苦手
“見取り図”的なグラフィックが無いと厳しい内容であることに加え、いわゆる芸術
的な造形物の想像が追いつかないのが原因。コレについては、映像もしくはマンガ
の方がいいかもしれない。

とにかく、大好きなシリーズに最新作が出てきてくれたのは非常に嬉しい。
そして、この作品はあのメンバー映像化されるべきだと思う。視聴率稼げるだろ
うなぁ、きっと♪