水鏡推理3

水鏡推理3 パレイドリア・フェイス / 松岡圭祐(Kindle版)

This is 一般職こと水鏡瑞希シリーズ第三弾国家公務員の彼女が所属する
「研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」
が今回挑むのは“地磁気逆転”とあと1つ。ついこないだ我が地元・千葉県
市原市で発見された例の地層がターゲットになっている。このシリーズ、
相変わらずタイムリーで良い。

最初の件を読んだ段階で、ちょっとだけイヤな予感がした(^^;)。
扱われている素材が思ったより全然難しく、もしかしたら興味が途切れて
しまうかと思ったのだが、さすがに松岡圭祐。小難しい理論な筈なのに、
終盤には全て解った気になっちゃったりしてるのだから凄い。

そして、通好みディテールの細かさも健在。まさかこのシリーズの中で
“猪木アリ状態”というワード出てくるとは思いませんでしたよ、ええ。

ただ。
シリーズに一貫して流れる清涼感はそのままだが、前作・前々作で登場
した魅力的なキャラが全く絡んで来ないのはちょっと勿体無い気がする。
と言うより、今回の官僚系キャラがあまりにすばらしいので、出来れば
次回に出番があって欲しい、との願望(^^;)である。

それと、相変わらず表紙がちょっとアレなのが気になるのだが(^^;)。
・・・他の人は大丈夫なんだね、きっと(^^;)。

夫以外

▼夫以外 / 新津きよみ(Kindle版)

ひさびさの新津きよみ作品。
「夫以外」という、あまりに意味深なタイトルをテーマにした全6篇
から成る短編集。

どの作品にも必ず「老齢期」、もしくは「人生の末期」に足を踏み込ん
女性が登場する。本来であれば、後は流れるように余生が送れる筈の
女性たちに「何か」が起こる展開。その「何か」は篇によって様々なの
だが、どれもこれもため息をつきたくなるくらいに切ない

もちろん、大好物のドロドロ系要素もしっかりあるのだが、そこに重き
を置いて読めるタイプの作品では決して無い。熟年女性の悲哀を、かな
り高いレベルでまとめた粒ぞろいのヒューマンストーリーである。

男の僕が読んでモノ悲しくなるのだから、同じ世代の女性はリアリティ
溢れる展開に読むのが辛くなる人も多々居そう。上質な作品なのだけど、
誰にオススメすれば良いか、ちょっと悩んでしまう作品でもある。

一定の間隔を空けて読むと、新津きよみの文章はやはり凄いインパクト
ただ、続けて読むのはちょっと辛いな、やっぱり(^^;)。

幻少女

▼幻少女 / 高橋克彦(Kindle版)

引き続き高橋克彦ホラー短編集をセレクト。
ほぼジャケット買いのような感じで選んだのがこの「幻少女」だったのだが、
この作品にも完全にやられた

短編集と言うよりも、ショートショートのホラー集。
全10篇だが、短いモノは3ページ程度。ただし、長かろうが短かろうがどの
エピソードも作品としてカッチリ成立しているのが凄い。内容は紛う事なき
ホラーであり、どの話もどこかで必ず一瞬背筋が寒くなる。ただ・・・。

・・・どれもこれも、「思わずジーンと来る話」なのである。
よって読後感はホラーのそれではなく、ちょっとした人情系のドラマを観た
後のような、ホンワカした感覚に包まれる。この種のジャンルの作品でこう
いう気分になったのは正直初めて。この作家、やっぱり只者では無い。

中でも、ラストが相当グロで終わる「色々な世界」は一読の価値あり。
色弱、ないしは色盲という現象に対し、今までに無い解釈を提示してくれる。

実に良い書き手に巡り会えた。
もう一発行こう!

私の骨

▼私の骨 / 高橋克彦(Kindle版)

何故だか急にホラーが読みたくなり、Kindleストアを徘徊。
そして辿り着いたのがこの作品、「私の骨」高橋克彦作品を読むのは初め
てなのだが、初物には最適な短編集。ちょうどいいや、という感じで。

・・・まいりました(^^;)。
全7作品、舞台は全て東北。本当かどうは検証していないのだが、彼の地に
いかにもありそうな“伝説”っぽい話を、恐ろしいまでのリアリティで凄まじ
怪談に転化。大袈裟でなく、掛け値無しにどれもこれも背筋が凍る程に怖い
すっげぇホラーだと思います、コレ。

いちばん印象に残ったのはラストの「奇縁」。どちらかと言えばミステリー
のテイストが強いのだが、読了後にイヤと言うほどゾッとする。これは体感
すべき作品、と久々に太鼓判を押しましょう。

調べてみたら、この作家の著書は時代小説・歴史小説を始め、ミステリー
そしてもちろんホラーと多岐に渡っている。かつ、日本人として最初に
ビートルズと遭遇した、というあまりに魅力的な逸話を持っている。電子
書籍もたくさん出ているので、いくつか他も読んでみようと。評判の良い
ホラーから!

雪が降る

▼雪が降る / 藤原伊織(Kindle版)

以前から気になっていた直木賞作家藤原伊織の短編集。
バラエティに富んだ短編ミステリーが6篇入って居るのだが、その内容は
噂以上。というか、久々に凄い作家と出会ったかもしれない。
ちなみに藤原伊織は既に故人。ちょっと出会うのが遅かったかも・・・。

ともかくこの作品、テイスト・トーン共に重く、そして暗い。ミステリー
としてのギミックも決して凝っているワケではなく、どちらかと言えば
純文学系の作品を読んでいるいるような気分。こういうのってだいたい
途中でイヤになっちゃうのだが、文章全体から醸し出される独特な“惹き”
のレベルが尋常ではない。これはきっと物語それぞれにハッキリした緩急
が付けられているためで、1篇を読み始めるとその世界観の虜になってし
まうから凄い。無理に説明するなら、「基礎体力運動を毎日欠かさずやっ
ているアスリート」のような安心感がある。

6篇はどれもすばらしいのだが、印象に残ったのはこの中でも一風変わっ
たテイストの「トマト」。他の篇よりも若干短めの不思議系ストーリー
絶妙な位置に配置されており、その効果に驚嘆した。

ミステリーとして読み始めたのに、読後は極上のヒューマンストーリーを
読んだかのような感覚。よくできた企画書を熟読し、一発で採用を決める、
みたいな・・・。

・・・なんて思ってたら、この作家の前職は広告マンだったらしい。
現役時代はきっと凄い企画書書いてたんだろうなぁ、と羨ましく思った。
・・・営業だったらちょっと寂しいなぁ、いろいろ(^^;)。