初恋

▼初恋 / 吉村達也(Kindle版)

調子に乗って吉村達也作品・2作目にチャレンジ。
「初恋」と題されてこそいるものの、この作品は“角川ホラー文庫”の電子
書籍版。バリバリのホラーを読む心づもりをしてから読んだのだが・・・。

まず、この作品についてもすっごくかんたんに説明。
中堅の会社で年相応に出世している30男が主人公。それ程美人では無い
けれど大好きな妻が居て、もうすぐ子どもも生まれる。仕事も楽しく、
人生に何の不満もない。本人曰わく「中くらいの幸せ」を謳歌していた
サラリーマンが、ある日を境に文字通り奈落の底に叩き落とされる物語。

うん、怖いです、コレ(^^;)。
一つ前に読んだ「禁じられた遊び」でもそれなりの恐怖はあったのだが、
コッチのシチュエーションの方が100倍怖い。普通に考えれば現実には
99%あり得ない話である筈なのに、1%ならもしかしたらあるんじゃな
いか?と思わせる、切迫した文章はなかなか見事。そして「禁じ・・・」と
同様にコンパクトにまとまっており、ドキドキしたまま一冊を読み切る
ことができた。

とにかく、殆ど・・・っつーか、全く悪いことをしていない主人公がマジで
気の毒(^^;)。コレを読んだ男性諸氏は間違い無く初恋の人を思い出すと
思うけど、基本心配しなくていいと思います(^^;)。

そもそもどれだ、初恋(^^;)。
さおりちゃんかきょうこちゃんだと思うんだけど(^^;)。

禁じられた遊び

▼禁じられた遊び / 吉村達也(Kindle版)

誉田哲也・湊かなえ等の重要作家の新作ラッシュが落ち着き、取り敢えず
ツナギ感覚で購入した作品。吉村達也はKindleのリコメンドに時折表示される
作家。タイトルが印象的だったので、まずコレを購入してみた。

いわゆる不倫モノ
ものすごく乱暴に言うと、結婚生活に満足出来ないクソワガママな女が、不倫
機にとんでもないところまで堕ちていく話。ドロッとした人間関係とか、官能的
なシーンとか、この手のモノにありがちな描写が殆ど心に残らない、という(^^;)。
このオンナがマインドコントロールされる場面が最大の見せ場だと思うのだが、
読中「いや、いくらなんでも気付くだろ、フツー」的な感覚をしばしば覚えた。

心情描写の中にネタが完全にバレてしまう表現が多々。情報過多、というか、
ちょっと書き込みし過ぎ。この部分をもう少しサラッと書いていたら、ちょっ
と違った印象になったかもしれない。惜しいなぁ・・・。

ただ、ちょっとした短編を読ませる感覚で全体を短くまとめる手法は良いと思う。
このテイストのまま大長編に仕上げてしまったら、きっとスカスカな感じしか
残らないと思うのだが、適度な短さ故に許せる、という感じ。

「ツナギ」という意味では過不足無し。ちょっと他の作品も読んでみたい気が
するので・・・。

Poison Daughter,Holy Mother

▼ポイズンドーター・ホーリーマザー / 湊かなえ

今作のキャッチコピー
「湊かなえ原点回帰!人の心の裏の裏まで描き出す極上のイヤミス6編!!」
そんなワケで、湊かなえの新作は得意の連作短編集である。

最近の湊かなえの著作は“イヤミス”という自らが作り出したジャンル内に納ま
らない作品が多い。コレは決して悪いことでは無く、「告白」で付いてしまっ
たある種負なイメージを時間かけてゆっくり払拭していった結果。僕も初期か
らの湊マニアであるが故に、女史の新作には必ずイヤミスを期待していたのだ
が、最近ではその期待すら無くなった。強烈なイヤミスでなくても、普通に面
白い作品をコンスタントにリリースしてくれる。そういう、違う信頼感が出て
きたところで、こんなのを持って来やがった(^^;)。

「ポイズンドーター・ホーリーマザー」
直訳すれば「毒娘と聖母」。タイトルからしてもうなんかアレな雰囲気を醸し
出しているのだが、今回の作品はそういう期待を全く裏切らない気合いの入っ
たイヤミス。“元祖イヤミスの女王”の面目躍如。そして結構な問題作でもある。

テーマは母娘(おやこ)。
全6篇のどの話も、必ず歪んだ母娘関係を基としたエピソードとなっている。
自分の行き場の無さを母の所為にする娘、自分の考えや育て方を強要する母。
ドロドロ過ぎて収拾の付かない状態を、丹念に拾って物語を構築するテクニ
ックは一段と研ぎ澄まされているし、読人の神経を逆なでする嫌悪感満点
言葉選びも秀逸である。完全なる劇薬。下手すればここまでで築いてきた
失い兼ねないのだが、いいんだろうか?(^^;)。

男性の僕ですら、あまりの嫌悪感にページを捲る手が止まったほど。
だから、女性の読むところを想像するだけでかなりの恐ろしさを感じる

イヤミス同好の士には必読図書
そうでない人たちは、結構覚悟してから読んだ方がいい
・・・湊かなえって、やっぱり本当に恐ろしいのかもしれない。

THE GLASS SUN Rouge

▼硝子の太陽 ルージュ / 誉田哲也

2冊同時発売の「硝子の太陽」“Rouge(ルージュ)”を読了。
・・・いやぁ、凄かった誉田哲也真骨頂を改めて思い知らされた気がする。

ルージュ編はみんな大好きストロベリーナイトシリーズの最新作。
前作・インデックスを経て捜査一課に復帰した我らがダークエンジェル、
姫川玲子の活躍がかなりのボリュームで楽しめる力作である。

・・・と言いながら、姫川女史もかなりお年をめした感が(^^;)。
若くして警部補となり、自らの班を率いているのは昔と一緒だが、あれから
かなり時が経っているにもかかわらず、階級警部補のママ。かつての恋の
相手だった菊田も同格の主任となり、同じ立場で同じチームに居る、という、
ちょっと複雑な人間関係がやや切ない。それでも、魅力いっぱいなのは変わ
らないのだけど(^^;)。

今回のストーリーも当然ドロドロしているのだが、いつもと若干状況が違う。
もちろんネタは“殺し”、つまりいつも通りの“殺人事件”なのだが、この事件が
かなりの国際問題系。このシリーズで起こる事件は陰惨で残酷なモノが多いの
だが、今回はソレに社会性が加わっており、全体の凄まじさ倍増。こういう
展開で作品を構築してしまったら、今後は大丈夫なのかちょっと気になる程。
老婆心も甚だしいのだが。

そして、コラボ企画はやっぱり後から読む方が楽しめる。
既にノワールを読んでいるから、東警部陣内がどういうタイミングで登場し
てくるのかが解っているのにワクワクする。その際の心情描写がルージュ側の
キャストに偏らせてあるのも憎い。この感覚が楽しみたくて、思わずノワール
のコラボ場面だけ読み返してしまった。

そしてラストはキッチリ今後への惹きを暗示。ストロベリーナイトシリーズの
中でも屈指の傑作だと思います、マジで。姫川ファンはもちろん、気合いの入
った警察小説マニアは絶対に読むべき。出来ればNoir & Rouge2冊セットで。

THE GLASS SUN Noir

▼硝子の太陽 ノワール / 誉田哲也

発売のニュースを聞いて以来、ずっと楽しみにしていた誉田哲也の新作。
今回は「硝子の太陽」と名付けられた単行本が2冊同時でリリース。
どちらを先に読むか迷ったのだが、“Noir(ノワール)”という副題の付いて
いる方から先に読み始めた。

ノワールの主役は新宿署東警部補と、“粛正屋”歌舞伎町セブンのメンバー。
つまり、名作と誉れ高い「ジウ」シリーズの流れを汲む警察小説で、誉田哲也
のファンがいちばん“燃える”、痛快なダークヒーローアクション。コレを楽し
みにしないワケが無い。

本作では沖縄米軍基地移設、そして日米安保といったタイムリーな話題が素材
となっている。そういうバリバリの社会派ネタ“歌舞伎町”という異様な街を
絶妙にリンクさせ、物語を成立させてしまう手腕は相変わらず見事。そして、
誉田哲也作品内でも無類のカッコ良さを誇る東弘樹警部補の存在感は際だって
おり、ファンにはたまらない展開となっている。

もちろん歌舞伎町セブンのメンバーも大活躍。残念ながら冒頭でキーマンの1人
が非業の最期を遂げてしまうのだが、その弔い合戦に挑むセブンのメンバーの
立ち居振る舞いがイチイチカッコイイ。現代版の必殺仕事人、というのがしっく
り来るキャッチフレーズなのだが、ダークヒーローとしての魅力は確実にこちら
のメンツが上を行く。やっぱり大好きだな、このシリーズ♪

そして、2冊同時発売のコラボ企画として、もう1冊の“Rouge(ルージュ)”
り、お馴染み姫川玲子勝保健作といったストロベリーナイターズが登場。
もちろんこの篇ではチョイ役の域を出ることは無いのだが、ジウチームとキッ
チリ因縁がある、という詳細な設定がすばらしい。

現在、鋭意“Rouge”を読書中。この2冊、今のところ2016年のベストになりそ
うな気配大。気合いの入った警察小説好きは絶対に読むべし!