二重生活

▼二重生活 / 小池真理子(Kindle版)

Kindleストアのリコメンドに出て来た作品。
おそらく「二重生活」という意味深なタイトルに惹かれての衝動買い
もちろん、小池真理子という作家の作品は初めてである。

お気楽な大学院生(♀)が、ちょっとオカシなフランスのアーティスト(こちら
も女性、ソフィ・カルなる多分実在の人物)に影響され、彼女が実践した
“目的の無い、全く知らない人の尾行”を自らも行う、という行為に及んでしまう。
名付けて「文学的・哲学的尾行」。ふとしたことから、近隣に住むサラリーマン
(美人の嫁と可愛い娘に恵まれ、絵に描いたような幸せな生活を送っている男)
が彼女のターゲットになるのだが、尾行中にこの男の不倫現場を目撃してしまい、
主人公はすぐに他人の秘密魅了されてしまう。ターゲットの尾行を繰り返して
しまう主人公だが、続けるうちに自分の生活まで壊れて行き・・・。という内容。

すごく悪意をもったあらすじ紹介だが、ハッキリ言えば「変なストーカーオンナ」
のお話。そもそも、不倫現場を発見した時点で文学的・哲学的尾行として成立する
ワケが無く、以降の尾行は単なるゲスな興味に過ぎない気がする。というワケで、
イマイチ設定には納得が行っておらず、途中で興味は失せると思ったのだが・・・。

なんだろう、このゾクゾクするような緊張感(^^;)。
自分が尾行されていることに気付いた時に感じる「怖さ」は充分に想像出来る。
主人公の気持ちは正直1ミリも理解出来ないが、対象者の得体の知れない恐怖
思うと、先を読まずにはいられない。自分がターゲットであったとして、それが
小娘のワケの解らない戯言によるものだと発覚したら、その時僕は怒るのか
それとも笑うのか・・・。

そんなことを考えながら読んでいたら、何故だか周囲が非常に気になった(^^;)。
誰かに意味無く尾行されてないか、電車の中でで注意を払ってしまう僕が居た。
・・・やられた、ってことなんだろうなぁ、きっと(^^;)。

おそらくこの作家の「次」を読む機会はしばらく無いと思うのだが、この作品
は心に留めておく。ただ、二重生活というタイトルに深い意味は無かったな、
きっと。そのへん、ちょっと読み違えました、ええ。

被疑者04の神託

▼被疑者04の神託 煙 完全版 / 松岡圭祐(Kindle版)

またもや松岡圭祐初期作品
こちらも完全版と銘打たれた電子書籍で、ルーツを調べると単行本「煙」から
文庫で大幅に加筆修正された「伏魔殿」、そしてこの「被疑者04の神託」と3度も
リニューアルが繰り返されている。タイトルばかりか内容も、結末まで違うとか。
とにかくこの完全版を読んでみた。

ストーリーをものすごく簡単に言うと、初老の冴えないタバコ屋が古来より伝わる
地元の行事、「諸肌祭り」「神人」を努めるに至った経緯および顛末。

ちょっと解説。
諸肌祭りの神人は毎年一人選定され、厄除けの象徴としてほぼ裸で大衆に晒される。
神人に触る為に、同じく裸同然の男たちが全国より何千人も集まり、祭り開始と
同時に神人めがけて殺到する、という恐ろしいモノ。群衆の暴力に立ち向かう神人
は地元の英雄とされる、という感じ。もちろんこの祭りはフィクションだが、モデル
になっているのは愛知県稲沢市で行われている「国府宮はだか祭り」。実際に凄く
男臭い、勇壮な祭りだそうな。

そしてこの作品なワケだが・・・。
重すぎ(^^;)。いやもう、圧迫感やら焦燥感やらが本当に尋常じゃ無いくらい迫っ
てくる。正しく人間のクズ的な世捨て人生活を送っている主人公のタバコ屋の存在
にマジでイライラするし、その生い立ちに自分を重ねて更にイライラする(^^;)。
そして作中に山ほど出てくる喫煙シーン。重要な部分なのだけど、描写の仕方が
あまりに酷い(^^;)。間違っても喫煙者が擁護される事は無いと思う。

そういったクソ重い部分9割を占めているのだが、ラストのまとめ方が絶妙
実は文体を重くした上で読者を文字通り「煙」に巻き、意外性を出す、という計算
され尽くされた作品。読書開始時はかなりキツかったのだけど、読了後はそれなり
爽やかさまで感じちゃったのだから、脱帽するより他無い。

ただ、展開が派手になるところまで読み続けられる人が何人居るのか(^^;)?
根性を試される作品。あ、通常の松岡作品ファンには辛いです、きっと(^^;)。

水の通う回路(下)

▼水の通う回路(下) / 松岡圭祐(Kindle版)

さて下巻
上巻全てを使って初期設定を終えた物語は、予想通りジェットコースター系
ドラマに変遷。まぁ、とにかくいろいろ過ぎるくらいいろいろな事が矢継ぎ早に
起こる印象。ちょっとアイテムを並べて見ても、将棋・AV・コンピューター・
パチモノ・中国拳法薬物と、どう考えても繋がらないモノが瞬時に線になって
行くのだから、恐ろしい構成力、と脱帽するしかない。

さすがに完全版、時代考証等が現在にも絶妙にマッチ。そして、登場する会社等
が微妙に実在する団体っぽいから、リアリティが半端で無い。オリジナルを読ん
でいないから想像でしか無いのだが、このリライトは大成功だったと思う。
少なくとも、初見の僕にとっては相当質の高い作品であるのは間違い無い。

ただ!
まとめ方がちょっとだけ、ホンのちょっとだけ、ご都合が良すぎる気がする(^^;)。
説得力が無いか?と問われると、決してそんなことは無いのだが、最後の場面で
の突然のベビーターンには面食らった。まぁ、アリと言えばアリだけど。

松岡圭祐、取り敢えずもう1本の完結作品から読む!有名なシリーズ数本にも
やたら興味あるのだけど、かなりの長期戦になりそうなので。

水の通う回路(上)

▼水の通う回路(上) / 松岡圭祐(Kindle版)

松岡圭祐のわりと初期長編
サブタイトルに「完全版」とあるように、初版から改稿に改稿を重ね、現代の
状況に辻褄が合うようにセットアップされたモノらしい。そういうとこ、凄く
拘りそうな作家ではある。

ある日、日本全国のあらゆる場所で一斉に起こる子どもたちの事故。ある者は
自らの腹部をナイフで刺し、あるものは走行中のクルマに飛び込む。全員に共通
しているのは「黒いコートの男に殺されそうになった」という供述。当事者だけ
でなく、周囲の人間にまで目撃されている「黒いコートの男」が実在する気配は
無い。被害者に共通しているのは、全員が最新の人気ゲームソフトをプレイして
いた、という事実のみ。果たしてこの事件の真相とは・・・。という内容。

松岡作品にしてはかなり重い。電子書籍版は上下巻の2巻構成だが、上巻1冊を
使って各キャラクターの心情や立ち位置を明確にしている。おそらくは下巻で
謎解きが進んで行く、と思われるが、この初期設定の段階で既に「読ませる」
体勢を整えてくるあたりがさすが。特に巻き込まれたゲームソフト会社の社長
の心情描写はリアリティに溢れ、緊迫感が半端で無い。続きを読むのが本当に
楽しみ。

取り敢えず下巻は購入済み。ストーリーについては読破後に。

「将棋」に疎い人こそ読むべし!

▼ものの歩 / 池沢春人(Kindle版)

週刊少年ジャンプで連載中の「ものの歩」が妙にオモシロイ
少年マンガとしては異色な将棋マンガ。雰囲気的には専門用語の飛び交う作品
になってもおかしく無いのだが、これがまた実にジャンプらしい調理

連載開始から今に至るまで、技術的な解説が殆ど無い。さながらスポーツ系の
マンガを読んでいるかのような爽快感に溢れ、ジャンプお得意の友情・努力・
そして勝利が全て詰まった快作に仕上がっている。

基本、ジャンプの場合は「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」方式でいろんな素材を
登場させ、人気が上がらなければ取り敢えず打ち切り、というのが多いのだが、
この「ものの歩」はどうやら生き残りそう。最近は相撲マンガ「火ノ丸相撲」
も一山当てているから、下手な鉄砲も精度が上がって来たのかも。

その方法論はともかく、唯一のスーパーメジャー誌でありながら冒険を止めよ
うとしないジャンプにはアタマが下がる。次は何が化けるか、すっごく楽しみ!