私説UWF 中野巽耀自伝

#しゃちほこ固め


▼私説UWF 中野巽耀自伝 / 中野巽耀

毎回興味深い書籍を出してくれるG SPIRITS BOOKの新作は、旧UWF
・新生UWF・UWFインターナショナルの「3つのU」に所属し、現在
もフリーとして時折リングに上がる中野巽耀の自伝。

湯水のように出てくるUWF関連の書籍はほぼ読んでいるのだが、ま
さかこの人が本を出すとは思わなかった、というのが正直なところ。

新生UWFの頃、いわゆる「密航者」であった僕は、その頃から中野
の試合を多々観ている。いや、旧UWFの後楽園ホールにも通ってい
たから、デビューの頃から、ということになるのだが、その観戦歴
の長さのワリには印象に残っている試合がそう多くない。しっかり
覚えているのは旧U時代の広松戦とUインター時代のベイダー戦くら
い。中野龍雄(旧リングネーム)というプロレスラーはちゃんと認
識しているのだが、何故かUWFと結びつかない

逆にそんな中野の書いた本だから、ちょっとだけ期待していた。
ところが、あらゆるUWF一匹狼的に活動していた中野には「あの
事件の真相」的な情報が一切無かったのではないか?と。
暴露的な要素は殆ど無く、淡々と自分のプロレスラー人生について
語られる内容は、残念ながら僕には響かなかった。

UWFにはもちろん思い入れはあるが、この手の書籍はもう頭打ちか
な、と感じた。次に読むつもりの柳澤健の作品の内容如何では、僕
U卒業も近いかも・・・。

あなたもスマホに殺される

#SNSクライシス


▼あなたもスマホに殺される / 志駕晃(Kindle版)

最近ヘビーに読んでいる志駕晃の作品。
「あなたもスマホに殺される」シリーズではなく、独立した作品であ
り、テーマは「SNSによる人心操作」。非常に現代的な内容のミステ
リーである。

ある日突然招待状の届いたSNSにアクセスしたところ、ハマってしま
った冴えない中年教師が主人公。アクセスを続けるウチに周囲にいろ
いろな奇妙な事件が起こり、複数人が自殺してしまう・・・という内容。

あちらのシリーズよりも「本当にありそうなこと」ではある。しかし、
どういうワケだかリアリティには乏しく、恐ろしいことが起こってい
る筈なのに出てくるのは「しょうがねぇなぁ、コイツ・・・」という苦笑
程度。コレはおそらく今の僕が幸いにも完全にSNSから切り離され
た生活を送れている証拠。あんなもん、百害あって一利無し、と今な
ら言い切れるので。

しかし、世の中にはこういう人たちがリアルに居そう、と考えてしま
う程度にはハマれるかも。「あなたも」シリーズの副読本として読め
ばいいかな、と思いますよ、ええ。

赤い羊は肉を喰う

#計数屋


▼赤い羊は肉を喰う / 五條瑛(Kindle版)

Kindleのリコメンドに出てきた作品。五條瑛は当然初めて。
もちろん、刺激的なタイトルに惹かれて購入。僕の「タイトル買い」
は往々にして当たる場合が多いのだが、果たして今回は・・・。

舞台は八丁堀、従業員数3名の超零細調査会社に勤務する男が主人公。
下町の風情を残す街で気楽に働いていたのだが、ある日を境に八丁堀
不穏な空気が。幾つか重なる偶然に不信感を持った主人公が、その
謎に迫って行く・・・という内容。

正直、導入部の展開の遅さに若干いらつきを感じたが、ストーリーが
展開し始めた瞬間に夢中になった。ここで起こる出来事は1件の殺人
とラストの大事件の他は取るに足らないモノばかりなのだが、それら
が連鎖していく様に静かだが確かな「凄まじさ」があり、次の展開が
気になって仕方無い。こういうミステリーもあるのか、とすら感じた。

まぁ、読み終わっても「計数屋」という仕事がどんなモノなのかイマ
イチよく解らない(^^;)し、ラストのあっさりした雰囲気も食い足りな
い感はあるのだが、個人的に思い入れのある八丁堀という街の風景描
写の絶妙さで相殺。事件の起こる場面にイチイチピンと来るのが嬉し
かった。

小難しさはあるし、文章量も大したモノなので手を出しづらい作品で
はあると思うのだが、心理学系の作品に興味のある人なら刺さりそう。
本格ミステリーが好きな人もぜひ!

ジャッジメント

#仇討ちの葛藤


▼ジャッジメント / 小林由香

先日の福岡出張の帰り、空港でSちゃんがくれた文庫。どうやら既に
読んでいた本を買ってしまったらしい(^^;)。ということで軽く読み始
めたのだが、そんな気持ちで読むべき本ではなかった・・・。

20XX年、「復讐法」が成立した日本が舞台。復讐法とは「犯罪者か
ら受けた被害内容を合法的に刑罰として執行できる権利」。裁判で
この法の適用が認められた場合、被害者(またはそれに準ずる者)は
旧来の法に基づく判決か復讐法かを選べる。ただし、復讐法を選んだ
者は、「自らの手」で刑を執行しなければならない・・・。

連作短編の体。
復讐法執行権利者として登場するのは、息子を惨殺された父親、自ら
の母親を娘に殺された女、通り魔に近しい人たちを殺された複数の被
害者たち、一人息子を著名な霊能者に殺された母親、両親に妹を餓死
させられた兄。どのケースも一筋縄ではいかないのは勿論だが、何よ
りも復讐法執行・・・つまり仇討ちを決意し、合法とは言え「殺人」
犯そうとしている人たちの心の葛藤があまりにリアル。

自分がもし「復讐法」実行の権利を与えられたら、という事態を想像
せざるを得ない内容。故に読後感もサイアクだし、読み終わった後に
長い間どんよりした気分が残る。ただ、これは読んでおくべき本だ
と思ったのも紛れもない事実である。

小林由香はコレがデビュー作らしい。処女作でこんな凄いモノを書い
てしまったら、後が本当に大変な気がするなぁ・・・。

彼女たちの犯罪

#結婚できない女


▼彼女たちの犯罪 / 横関大(Kindle版)

出張時、飛行機搭乗前にリコメンドで購入した作品。
横関大という作家は初めてで、これまで全く読んだことの無い作家。

容姿端麗な上に代々続く医者の家系で自らも医者、さらに大学時代は
硬式野球部のキャプテンだった男を巡る3人の女性の物語。一人は彼
の妻で元看護師の地味な女性、もう一人は大学の後輩でやや結婚に執
着するアラサーのキャリアウーマン、あと一人はネタバレするので詳
細説明出来ない系の人。

全く関連性の無かった3人が、いつの間にか協力して男を追い詰める
ことに。復讐劇殺人事件まで誘発し、とんでもない方向に転がって
行くのだが・・・という内容。

人間関係の意外さと、繰り返されるどんでん返しは確かに秀逸。でも、
困ったことに全く感情移入が出来ないのは、3人の動機が僕には正直
「どうでもいい」(^^;)からに他ならない。もっと考えるべきことが
たくさんあるだろ、とイチイチ感じてしまう。

残念ながら僕には刺さらなかったが、ミステリー作家としての実力
かなりありそうな気配。これは何かの機会に別の作品を読んどくべき
作家だと思った。

オンナドロドロ系が好きな人にはオススメだけど、けしてイヤミス
では無いのでご注意を。