奥田英朗の短編集。
様々な出版社の様々な雑誌で発表されながら、これまで書籍化されなか
った短編を網羅した企画モノ。短編だけではなく、イッセー尾形・山田
太一との対談やショートショートまで含む、文字通りヴァラエティに富
んだ一冊。
もちろん各話に繋がりの類は一切無い。それどころか、作品のテイスト
はそれぞれがあまりに独特で、下手すれば同じ作家が書いた物語とは思
えない(^^;)。ただ、どれもが氏の代表作のプロトタイプ的なものばかり
で、奥田英朗の引き出しの多さに改めて気付かせてくれるのは見事。
ピンと来たのは、やっぱり広告代理店を辞めて独立する男の悲喜を描い
た「おれは社長だ!」と「毎度おおきに」の2本。更にオウム真理教の
事件をヒントに描かれた「住み込み可」も、読み応え充分だった。
しかし、いちばん印象に残ったのは「ドライブ・イン・サマー」。
藤子不二雄Ⓐ先生の不条理系「笑うせぇるすまん」や「魔太郎がくる」
に近いブラックユーモア。とにかく主人公への共感度が凄まじく、読み
ながら一緒に腹を立ててしまったくらい。
もちろん奥田作品のファン向けの企画であり、最初の一冊として薦めら
れる本では無い。まずは氏の代表作を2〜3読み、琴線に触れたら押さえ
るべき本。ニッチな企画モノとしては、大成功してると思うので。