無事これ貴人

▼無事これ貴人 / 伊坂幸太郎(Kindle版)

伊坂幸太郎短編
小説新潮の3月号で発表された作品で、今のところ単行本系には未収録
そろそろ伊坂幸太郎が恋しいなぁ、と感じていたところでのリリースはちょっ
と嬉しい。いいね、Kindle Singleって。

そして内容は期待に違わぬ伊坂ワールド
ちょっとしたエピソードが連鎖し続け、最後はかなり幸せな感じで着地する。
この連鎖の中には伊坂ファンにはお馴染みのあの”スタイリッシュ空き巣”(^^;)
もしっかり登場する。どんな時でも読者のニーズを忘れない、伊坂幸太郎の
一流の手法。なんなら、ちょっとした接待を受けている気分になるのだから、
本当に恐れ入る。

紙の本にして29ページ179円という価格が高く感じるか安く感じるかは
人それぞれだと思うのだが、僕にとってはこの上なく安い。なんなら毎月シン
グルをリリースしてくれても全く問題無いのだが(^^)。

とにかく良作。
早いところまとまってくれないかな、単行本に。

犬にきいてみろ

▼犬にきいてみろ / 池井戸潤(Kindle版)

大人気の池井戸潤花咲舞シリーズ一節
Kindle Singleと銘打たれたラインナップの一つで、人気作家短編を切り売り
する形態。おそらく数年後にはまとまって単行本になったりすると思うのだが、
人気シリーズをつまみ食い出来る感覚はちょっと嬉しい。

ドラマで大人気になった花咲舞シリーズだが、実はシリーズと言いながらこれ
までリリースされているのは「不祥事」一冊のみ(^^;)。ドラマはシーズン2
で制作されてるのにもかかわらずネタ枯れしないのは、全然違う主人公が活躍
する「銀行総務特命」からもエピソードを引っ張っているから。さすがにこれ
だけ人気が出てしまうと新エピソードを執筆せざるを得なくなったんだろうな、
池井戸センセ(^^;)。いや、個人的には非常に良い傾向です。

内容はある意味で“タイトル通り”(^^;)。
すっかりのイメージが定着した花咲女史が、相変わらず気持ち良い花咲節
聞かせてくれる、痛快経済モノ。なんだかんだでこの分野、完全に池井戸潤の
天下だな・・・。

199円のシングル盤としての役目は充分に果たしている。
願わくば、コレと他のエピソードをまとめた単行本を早めに出して欲しい。
でないと、ドラマのシーズン3が制作出来ない気がするので♪

水族館ガール3

▼水族館ガール3 / 木宮条太郎(Kindle版)

さて「水族館ガール」第三巻。
出向が突然長期化し、アクアパーク由香はいきなり多忙となる。
それにはしっかりワケがあって・・・という感じの内容。

由香水族館業務はさらにバリエーションが増し、内容も専門度が高くなって
いくのが興味深い。これまで真の主役であった筈のイルカたちはすっかり出番
が減り、代わりにサンゴ・ラッコ・マンボウという連中が幅を効かせてくる。
マンボウやサンゴはまだ想像出来る内容なのだが、ラッコやたら飼育が難し
い動物だ、というのが衝撃。僕にとってラッコは見るモノであり、決して飼う
モノでは無い。そういう考えてみれば当たり前の事実が、イヤに重くのしかか
ってくる感じが非常に切ない。

前二作で問題にしたラブコメ部分だが、今回はわりと鼻に付かないレベル
木宮条太郎、今作でようやく分配の適度さに気付いたらしい(^^;)。
おかげで特殊業務小説としてのまとまりは格段に上がっており、シリーズ3作
の中ではいちばん読み応えがあった。

巻を重ねる毎に精度が上がるのは非常に良いこと。おそらくこの後もシリーズ
は続きそうな気配が濃厚なので、次作のリリースを楽しみにしておきます。
・・・できればニッコリーの出番をちょっと多めで♪

水族館ガール2

▼水族館ガール2 / 木宮条太郎(Kindle版)

いきなりマイブームの「水族館ガール」、勢いに乗って第二巻
前作のラストで恋人同士になった由香だが、梶の大阪出向によりいきなり
遠距離恋愛、というシチュエーションから始まる。

この二人の関係、誤解があったり大喧嘩があったり行き違いがあったりと相変わ
らず波乱万丈なのだが、正直この恋愛小説の部分は“邪魔”ですよ、ええ(^^;)。
おそらく物語にバリエーションを付けるためにラブコメ要素が欲しかったんだろ
うけど、ならばもう少し状況を精査すべき。どうも無理矢理な感があるんだよな
ぁ、ちょっと(^^;)。

ただ、水族館業務の描写はを付けたいくらいすばらしかった。
特にラスト、創意工夫の末に行われた“実験”イルカライブ部分は、読んでいて
涙が出てくる程の感動劇“必死に「仕事」をすること”がどれだけすばらしいこ
とか、改めて思い出させてくれる、秀逸なエピソードだと思います!

このシリーズも残るところあと1作。
出来れば恋愛要素少なめ・仕事要素多め大団円を期待します。
・・・ドラマの展開も楽しみだ♪

アンマーとぼくら

▼アンマーとぼくら / 有川浩

待望と言って過言の無い、有川浩最新作
純粋な小説としては、2014年にリリースされた「キャロリング」以来だから、
どうしても期待値が高くなる。もちろん、僕もかなり期待して読んだ。

舞台は沖縄で、32歳の青年義理の母親と共に、亡き父の思い出の地・沖縄の
各所を巡る話。沖縄ローカルの人たちしか知らないようなとっておきの場所か
ら首里城のような王道観光ポイントまでが多岐に渡って紹介されている。

基本的に沖縄好きな僕ですらかなり反応出来る紀行文。おそらくコレは未だに
彼の地を踏んでいない人たちにも有効であり、ちょっとした指南書の役割を果
たす筈。よし、沖縄へ行こう!という人は一読してみるといいかもしれない。

ただね・・・。
僕と同様の有川浩のファンの人たちへ問いたいことがある。
・・・これ、面白かった?

帯には有川浩自身の言葉として「これは、現時点での最高傑作です」とある。
もし本人がそう思っているのであれば、それは彼女の過去の作品に対して凄く
失礼な気がする。ロードムービー的な手法もあざとさが先に立つし、女史の
同種の傑作である「旅猫リポート」のレベルには遠く及ばない。

作家本人の言葉に反論するのは正直遺憾だが、これまで読んで来た有川浩作品
の中では、最高にときめかなかった。レベルで言えば、デビュー作の「塩の街」
と同等くらい。ただし、アチラは有川浩の今の形が出来上がる前の作品だと考
えると、僕にとってはこの作品がいちばん・・・。

僕の読書スタイルが変わったのか、それとも有川浩が変わったのか?
今後もこの状態が続くとは思わないし、思いたくも無い。ただ、今は正直コレ
を最高傑作だとコメントする有川浩の精神状態が、本当に心配だ。