天龍源一郎の女房

#桜新町


天龍源一郎の女房 / 嶋田まき代・嶋田紋奈(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ミスター・プロレス”こと、天龍源一郎さんの奥様である嶋田まき代さん。
そのまき代さんの「遺作」と言って過言の無いノンフィクションで闘病中
にこの作品を執筆したが、志半ばで逝去。その後を娘さんである紋奈さんが引
き継ぎ、一冊の本として完成させた。以前からちょっと興味を持っていた書籍
なのだが、Unlimitedに登録されていたので即登録。二日ほどで一気に読んだ。

まき代さんが、天龍さんをどれだけ愛していたのかがよく解る内容。
天龍源一郎という男の中の男が、猪木・馬場以降では日本一のプロレスラー
であることに僕も異存が無い。しかし、天龍さんがその位置まで昇り詰めるに
は絶対にまき代さんの内需の功が必要であり、その存在が無ければ天龍さんが
あそこまでのプロレスラーになることは無かった、と感じた。愛が深い、と言
うよりも、執念深い、という言葉がよく似合う。彼女もまた、天龍源一郎を構
成する重大な要素だったのだ、と改めて。

そして興味深いのは、平淡ではなかった天龍さんのプロレス人生に於ける各種
ゴタゴタ(^^;)が、第三者の視点で解説されていること。例えば全日本時代
ギャラの話などは、これまで一切明らかにされなかったタブーの部分。そう
いうのが幾つも、サラッと明かされているのは、ちょっと凄いと思った。

僕は仕事で一度だけまき代さん・紋奈さんをお見かけしたことがあるのだが、
その雰囲気は良い意味でお二人とも「豪傑」、ないしは「女帝」人間力が半
端でなく、トラブルが起こってもすぐに判断を下してくれる。言葉を交わすこ
とすら憚られる方たちだけど、あのくらいで無いと天龍さんの”身内”は勤まら
なかったんだろうなぁ、という気がする。

かなりおもしろいエッセイを読むことが出来た。
嶋田まき代さんに感謝を。そしてどうか安らかに。

C線上のアリア

#AC Cable Line


C線上のアリア / 湊かなえ(Kindle版)


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湊かなえ新作
amazonの煽り文には「介護ミステリ」の記述があり、帯には衝撃的な一文が。
元祖である湊かなえが、久々にクソヤバいイヤミスを書いたのか、と期待したの
だが・・・。

・・・間違い無く「介護ミステリ」ではあった。
しかし、肝心の「介護」の部分の描写はそれほど陰惨なモノではなく、どちらか
と言えば軽めだった気がする。コレとほぼセット、と思える「認知症」に関する
描写もあるのだが、コチラはラストに繋がる伏線として機能。であるが故に、正
リアリティに乏しい作品になってしまっている気がする。

代わりに、よくありそうな嫁姑問題に関しては実にリアル。幾つかの家族のこじ
れた様子があまりに丁寧に描かれており、その辺りの満足度はけして低く無い
言ってしまえば、それがあったおかげで最後まで読めたんだ、と思う。

ここまで書いたことで解ると思うが、この作品はちょっと僕には刺さらなかった
というのも、前出の「認知症」の他に、「金庫」「ノルウェイの森」「命の水」
そして「延長コード」などの関連性の低いアイテムが伏線として登場し、最終的
一本の線で繋がる、というミステリーらしい構成なのだが、『介護』をテーマ
としたある意味で“重い”作品だと思っていただけに、その諸々が単なる伏線であ
った、という結果に肩透かしを喰らった気分。ちょっと残念だった。

デビュー作から一貫して読んでいる湊かなえ作品だが、イヤミス一辺倒だった頃
に比べて文章力・構成力格段に上がっていることは間違い無い。しかし、その
おかげで“好きな作品”“あまり好みではない作品”が出て来てしまうのは、もう
しょうがないのかなぁ、とも思う。今回は刺さらなかったけど、やっぱり次作
は期待。次もどうなるのか、ちょっとドキドキするけど。

暗黒戦鬼グランダイヴァー

#ギャバン系?


暗黒戦鬼グランダイヴァー / 誉田哲也(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨年末にリリースされた誉田哲也最新作品。昨日の「首木の民」と一緒に購入し
た作品で、コチラも一応警察小説。ただし時代近未来どうにかなってしまっ
ている東京舞台

不法移民外国人急増、しかもその一部が怪物化。建造物の不法占拠や武器の
密造、それに伴う殺人やレイプが横行する世界で、警察武装化特殊な装備
治安を守るために街をパトロール、時には外国人たちを制圧する、という任務に
従事している・・・という設定。

タイトルでもそういう印象を受けるのだが、話の流れもちょっとラノベっぽい
しかし文章の雰囲気はハードボイルドで、そういう印象が全く無い。そしてこの
作品でも警察公安政治団体などがしっかり登場しており、暴力が蔓延る世界
でもしっかり権力争いを見せてくれる。

そしてバトルシーンがふんだんに描写されるのだが、これが見事な誉田哲也ワー
ルド。格闘技に精通している作者らしく、表現がリアルな上に解りやすい。この
書き方は、全ての作家が参考にすべき。この部分、マジで脱帽です。

・・・ちなみにグランダイヴァー、僕の想像ではギャバン・シャリバン・シャイダー
あたりの宇宙刑事系のビジュアルではないか、と。そういう意味では、アニメ化
してもおもしろいかもしれない。

この作品はシリーズ化されそうな気配濃厚。気合いの入ったサイバーパンク小説
として大人気になりそうな予感。いやぁ、楽しみが増えたな、コレ。

首木の民

#日本の闇


首木の民 / 誉田哲也(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誉田哲也作品。リリースは昨年の6月、何故だか見落としていた(^^;)。
氏お得意の警察小説、と思って読み始めたのだが、最初の章を読んだ段階で既に
感じた違和感。これまでのモノとは明らかに違った

ハッキリ言えば、コレは警察小説の形態を借りた経済小説。それも、とびきりの
リアリティに溢れ、なんなら都市伝説・陰謀論の匂いまでプンプンする。ゆえに
小難しい解説が続くのだけど、そこはさすがの誉田哲也、説明部分の文章が取っ
つきやすく感じる工夫が随所に施されており、読む者を飽きさせないから凄い。

とにかく唸ってしまったのは、終盤に登場する「復興税」の正体の部分。
ここで登場する復興税とは、正に今現在国民が徴収されている税金であり、あの
震災を経験している我々からすれば、致し方無し、の感覚で支払っている税金な
のだが、そこに一部の権力者の懐のみを暖めるカラクリがある、とか書かれると、
妙な怒りが沸いてくる。しかも、凄く「本当」っぽいんだよなぁ・・・。

久しぶりに誉田哲也の『PUNK』な部分を魅せられた感。
起承転結が解りやすい上に、ミステリーとしての構成も単純に優れている。コレ
を入口にちょっとした政治団体運動を起こしたとしても、僕は全く不思議に思
わない。ということで、かなりオススメ。ぜひ!

クスノキの女神

#東野ファンタジー


クスノキの女神 / 東野圭吾

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東野圭吾作品。
・・・いつものように「新作」と書けないのは、この本の発売日が去年の5月だった
から。そして、僕がこの本を購入したのも昨年5月(^^;)。紙の本ってホントに暖
めてしまいがちなのだけど、東野圭吾作品でコレをやってしまうとは・・・。

4年前にリリースされた「クスノキの番人」の続編。
人の「思い」を記憶し、それを他人に「伝える」ことの出来る不思議なクスノキ
“番人”となった玲斗は、神社の仕事をこなしながら通信制で学ぶ大学生となっ
ていた。そして玲斗を助け、クスノキの番人へと導いた叔母千舟は、矍鑠とし
ながらも認知症が徐々に進行している状況。そんな中、神社に「自作の詩集を置
かせて欲しい」という少女が現れて・・・という感じの導入。

前作の前半部分にやや冗長に感じる部分があり、今回も中盤までは我慢の読書
なることを覚悟していたのだが、その覚悟は全くの無駄に終わった。今回は登場
人物の設定がしっかりアタマに入っていた所為か、序盤のゆったりした展開も興
味深い伏線としてスルスル入ってくる。景観の優れた山渓道をゆったり散歩し、
最後にすばらしい情景を拝む、という感じのすばらしい読後感。いや、脱帽です。

ストーリーに関しても、何かしらの“熱いモノ”が、ラストに向かってゆっくり迫
ってくる堂々としたモノ。クライマックスはもちろんのこと、その前段階の幾つ
かの部分で、思わず涙が溢れたほど。けしてハッピーな終わり方では無いが、そ
れでも「前を向くべき」と思わせてくれたのだから凄い。

久しぶりにちゃんと「本」を読んだなぁ、という充実感
やっぱりちゃんと凄いんだよ、東野圭吾って。