プロレス鎮魂歌

#魂の記述


▼プロレス鎮魂歌 / 瑞佐富郎

「鎮魂歌」「レクイエム」と読む。
サブタイは「リングに生き、散っていった23人のレスラー、その死の真実」
登場するのは既に故人となっているプロレスラーばかり。力道山など、黎明期
の選手のチョイスは無い。つまり、全員が僕にとってある程度思い入れのある
選手たちである。

瑞佐富郎氏、前作の「平成プロレス 30の事件簿」の時にも感じたのだが、か
なりグッと来る文章を書く作家だと思う。大きなブロックでの倒置法の使い方
が絶妙であり、章全体を読むことでイチイチスッキリ出来る。淡々とした文体
なのにもかかわらず、説得力は抜群。そして、プロレス関係の書籍にありがち
“胡散臭さ”を殆ど感じないのは、もう才能と言って良いのかも。

結果、23エピソード中の15エピソード目頭を押さえる始末(^^;)。
特に最近鬼籍に入ったビッグバン・ベイダー、マサ斉藤、輪島大士、ザ・デス
トロイヤーに関する記述には、なんとも言えない寂しさに包まれてしまった。

もう完全に認める。
この作家の描く「プロレス」は、プロレスに対する愛と優しさに溢れた、すば
らしい作品ばかりだと思う。今後もたくさんの作品をリリースして欲しい。
出れば確実に読むので。

二人で少年漫画ばかり描いてきた

#等身大の神様


▼二人で少年漫画ばかり描いてきた / 藤子不二雄

アマゾンで復刊されていることを知り、思わず買い求めた作品。
藤子不二雄のお二人トキワ荘周辺の世界が大好きな僕は、関連書籍を
ほぼほぼ読んでおり、当然その最初期版と思われるこの本も読了済み
思っていた。のだが・・・。

・・・不覚(^^;)。
おおよそこの手の「文章モノ」Ⓐ先生の手によるものが多く、もちろ
んこの作品も8割をⒶ先生が執筆しているのだが、章のアタマにはF先生
文章が! 形は違えど両氏のマンガにおける「合作」と同じ状況で書か
れた本であり、そういう構成なら絶対に覚えている筈。つまり、ずっと
読んだ気になっていただけであった。

メイン担当であろう、Ⓐ先生の文章はこの頃から既にキレており、とに
かくしっかり読ませてくれる。トキワ荘モノの原点として、ファンなら
絶対に読んでおくべき本。まぁ、僕は今まで読んでいなかったのだが。

ちなみに初版の発売は1977年
ドラえもん魔太郎で大人気だった頃であり、すなわち藤子不二雄が
「合作」から「分業」へゆっくり変化していた時期。そんな頃に2人で
協力してエッセイを書いた、という事実が、今頃だが本当に嬉しい。

トキワ荘関係者の多くはもう鬼籍に入っている。
そんな中でただ一人健在なⒶ先生には、出来る限り長生きして欲しい、
と改めて思った。僕の神様の二人に、大いなるリスペクトを!

※復刊版では「藤子不二雄A/藤子・F・不二雄」の名義になっています
が、こちらでは初版発売当時の「藤子不二雄」を著者としました。

ウナノハテノガタ

#螺旋プロジェクト


▼ウナノハテノガタ / 大森兄弟(Kindle版)

螺旋プロジェクト第五弾その1
「日本のグリム兄弟」とウワサされる大森兄弟が担当した時代は、なん
原始時代。言ってしまえば、まだ“時代感の無い筈の時代”を、想像だ
けで書き切った「力作」だと思う。

とはいえ、やはり若干の「難解さ」はあった(^^;)。
文語体や口語体とも違う大森兄弟による「古代語体」は、発音すること
で意味は解るのだが、やっぱり理解するには多少の時間がかかる。ただ、
その行程はなかなか楽しく、読むのに時間こそかかったモノの、この前
の古代モノ(^^;)よりはやっぱりエキサイティングだった。

螺旋プロジェクト的に言うのなら、このエピソードは海vs山「対立の
はじまり」。如何にして海と山が争うようになったのか、そのあたりの
原因がハッキリした形で解るのは、これまで読んだ全作品の印象を更に
しっかりしたモノにしてくれた。

大森兄弟、これまでの著作はまだ一冊しか無いらしいから、このプロジ
ェクト作品読破後、すぐに読むつもり。凄いと思うな、本当に。

さて遂に残り一冊。最後は「未来」の話。果たして??

まんが トキワ荘物語

#椎名町の奇跡


▼まんが トキワ荘物語 / V.A

Amazonで何かの買い物のついでに購入したペーパーバッグ
おそらくこないだ椎名町に行った(^^;)のが原因。定期的に来るんだよなぁ、
トキワ荘関連書籍が読みたくなる時期が・・・。

トキワ荘に居住したことのある12人のレジェンド作家(※)が、トキワ荘
に関する短編を1篇ずつ執筆。コレに巻末の座談会を併せて一冊になってい
るのだが、まぁ面子が凄い。

手塚治虫・藤子不二雄Ⓐ・寺田ヒロオ・鈴木伸一・赤塚不二夫・水野英子・
つのだじろう・永田竹丸・森安なおや・よこたとくお・長谷邦夫・石ノ森
章太郎。羅列するだけでも神々しさすら感じる人たちが、同じ建物に住ん
でいた、という事実が凄い。

大きなポイントとして「寺さん」こと寺田ヒロオ先生「大人向け」作品
が読めること。生涯一貫して少年スポーツマンガしか書かなかった、とさ
れる寺田ヒロオの、唯一の例外である短編が収録されているのは貴重なの
で是非ご一読を。

しかし読み終わってから確信したのだけど、おそらく僕はこの本を所持し
ている(^^;)。装丁はきっとペーパーバッグでは無いが、どこか探せばきっ
と発掘出来る気がする。まぁ、良い作品だから2冊あっても問題無いけど。

※つのだじろう・永田竹丸の両氏は非居住者なので注意!

落日

#それでも、生きて行く


▼落日 / 湊かなえ

湊かなえの新作。
今回の主役はいきなり売れた女性映画監督と、鳴かず飛ばずのままここま
で来た女性脚本家。キーワードはおそらく「イジメ」「トラウマ」

主役の2人は幼少期に大きなトラウマを抱え、2人で一つの作品を手掛ける
ことでそれらを払拭していく、という話なのだが、そこに女史特有の極め
の細かいミステリー要素が絡み、目の離せない展開となる。見事な仕事で
あることは間違い無いのだが・・・。

やっぱり「重い」作品。しかし、これまでの湊かなえ作品のソレとは若干
テイストが違い、悪意とかそのあたりの明快な重さではなく、もっとジワ
ッとした重さ。物語全体がその感覚に包まれている所為か、読後感はやた
どんより。こういう感覚、これまでの湊作品では味わった覚えが無い。

もちろん水準以上の満足感はあるのだが、どうも湊かなえを読んだ、とい
う充足感に欠ける感。どうなんだろうなぁ、コレ・・・。