コイコワレ

#螺旋プロジェクト


▼コイコワレ / 乾ルカ(Kindle版)

螺旋プロジェクト第四弾その1
作者の乾ルカ、もちろん初めてで知っている知識は北海道在住の美人作家
である、ということくらい(^^;)。螺旋プロジェクトに関わっていなかった
ら、おそらく作品を目にする機会も無かったかもしれない。

時代は昭和、具体的には太平洋戦争末期。日本の敗色が濃厚となった時
期に東北集団疎開に出される小学生たち。その中の一人に、“蒼い目”
を持つ清子が居た。清子が寝泊まりする寺は、身寄りの無い子どもたち
を受け入れる場所。そこには“長い耳”の少女、リツが。巡り会ってしま
った海族と山族はお互いを嫌悪して・・・という内容。

戦争という規模の大きな対立の最中に、海vs山、それも少女vs少女とい
うある意味極地的な対立が描かれているのがポイント。ただお互いが気
に入らない、という理由で対立を深め、気が付いたら命のやり取りまで
発展する。もしかしたら彼女らの小さな「諍い」は、これまで起こった
多くの「戦争」大差無いのかもしれない。そんな象徴的なことを考え
てしまった。

・・・結構な問題作だと思うが、読後感はけして悪く無い。そして海vs山の
対立構造が個人レベルに落とし込まれているため、感情移入がし易く明快
で解りやすい。もしかしたら「螺旋プロジェクトの取扱説明書」的な役割
を担ってくれるのかも。

さて、残り3冊。
順番的には古代・原始・未来かぁ・・・。果たしてどんなモノか・・・。

蒼色の大地

#螺旋プロジェクト


▼蒼色の大地 / 薬丸岳(Kindle版)

螺旋プロジェクト第三弾2作目は社会派ミステリーの重鎮、薬丸岳
登場。この作家凄く読んだ気がしてた人なのだが、なんとであること
が発覚。未だに信じられない感じ(^^;)なのだけど。

時代は明治、それも幕末をやや引き摺っている頃の話で、場所は瀬戸内
・鬼仙島。これまでの作品で何度か名称の登場した“あの島”が舞台とな
っている。主役になるのは期せずして海賊になってしまった男と、これ
また何故か帝国海軍に所属してしまった男の2人。もちろん、一方は海
の者で、もう一方が山の者、という設定である。

特徴的なのは、海山双方の主役が共に「巻き込まれた」キャラである、
ということ。それぞれが全く違う方向から「人間としての正しい生き方」
を模索し、結果的に似たような場所に辿り着く、という皮肉。正直イマ
イチ行動に思い入れの持てないヒロインとか、終盤のまどろっこしい場
面などの難点はあるのだが、トータルで骨太な印象を残しているのはさ
すが。

これまで読んだ螺旋プロジェクトとちょっと違うのは、宿命的にお互い
を嫌悪する、即ち水と油である筈の海族と山族が、ある種融和する場面
があること。コレ、このプロジェクトのルール的に反則な気がするのだ
が、この後の他作家に影響が出ないかちょっと心配・・・。

もののふの国

#螺旋プロジェクト


▼もののふの国 / 天野純希(Kindle版)

気が付いたら全てが出揃っており、個人的にやや出遅れた感の否めない
「螺旋プロジェクト」第三弾2作同時リリースで、いよいよ時代が
過去に向かう。まずは千年続いた「武士の時代」が描かれる天野純希
「もののふの国」から。

何度か書いているが、時代小説はかなり苦手(^^;)。そんなワケでコレ
は最初パスしようかと思ったのだけど、結果から言えば「飛ばしてい
たら後悔した」
。学校教育で日本史を学んだ者であれば、誰もが楽し
める筈の小説である。

考えてみれば、螺旋プロジェクトのテーマである「海族と山族の争い」
をいちばん端的に表現出来るのが武士の時代。古の源平の闘いに始まり、
本能寺の変戦国時代幕末と、歴史の要所で起こった日本人なら誰も
が知る「争い」海vs山に落とし込んでいるのだから、面白く無いワケ
が無い。

正直これだけ時代小説にのめり込んだのは初めて。天野純希という作家
ももちろん初めてなのだが、「海族vs山族」というファンタジーを当て
込みながら、圧倒的とも言えるリアリティを醸し出している筆力はかな
りのモノ。螺旋プロジェクトを読み終えたら、間違い無く他の作品にも
手を出してしまいそう。

伊坂幸太郎の与えたテーマは才能ある作家陣を更に加速させている感。
このプロジェクト、やっぱり凄い。遅れを取り戻さねば・・・。

毒虎シュート夜話 昭和プロレス暗黒対談

#日本プロレス #米国定住


▼毒虎シュート夜話 / ザ・グレート・カブキ、タイガー戸口(Kindle版)

“東洋の神秘”ことザ・グレート・カブキと、“野生の虎”ことタイガー戸口
対談集。Amazonの紹介文を読むと、2人が誌面上でケンカしているような
内容(^^;)だと勘違いしそうだが、基本的に仲良く喋っているので念のため。
ただし、話していることはやっぱりのあるビッグマウスなのだが(^^;)。

両名とも愛読しているGスピリッツ等で語り部としてよく登場するため、そ
れぞれの話が面白いのは良く知っているつもりだったが、やっぱり会話とな
ると(良い意味で)余計な一言が出てくる。正直、どれもこれもどこかで聞
きかじっているエピソードではあるのだが、2人の毒舌で改めて語られると
3割増しの面白さ。やっぱりアメリカでも一流だった選手は違うな、と感じ
た次第。

面白かったのはジャイアント馬場のエピソードで、2人の愛憎入り乱れる
感情がストレートに入ってくる。新日本系の裏話は楽しめない場合が多い
のだが、“王道”に関するネタは鉄板。生々しい話でも普通に読めちゃうの
は、やっぱり「よその家」の話だからなのかなぁ・・・。

無論、かなり専門性の高い内容なので、ファン以外が読んでも絶対に何が
なんだか解りません(^^;)。間違い無くマニア向けなのでご注意を!

・・・この2人に、次はキラー・カーンを混ぜてくんないかなぁ(^^;)。

小説 天気の子

#後か先か


▼天気の子 / 新海誠(Kindle版)

現在公開中の映画「天気の子」ノベライズ版
リリースタイミングはどうやら映画の公開とほぼ同時。映画が先か、小説が
先かは好みが別れるところだけど、僕はどちらかと言えば「先読み派」
こちらでストーリーを熟知しておかないと、変なところで泣いてしまうかも
しれないので(^^;)。

この先はなるべくネタバレの無いように(^^;)。

映画・小説に関わらず、新海誠作品は「大いなる恋愛モノ」が殆ど。
宇宙←→地球の超遠距離恋愛とか、壮大なすれ違いの物語とか、時空を超え
た入れ替わりとか、おおよそが下手すれば「ベタ」と表現される世界観の元
に構築されているのだが、そのベタが非常に心地よく感じてしまうのが凄い。

この作品のラストでは、「世界」とんでもない状態と化してしまう。
しかし、そんな状況を最後に持ってきたとしても、間違い無く感動と清涼感
に満ちた気分になる筈。それだけは保証しておく。当代一流のヒットメーカ
ーの才能、やはりダテでは無い。

どのタイミングで映画を観に行くか解らないのだが、間違い無く劇場鑑賞
るつもり。この瑞々しい感動が、映像になったところでどうなるのか?
楽しみにしておきます、うん。