走らなあかん、夜明けまで

▼走らなあかん、夜明けまで 坂田勇吉 / 大沢在昌(Kindle版)

Wくんより、久々の推薦図書
たいへん失礼ながら、大沢在昌という作家をこれまで殆ど知らなかった僕。
事前にちょっと調べてみたら、「新宿鮫」を初めとする多数の著作を持つ
人気作家。なんで今まで手出ししかなったんだろう・・・。

導入部分を読んだ段階では、ああビジネス小説なんだ、とか思った。
東京から単身で大阪出張を余儀なくされたサラリーマンが、慣れない土地
で奮闘する様を描いたモノ、と思い込んでいたら、程なくしてソレが大間
違いであったことに気付く。なんと、いわゆる「パニックモノ」であった
のだ、この作品は(^^;)。

カンタンに中身を説明すると、出張先大阪で不注意から重要サンプル
入ったを盗まれた主人公がソレを取り戻す話。言っちゃえばそれだけの
話なのだが、まぁコレがいろんな方向転がり続けていく。冷静に考えれ
ば、鞄一つ取り返すのに命をかける、という状況はオカシイのだが、コレ
が妙に説得力があるから凄い。圧倒的なリアリティを伴って疾走するジェ
ットコースターに乗っている感覚で、読中に「オカシイ」とか「あり得な
い」とか、その類いのことは一切考えられなかった

いいなぁ、こういうの(^^;)。
どうやらこの作品、坂田勇吉シリーズとして他に2作の続編があるらしい。
読んじゃうな、間違い無く(^^;)。

ハードボイルド系が好きな人は超オススメ。あとは「24」とか、あの手の
リアルタイムドラマが好きな人もかなり手応えがあるかと。しばらく読む
モノに困らなくなるな、きっと。

駄カメラ大百科

▼駄カメラ大百科 / 石井正則

駄カメラを集めた本。
そもそも「駄カメラ」とはなんぞや?というところから説明しておかねばなる
まい。著者曰く、「(オークション等で)駄菓子感覚3,000円以下で購入した
中古フィルムカメラ」というのがその定義。いやぁ、興味深い(^^;)。

コレに近いことを僕もかつてやっていた。
僕の場合、とにかく数十台をまとめて売る「ジャンクボックス」に手を出した。
もちろん動作確認など取れていなく、動けばラッキーなカメラが10〜50台入っ
ている謎の箱(^^;)。安ければ2,000円、高くても10,000円前後。ジャンクと
言いつつも、おおよそ7割が稼働品な場合が多い。しかし、20台のうち12台が
APSカメラだったりしたから、ガッカリ感も凄いのだけど(^^;)。

しかし、そんなジャンクボックスの中からCONTAX・T2とか、Canon オート
ボーイスーパーFUJIFILM・TIARAなどを手に入れたりしちゃったのだから、
ジャンクボックスにすっかりハマった。今も何十台もフィルムカメラを所持し
ているが、半分以上はジャンクボックスサルベージ製品だったりする。

この本で紹介されている駄カメラは、1台あたり3,000円以下が目安。僕のよ
うに「何が入っているか解らない」商品ではなく、ピンポイントで狙って購入
したらしい。驚いたことに、ここで紹介されている25台の中で、僕が所持し
ているカメラは1台も無い。そうなると、なんかメラメラ来ちゃうんだよなぁ、
収集欲が(^^;)。まぁ、自制しなきゃな、この感情は。

ちなみに著者の石井正則とは、アリtoキリギリス・・・というか、古畑任三郎
西園寺くんを演じたあの人。ケイブンシャの大百科シリーズと全く同じ見た目
といい、各機種レビューでの面白おかしくも真面目な文体といい、この人の
アイデア力はもの凄い。フィルムカメラ書籍としてはもちろん最高だが、読み
物として退屈しないことも保証しときましょう。

第二弾に期待。
僕の経験(^^;)から言えば、まだまだネタはヤマほどある筈だから♪

ゴースト

▼下町ロケット ゴースト / 池井戸潤(Kindle版)

池井戸潤の新作は大人気下町ロケットシリーズ
個人的に“ビジネス版ワンピース”と位置づけおり、第一作を読んで以来、
とにかく何が何でも読まねばならないリストにしっかり入っているこの
シリーズの第三弾佃製作所にどんな変化が起こるのか??
もうワクワクしながら夢中で読み進めた。

・・・いやぁ、鉄板だわ、コレは(^^;)。
ネタバレしたくないのでざっくり流れだけ書くとこんな感じ。

導入)友の凋落
1)仲間のピンチ
2)新たなる世界への挑戦
3)顧客が本当に求めるモノ
4)義勇軍・そして同盟を組む
5)悪魔の誘惑
6)ハイレベルの法廷闘争
7)仲間との別れ

・・・どうだい、コレ。
ちょっと単語を弄れば、完全にワンピースの説明、と取られてもしょうが
ないくらい、ワクワク感に満ちた構成。コレをビジネス小説の分野でキッ
チリやっちゃうところが池井戸潤の真骨頂。今回も恐れ入りました!

しかし、困った感情も(^^;)。
例によってそれなりに長い物語であり、にもかかわらず諸々の起承転結も
ちゃんと付いているのだが、読後に猛然と気になるのは「その後」
このシリーズだったら、おそらく文庫で1万ページを超えても軽々読める、
との確信我にあり。池井戸先生には大変申し訳ないですが、早急続編
お願いいたします!

そしてこの作品、秋にTBSのあの枠でのドラマ化も決まっているとか。
だとしたらもう、本当に続編はマル必な気がするぞ、本当に。

とにかく、気合いの入ったビジネス小説愛好家には必読図書
文句なくオススメします、うん。

リアルフェイス

▼リアルフェイス / 知念実希人

amazonのリコメンドから購入した作品。
知念実希人という作家は初めてだが、ちょっとだけ聞き覚えがあったので
調べてみたら、「崩れる脳を抱きしめて」で昨年の本屋大賞にノミネート
されていた人。昨年のノミネートは10作品うち5作品を読んでいるのだが、
どの作品も僕の中では高評価。これは期待出来る、と踏んで読書開始。

ジャンルで言えば連作短編医療ミステリー。それも、美容整形というち
ょっとアレな分野を取り扱ったやや異色な作品。語り部は麻酔医師大学
院生朝霧明日香で、彼女がアルバイト勤務する美容形成外科を率いるの
「天才」の異名を欲しいままにする美容外科医・柊貴之。ただし、金さ
え積めば顧客のどんな依頼にも応える、いわゆる悪徳医師(^^;)、という
構成。

意外や意外、思った以上にコメディでやや面食らった。抱腹絶倒とまでは
いかないが、前半から中盤にかけてのテンポの良い展開はなかなか見事。
しかし、後半のシリアスな展開は思いっきり重厚で、落としどころもかな
り秀逸。ラストは全く予想外、最後までしっかり騙されてしまったのだか
ら、ミステリーとしての完成度もかなり高い、と思う。

しかし、気になる点が2つほど。
いわゆる「笑い」でミスリードを誘う、という方式は決して嫌いでは無い
が、そのジャンルの権威である東川篤哉の作品群と比較すると、やや中途
半端な印象は否めず。もっと振り切っても良かったし、それが充分出来る
作家な気がする。もしかしたらシリーズになるかもしれないから、次作品
での吹っ切った展開を大いに期待。
もう1つは・・・。まぁ、完全に好みの問題なのだけど、ラノベっぽい表紙
やっぱり苦手だなぁ、僕は(^^;)。売れるのかね、こういう表紙だと(^^;)。

ありがとうU.W.F.

▼ありがとうU.W.F. 母さちに贈る / 鈴木浩充

どういうワケだか最近リリースラッシュが続くUWF関連書籍
本命・・・というか、リファレンスとなるべき柳澤健「1984年のUWF」
皮切りに、そのアンサーとも言えるインタビュー集「証言UWF」など、
読み応え抜群の作品が多かった。しかしこの作品、これまでずっと「謎」
とされており、好き勝手な見解だけが先走っている現在のUWFを取り巻
く状況を打破する作品となるかもしれない。なぜなら、著者鈴木浩充
そう、あの新生UWFと呼ばれた株式会社ユー・ダブリュ・エフにて、
神真慈氏と共に専務取締役を務め、UWFを特別な場所まで押し上げ
た人である。

神社長・鈴木専務の2人に、30年近く取り憑いて離れないイメージは、
「横領フロント」。プロレスファンは誌面に載るプロレスラーの発言し
か拠り所が無く、例えば前田日明の発言こそ真実、と信じ込んでしまう
風潮が否めない。これに加え、新生UWF崩壊後の2人は公に対しての発
言を一切しなかった。ある意味“犯罪者”というレッテルを貼られたまま、
それを受け入れて地下に潜ったのだ。

この本は自費出版である。
これまでずっと沈黙を貫いた伝説のフロントが、どうして今になってか
ら著作を発表したのかと言うと、タイトルにある通り自らの母親のため
母が“自分の息子が泥棒扱いされている”ことで心を痛めている、という
事実を知り、ここで改めて身の潔白を証明しようとした。だから、大手
の出版社にも、ライター・作家にも頼らず、「自らの言葉」だけで表現
出来る自費出版にてこの本をリリースした、とのこと。

そもそも、UWF解散時にフロントの2人が本当に横領していた、と思っ
ているファンは、実はそれ程多くないと思う。会社を起ち上げたのは紛
れもなく神・鈴木両名であり、そこで得た利益の使い途は役員で決めて
構わない。そんなことは通常の会社に務めている人なら誰もが理解出来
ることであり、前田や他の選手の言うことがイマイチピンと来ない、と
感じていた人も少なくないハズ。ただ、ファンの心情的にはやはり選手
の味方をしたく、無条件に黙った2人のフロントに一方的に悪者になっ
て貰った、というのが本当のところだと思う。

この本を読んでいて、その考え方はおそらく正解だった、という思いを
強くしたのは間違いない。だからこそ、最悪とも言えるヒール役を買っ
て出てくれた鈴木専務には、ファンであった者としてここでちゃんとお
詫びとお礼をしておくべきだと思う次第。鈴木専務、本当にごめんなさ
い。そして我々のために悪者になってくれて本当にありがとうございま
した!

・・・というワケで、UWFに対する疑念はまた一つ晴れた。
ただ、正直「読み物」としてはちょっとだけ不満(^^;)。本職の作家さ
んでは無いのだから仕方無いが、せめて文章監修をいれるべきだった
気がする。まぁ、ファンであれば問題は無いと思うけど。
そしてもう一つ、UWF崩壊後の謎の会社「スペースプレゼンツ」に関す
る記述が殆ど無かったのが残念。その辺りのディープな話を、出来れば
また別のどこかで聞かせて欲しい気がする。

こうなってくるともう一人口を開かなければならない人が居る気が。
全てを時効にして良い今だからこそ、ご本人の言葉が聞きたいなぁ・・・。