何が困るかって

▼何が困るかって / 坂木司(Kindle版)

坂木司短編集
というか、18編も入ってるんだから、もうショートショートという扱いでいいの
かもしれない。

長らく「覆面作家」という立ち位置で執筆活動を続ける坂木さん。文体や素材の
チョイスから、僕は絶対に女性だと思っている(^^;)のだけど、この人の作品群は
基本的に「優しい」系のモノが多い。ところが、「短編集」になると様子が一変、
彼女のブラックな部分がクローズアップされるのだから面白い。

この作品もその傾向が顕著。全ての作品が「世にも奇妙な物語」元ネタになり
そうな内容で、もしかしたら“ホラー”にカテゴライズしても良いくらい薄ら寒い
作品ばかり。もちろんただ怖いだけでなく、ちょっとしたハートウォーミング系
の内容を絶妙に散りばめてあるのだから、唸るしかない。やっぱりこのオンナ
只者では無い。

印象に残ったのは、「洗面台」
無生物を擬人化した上で物語にする、という手法は本当によくあるのだが、まさ
かそこに洗面台流し台でなくて洗面台、これ重要!)を当てはめてくるとは・・・。
しかも、それをそこそこ良い話に仕上げちゃうセンス。いや、本当に凄いと思い
ます、コレ。

いつもの坂木司を期待してる人は面食らうと思うけど、おおよその人たちなら
充分に楽しめるショートストーリー集。ホラー奇妙な物語が好きな人もぜひ!
オススメです!

静かな炎天

▼静かな炎天 / 若竹七海(Kindle版)

若竹七海女探偵・葉村晶シリーズ第四弾
どうやらこの作品がいまのところの最新作であることは間違い無い模様。

体は連作短編集。先頃レビューした「さよならの手口」以降の年代の話で、
“不幸を呼び込む女探偵”にして“こき使われる書店アルバイト”でもある我ら
のヒロイン、葉村晶四十肩に悩まされる世代となっている。

今現在、五十肩らしき疾患を患っている僕は本当に彼女の辛さが手に取るよ
うに解る(^^;)。体調折り合いを付けながら相変わらずの災難に巻き込ま
れる葉村晶、ちょっと他人と思えなくなってきました(^^;)。

しかし、四十代に突入した葉村晶の周辺には、これまでのクールビューティ
ーさに加え、「笑い」という要素が重要なアイテムに進化しているのが大き
なポイント。これまでもテンポの良い会話の妙、という流れはキッチリあっ
たのだが、毒気の強い書店スタッフのキャラが確立されたおかげか、主人公
・晶との会話に見事なキャッチボールが成立。普通に笑える「楽しい作品」
に仕上がっていると思う。

もちろん、これまで通り随所に散りばめられた伏線とその回収劇も相変わら
ずお見事。新たな作品が出る度に、その精度は確実に上がっているのだから、
ミステリー好きにはたまらない。最高のシリーズだと思います、ええ。

このシリーズ、残りは第0作のアーリーストーリー「プレゼント」のみ。
ソレを読んじゃったらもう終わりなのかぁ・・・。ちょっと寂しいかも。

ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで

▼ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで / 真梨幸子(Kindle版)

真梨幸子・およそ半年ぶり新作
コレ、最初にちゃんと言っておきたいのだけど、この作家のリリースペース
は本当に優秀。年に2冊、確実に新作を楽しませてくれる。僕の好きな作家
さんはこういうペースを守れない人8割を占めちゃってるから、「定期的」
がキッチリしている作家さんは無条件で最高。さすが我が神。

今回のアイテムは「百貨店の外商」
前々作の「カウントダウン」で登場した知ってるようで全く知らないお仕事
に従事する人たちが主役を張る、ある意味でビジネス小説である。

ただ当然、十把一絡げのビジネス小説ではなく、やっぱり最強のイヤミス
どのくらい最強なのかと言うと、リアルに外商の仕事をしている人たちから
大クレームが殺到しそうなくらい最強(^^;)。なんつったって僕自身、今後
“外商”というタイトルで仕事をしてる人たちをそういう目で見そう。っつー
か、既にそういう人種だと思っちゃってるし(^^;)。

正直言えば、カウントダウンで「外商の人」が出てきた段階で、こういう人
たちを主役にした作品もアリなんじゃねぇか?と思っていた。ただ、ここま
で早く期待を作品化してくれるとは思わなかったし、さらにそれがここまで
凄まじい作品になったいるのは予想できなかった。ただただ凄い

おそらく幸子サマ、今現在で僕のいちばん好きな作家で間違い無いかも。
誰にも負けない必殺技を持ち、読み手の期待に応える作品を書く。そして、
コンスタントに新作を提供してくれる。プロレスラーに例えれば、全盛期
藤波辰爾「攻め」「受け」が絶妙のバランスなのだから。

この人の作品、もう滅多矢鱈に誰にでも読んで欲しい
この感情を分かち合いたいなぁ、いろんな人と。

告白 平成プロレス10大事件 最後の真実

▼告白 平成プロレス10大事件 最後の真実 / V.A

プロレス内幕暴露系ムックでお馴染みの宝島社
ところが、最近発行するプロレス関係の単行本、例えば「証言UWF」など
は、暴露本の色合いが少ないかなり良質なモノ。今回の作品も見事にソレ
に該当する、読み応えバッチリの証言集。

興味深かったのは、この手の企画ではなかなか取り上げられることのない
全日本プロレスの話題がいくつかあること。特に秋山準の語る四天王プロ
レスの話があまりに恐ろしい。エスカレートにエスカレートを重ねた結果
が三沢さんの死だとするなら、その原因の一端は間違い無くファンである
我々にもある。正直、いたたまれなくなってしまった・・・。

コレだけでなく、他のどの話題も目の付け所が良い
元Uインターの幹部3名(宮戸・安生・鈴木健)がまさかの再会を果たし
ているし、故・橋本真也さんの夫人であったかずみさんの談話の赤裸々さ
も凄いインパクト。お世辞抜きに、退屈しないプロレス書籍だと思う。

いいと思うな、宝島。
こういう本ならもう毎月出して貰ってもOK。ファンにはオススメです!

悪いうさぎ

▼悪いうさぎ / 若竹七海(Kindle版)

若竹七海女探偵・葉村晶シリーズ第二弾(なのか?)。
このシリーズでは初の長編であり、“不幸を呼び込む女探偵”葉村晶
20台最後の事件。これまた非常に厄介な事件である。

家出した女子高生ミチルを家に連れ戻す、という、わりと簡単そうな
依頼から全てが始まる。大したことの無い仕事のハズなのに、仲間内で
あるはずの人間から思いも寄らぬ妨害を受け、いきなり死ぬ思いまです
不幸の女王(^^;)。そこまでして助けたミチルとその周辺の大人たちか
ら、ミチルの友人たちが次々に行方不明となっている事実を知る。よせ
ばいいのにそれが仕事となってしまい、クビを突っ込んだらまた・・・と
いう内容。

・・・いやぁ、面白い
冷静に考えると設定にかなり無理があり、リアリティの欠片も無い気が
するのだが、実際に読んでみるととにかく臨場感が凄い。サスペンス風
の描写はもうさすがのレベルであり、冷静になる隙さえ与えてくれない
この作家の筆力、もっともっと評価されていい。

そして、ミステリーとしての完成度も相当なモノ。知らぬ間にいくつも
の伏線がばらまかれ、終盤でそれらが一気に回収されていく、という
つものスタイルは本当に気持ちが良い。そして事件の真相は、正直予想
もつかない恐ろしさ。スタンディングオベーションを送りたいほど。

ストーリーが冗長、という意見が多く見られるけど、それはもう好き嫌
いの問題。ハードなミステリーが好きな人は間違い無くハマると思う。
若竹七海、僕は好きです!

・・・残りは最新作第0作(?)があるんだけど、どっちにすべきか・・・。