証言1・4

▼証言1・4 橋本vs.小川 20年目の真実 / V.A

宝島「証言」シリーズ最新作。
こないだまで”証言UWFシリーズ”だった気がする(^^;)のだけど、まぁ
応用の利きそうな企画だし、今回のテーマもなかなか興味深いのでOK。

テーマは「橋本真也vs小川直也」
1999年1月4日、新日本プロレス・東京ドーム大会で行われたあのあま
りにも歪な試合に焦点を当て、各方面の関係者へのインタビューから引
き出した「証言」が、淡々と綴られている。下記が証言者。

第1章:小川を「取り巻いた」男たち
佐山聡、村上和成、ジェラルド・ゴルドー、X(元猪木事務所スタッフ)

第2章:橋本を「守った」男たち
山崎一夫、藤田和之、安田忠夫、加地倫三(テレ朝ディレクター)

第3章:橋本を「見守った」レスラーたち
前田日明、武藤敬司、大仁田厚

第4章:橋本vs小川「至近距離見」の目撃者たち
金沢克彦、辻よしなり、田中ケロ、上井文彦、中村祥之、永島勝司、
橋本かずみ

・・・面白かったのはやっぱりこの手の本に普段出てこないテレ朝加地プ
ロデューサー元実況アナ辻よしなり氏の談話。二人はテレビ局からの
視点を大いに語っており、共に橋本に対する「愛」を感じる内容。生前の
強くて豪快で面白かった橋本真也を、懐かしく思い出せた。

これに対し、小川に好意的な証言をしている人がほぼ居ない、というのは
少々寂しい気も。やり方の問題こそあれ、橋本が最後に輝いたのは、やっ
ぱり小川の存在あってのこと。橋本と小川ではキャラ人間力に大きな差
があるのは否めないが、それでも少しだけ小川直也を認めてあげて欲しい
と思っちゃう僕はヘンなのかなぁ(^^;)。

とにかく、“UWF”という文字が外れ「証言」だけになったことで、掘り下
げられるテーマが増えた気がする。SWSインディの本が出たら読むな、
きっと。

サカナとヤクザ

▼サカナとヤクザ / 鈴木智彦(Kindle版)

完全なる「タイトル買い」
サブタイトル『暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』。コレに
興味を持たないサカナ好きは探す方が難しい。

登場する魚介類はアワビ・ナマコ・イワシ・ウニ・カニ、そしてウナギ
ナマコにはあまり興味は無い(^^;)のだが、他のモノは全て僕の「好物」
としてリストアップされるモノ。この本によると、だが、結論から言え
ば、上に挙げた全ての魚介類は「密漁」が無ければ市場に並ばない、も
しくは並ばなかったアイテムである。

いやぁ、凄い
確かに絶滅危惧種に指定されたウナギが、未だにすき家なか卯のメニ
ューにあることにちょっと引っかかる点はあったのだが、まさかこうい
う絡繰りで闇流通してるとは・・・。そういう、腑に落ちる部分が多々ある、
すばらしいノンフィクション作品だと思う。

いちばん印象に残ったのは、やっぱり北海道・根室方面の密漁の歴史
「ハロー!張りネズミ」でお馴染みの「レポ船」の実態が詳細に描かれ
ている。特に、旧ソ連巡視艇から特攻船と呼ばれる密漁ボートが逃げ
る部分の解説は正に迫真。著者の取材力は半端ではない。

ちなみに鈴木智彦とは、伝説のヤクザ専門誌「実話時代BULL」の編集長
を勤めた、その筋では有名なライター。この取材姿勢、全てのライター
は本当に見習うべき

久々のノンフィクション長編だったけど、殊の外満足。
ジャンル云々の前に、読み物として非常に面白いです。オススメ!

闘魂Vスペシャル伝説

▼闘魂Vスペシャル伝説 / 小路谷秀樹・小島和宏

プロレス関係のMOOKは多々読んでいるのだが、その中でもコレは特殊
フォーカスされているのは1990年代に「VALIS」というブランドから発売
されていたセルビデオシリーズ「闘魂Vスペシャル」。著者の一人として名
を連ねている小路谷秀樹氏とは、そのVALISの社長であり、レンタル全盛時
AV業界を席巻した映像クリエイター。つまり、闘魂Vの制作当事者自らが
同シリーズの秘話を語る、という作品である。

プロレスの中でも相当にニッチな世界なハズなのだが、小路谷監督の談話に
イチイチ頷ける自分にまず驚いた。つまり、僕は闘魂Vスペシャルシリーズ
作品をかなり観ている、ということ。確かに今でもきっと部屋を探せば何本
かのVHSパッケージを発掘出来ると思う。映像メディアといえばVHSしか無
かった時代。当時の販売価格3,800円というのは衝撃だったが、正味30分尺
と考えると、決して安くは無い。当時はかなりの薄給(^^;)。にも関わらず、
こういうビデオに金を惜しまなかった気がする。

小路谷監督の語るところによると、「闘魂Vスペシャル」の素材は、会社を
畳んだ時に新日本プロレスに権利ごと売却しているらしいのだが、新日本内
行方不明になっている(^^;)とか。発掘出来れば確実に配信サービスである
新日本プロレスワールド目玉になる。ぜひ探し出して欲しい。

正直、かなり楽しめました! いい企画だな、このMOOK。

闘う君の唄を

▼闘う君の唄を / 中山七里(Kindle版)

中山七里作品。
相変わらず刺激的なタイトルで、どんな凄まじいミステリーを読ませてく
れるのか?と思いきや、なんと新卒保育教師(しかも)の熱血系お仕事
物語。周囲に合わせて「流す」ことの出来ない、しかし情熱と子どもたち
に対する愛情だけは人一倍ある、我々の世界ではちょっとだけ扱いの難し
い立場(^^;)と言わざるを得ないキャピキャピ系の女性が、モンスターペア
レンツたちに立ち向かい、徐々に信頼を得ていくお話・・・と思いきや(^^;)。

さすがはどんでん返しの帝王
終盤とは言えないとんでもない場所で、あまりに予想外のどんでん返し
仕掛けてきた。正直、中山七里の作品を読むときは、どんでん返しに備え
て伏線を取りこぼさないように注意しているのだが、今回は完全にしてや
られた。序盤で「コレだ!」と思ったエピソードが全く関係無かったのだ
から、思わず苦笑い(^^;)。氏の上を行こう、という考えが非常に甘かった。

というワケで、いつも以上に凄い中山七里の世界が読めることは保証する。
しかし、今回は敢えて「壮大な前振り」部分である熱血保育教師の活躍
注目すべき。中山七里は、ある意味こういう“普通”なお仕事を書かせても
一流であることが解ると思う。

読み応えたっぷりの快作。やられた!感を味わいたい方はぜひ!

知らなきゃよかった プロレス界の残念な伝説

▼知らなきゃよかった プロレス界の残念な伝説 / ミスター高橋

プロレス界の「超A級戦犯」とされるミスター高橋の作品。
ミスター高橋とは、自著の流血のなんちゃら(^^;)でプロレス界の内幕を
バッサリカミングアウトし、各方面に問題を投げかけた元新日本メイン
レフリー

かつての著書については僕も完全に「否定派」寄り。
内容が真実かどうかなんて正直どうでもいい。そういうのを含めて語れる
のがプロレスの良いところであり、だからこそ40年以上プロレスに魅了さ
れてきた。ミスター高橋に対する思いは「余計なことをブツブツと・・・」
といったところ。

そんな僕が何故こんな本を買ったのかというと、コレがもう魔が差した
しか言い様がない(^^;)。無理に言うなら、新日本の黄金時代に外人係とし
て数々の名選手たちと接してきた氏のキャリアだけはバカに出来ず、とい
ったところだが、それが吉と出るか凶と出るか・・・。

・・・凶でした(^^;)。
まず、エピソードが非常に薄っぺらい上に、これまで知らなかった事実が
殆ど無い、というトホホさ。コレに加え、文章があまりに稚拙で、続けて
読むのが苦痛。あれだけ話題になった本を書いておきながら、この成長の
無さが辛い(^^;)。「知らなきゃよかった」と感じるエピソードすら無い、
というのはある意味凄いけど。

そういう風に読んじゃうのは、やっぱり僕にわだかまりがあるんだろうな
ぁ、とは思う。良い意味でも悪い意味でも、プロレスと格闘技に線が引か
れるようになったのは「流血」があったから。しかし、僕は今でもプロレ
スを格闘技の上位概念として捉えている。

意味は違うかもしれないが、格闘技よりもプロレスの方がよっぽど真剣。
「技を逃げずに受ける」という怖さは、いわゆる格闘技には絶対に存在し
ないし、リング上での動き一つを間違っただけで何ヶ月も業界が低迷する
場合もある。ミスター高橋があの本を出す前に、僕は、いや、僕と同じよ
うにプロレスを観てた人たちはソレに絶対気付いていた

だからまぁ、この人に出来るのは余計なことを言うくらいなんだろうなぁ、
と思う。この辺が私利私欲に走った人の限界なんだよね、きっと。
説得力は無いのを承知で言う。買わなきゃ良かったな、この本(^^;)。