誉田哲也の新作は、久しぶりのバンドモノ。
作者が元バンドマンだったのは有名な話であり、過去の疾風ガールシリーズや
RAGEなど、このジャンルを代表する作品が幾つかある。しかし今作、若干だが
色合いが違う。
語り部は全部で3人。
結婚に失敗し、生家である谷中銀座に戻ってきた30台の女性と、同じ谷中銀座
でギターのリペアショップを営む男性、そして女子高生のドラマー。それぞれ
が交互に物語を紡ぎ、最終的にそれら全てが融合する、という素敵な構成。
では何がこれまでと違うのか?というと、テイストがかなり「青春モノ」だと
言う事実。これまでの氏のバンドモノは、力を持った権力者が才能溢れる誰か
を食い物にしようとしたり、ないしは登場人物がアンダーグラウンド系の何か
と関わって危ない思いをする、みたいな流れがあったのだが、今回はそういう
ある意味でわざとらしい障壁が殆ど無い。心に大きなトラウマを持った天才少
女が登場し、彼女が長い時間を掛けてその障害を払拭して行く。
そこにはオンナ同士の友情やバンド愛みたいな感情が溢れており、元バンドマ
ンなら男女の区別なく間違い無くグッと来る筈。
氏の作品を始め、これまで何冊もバンドモノの小説を読んだが、ここまで読後
感の良いモノは初めてかもしれない。なんつったって、倉庫からしばらく弾い
ていないギターを引っ張り出そうと思ったくらいだから。
バンド小説を書く才能は、おそらく誉田哲也の能力がいちばん高い。
警察小説の合間で構わないから、5年に1作くらいこの手の作品を書いて欲しい。
できれば、同じくらいサワヤカなヤツを。